第一隻 3話 女子大生、ダイヤモンドを吐き出す
「は……め、メシ……?」
「そうです、ご飯ちゃんと食べてますか!?」
「なんでメシの話なんか────」
「食べてますか!?」
質問に答えてもらうために私が男に近付いてとにかく大声で聞いた。すると男はびくりと一瞬肩を震わせ、そして訝しげな顔をした後に静かに答えてくれた。
「…………2日前に干し肉食った」
「え、それだけ」
「あと今日の朝に酒」
「酒!?!?」
私がまた叫ぶと男が大きめの舌打ちをした。
「しっ失礼します!!」
「あぁ!?」
ひとまず今のこいつは暴れたりできなさそうだから、顔の方に手を伸ばしてそっと下まぶたの裏側をめくった。
「し、白っぽい……よねこれは……」
スマホを取り出して内カメラで自分の下まぶたの色を確認した。私のピンク色に比べれば彼はまあ白い気がする。
「何触ってんだよ!!」
「ひ、貧血かどうか見てるんです!! 血が足りないやつ!!」
「貧血ゥ!? ってあの軍医野郎が昔言ってたヤツか……?」
「なったことあるんですか?」
「俺はねえよ、そもそも最近デケェ怪我してねえのに血足りねえってどういうことだよ!」
ぎゃんぎゃんと男が吠えるように反論し始める。その横で男の部屋にある棚を漁ってみるがやはり酒くらいしかない。
保存食が置いてあった形跡はあるが……保管方法が酷い。周りはホコリが溜まってるしこの部屋はかなり暑い。
しかも開封した干し肉がむき出しだ。袋の口が開きっぱなしで食べかすまで放置している。今体調が悪そうな人間に食べさせられそうなものではない。
「怪我してなくてもなるんですよ! 貧血は!」
男を引っ張って簡単なベッドの方に連れていこうとする。そいつもそのままじゃ良くないとは思ったのか渋々とした様子で体重をこちらに預けて歩こうとしてきた。
「……お前、神殿の奴だったりすんのか?」
「しんでん?」
「祈祷師の女が高ぇ金取って治癒魔法使ったりすんだろ……」
この世界の祈祷師はそういう役割なのか。願うとか占うとかだけじゃなくて、何かしらの力で傷を塞いだりするのかと理解した。
「い、医者じゃないです」
「医術師とは思ってねえよテメェみたいな常識ねえちんちくりんが……」
(ひ、人が運んでんのにこいつ……)
男をまず運んで寝かせる。やはり力が上手く入らないようで全身の体重をかけるようにドサリと倒れ込んだ。
(でも私本当に医者じゃない、どうする)
私はただの栄養学生であって、正式に資格がある訳じゃない。なら医術師とか祈祷師だとかに見てもらうのがいちばん自然だ。
だけどこいつはお金がない、死体漁りするくらいの人が”高ぇ金払って治癒魔法使ってもらったり”できるわけない。私だってお金がない。
お金はない、のだが。
「…………」
お腹をさすった。
(でも)
一瞬、お母さんとお父さんの頭がよぎった。
(私は、栄養のことを人より少し知ってる)
汗が出た。
男を見た。
ナイフを向けてきて、ひとりで逃げようとして、おