第五隻 1話 ツクヴァル、連れ去られる
◇◇◇
「ツクヴァルそこ片付けるから一回どいてー!」
「俺の部屋まで掃除しなくていいっつうの!」
今日も相変わらずヒロコが俺の部屋に来て掃除をしている。別にやんなくていいって言ってんのに「清潔に保った方が良いから」とか言って床やら壁やら拭き始める。
「バタバタしてて落ち着かねーから外出てるぞ!」
「たまには一緒に片付けようよー!」
「俺はずっとやんなくていいって言ってるわ!」
テキトーに山でもふらつくかと思って散歩する。
昨日まで雨が降ってたけど今は晴れだ。雨降らす雲がどっか行ったのかカンカンに日差しが強くなっていた。
(役場行ってすげえ騒いでたのによくまあ元気だなアイツ)
(つうかあいつのゲルヴィ語俺でも聞きやすいな。やっぱインテリなんだろうな)
(つうかあいつ棚の裏見てねーよな)
ぐるぐるとどうでもいいことばっか考えて歩いていたら、そういやあんま見られたくねーもんが棚の裏にあったの思い出した。
やっぱ帰って片付けんの手伝うかと思って引き返そうとした時。
「……ん?」
ぬかるんだ土に、妙な足跡を見つけた。
◇◇◇
「……それで、さっきツクヴァルがいきなり追い出してきたんですよ!!」
私はというと、急にツクヴァルに追い出されてローロラさんの施療室に来ている。
ローロラさんは文句を言っている私を「まあまあ」と宥めながら紅茶を入れてくれた。
「いきなり『部屋拡張する工事やりてえから外出とけ』とか言って!! もー男の人ってこういうの急ですよね!!」
「晴れてるし、気分が良くなっちゃったのかもしれないわねぇ」
「気分屋すぎますって!! ……それに!!」
先程の会話を思い出す。
『あ……ツクヴァル! 戻ってくるの早いね。実はさ、その、私、話したいことがあって』
『あーわり、それ後ででもいいか』
『えっ?』
「……私ツクヴァルに話したいことあったんですよ!! それなのに後でとか言われて先に拡張工事!!」
「あら、デートのお誘いでもしたかったの?」
「そういうのじゃないですって!!!」
ローロラさんがクスクスと笑う。あいつとデートとか無理だ絶対。エスコートとか苦手そう。
(いやそうじゃなくて!!!)
ブンブン首を振る。
「午前は役場であんなに大変だったのに、急に工事したいとかほんとに元気ですよね!」
そう、今日は本当にバタバタしていたのだ。
『つ、つ、つ、次っ、治安隊の方とも、揉めたら、ギルド申請は、通らなくなるかもしれません』
『なんでですか!? ツクヴァルは……私たちを助けてくれたんですよ!!』
いつも役場の受付にいる、猫耳の……キャッツの女性がメガネを整え、困り顔をして話す。
『え、あ、そ、その、私としても大変遺憾なのですが、やはりその、上層部からそう言われてまして』
『私も異議を唱えたいです……私は治安隊の方に連れ去られそうになったのですよ! それを彼が庇ってくれて!』
『僕も見ていました』
『え、あ、そ、その、しかしぃ』
ローロラさんとパルヤも一緒に証言をしてくれたが、それでもなかなか話が通らない。常に「とにかく上からそう言われていますので」の一点張りだった。
「あんな態度ってないですよ!! ほんとに!!」
そんなことが色々と重なって私は内心ちょっとムカムカしている。
「そうねぇ、私もあれはちょっと酷いと思うわ……」
ローロラさんも納得していないように話す。
「……やっぱりこれも、ツクヴァルがバツ印だからですよね」
ぼそりと話す。それに対して、ローロラさんが少しバツの悪そうな顔をした後に。
「……そう思うわ」
そう呟いた。
「それにね、ここの町の人はもともと治安隊の人に逆らえないの。戦争中に自警団として力を持っていた人たちだから、その時にみんな必要以上に持ち上げちゃったりして……」
「……そういうことがあったんですね」
そうやって持ち上げられていた人達が、今こうやって町の人達を怖がらせている。なんて皮肉なのだろうか。
「……みんなあの時のことを反省すべきだわ。私含めて」
ローロラさんがぼそりと言う。
私はそれに対して上手く言葉を返せなかった。
「悔しいわね。悔しいけど、ここは一旦我慢するしかなさそう……本当にごめんなさい、あの時こんなことに巻き込んじゃって」
「ロ、ローロラさんは悪くないですよ! 一番悪いのはあの人たちの方なんですから!」
少し落ち込んだ顔をしたローロラさんを慰めたくて、話題を切り替える。
「そうですね! とりあえずこう、お礼に祈祷魔法のことを教えてくれるって話、聞きたくって!」
「そうね、暗い話ばかりしてちゃ気分が落ち込むものね。お話しましょっか」
ローロラさんの話をまとめると、祈祷魔法というのは基本的に……止血、抗炎症、毒魔法除去、簡単な体調不良の治療が主だそうだ。
「祈祷魔法はね、毒を検知するだけじゃなくて治すこともできるの。あとは……毒じゃない、体液の乱れや悪い空気を吸ってしまって体調不良になった人も主に治しているわ」
「へえ〜……すごい!便利ですね!」
「あとは身体の一部が熱くなって痛くなる人もいるでしょう。そういうのとかも……」
「パルヤのお店の店長、腰痛あるって言ってましたもんね」
「ええ、痛みを和らげたり熱を引かせたりできるわ」
ためになるなぁ〜と思いながらローロラさんが持ってきてくれた本を机の上でそれぞれ眺めていく。その中には食べ物についての図鑑のようなものもあった。
「あっ、これ……」
「あら、興味ある? それね、美味しい調理方法とかも書かれているのよ」
「あります!! 見たい!!」
レッドポークやオブセンミートの解説がずらりと書かれている。どのくらい焼くと美味しいとか、どのような味付けにすると良いかとか、そういうものが多い。
(アッシュコッコは調理難易度高! 料理に慣れた人がしっかりお肉を見極めて扱わないと食べた時に体液が乱れてお腹を壊す……うわー、鶏料理気をつけた方がいいのはここもなんだ)
つまり、慣れた人がちゃんと料理をしないと安全に美味しく食べられない希少料理。アッシュコッコがオブセンミートやレッドポークよりも少し高かったのは、こういうところもあるのだろうか。
「ちなみにその本、レアなのよ。偉い料理人の方が持ってることは多いけれどね」
「え、そうなんですか! そんなレアなものまで見せてもらっちゃって……!」
「ふふふ、私としてもあんなにお料理が上手な子に見てもらえれば嬉しいし」
ローロラさんはかなりの本好きらしい。そういえば、施療所にはローロラさんの自室以外にももうひとつ部屋があるなと思っていたら、そこは丸ごと書庫になっているようだ。
(と、図書館で見られないような本もあって凄い!!)
じーんと感動する。インターネットも繋がらない、図書館の本も限られているこの世界でこんなに沢山の情報が見られるとは。
「わ、私もこんなに本が見られて嬉しいです! これなんか────」
その時だった。
バンッ!!
突然、施療室の扉が勢いよく開いた。
「ヒロコ……良かった、お前はここにいたか!!」
「わっ!? パルヤ!?」
「パルヤくん!?」
息を切らしたパルヤが、珍しく酷く焦った顔をしている。顔は真っ青で、急いでここに来たからか髪の毛も乱れ、汗もたくさん流していた。
その表情を見て、ただごとではないのだと察してしまった。
「ど、どうしたの……?」
恐る恐る聞く。
そしてその続きの言葉を聞いた瞬間──────背筋が一気に冷たくなった。
「ツクヴァルが……治安隊の奴らに連れていかれた」




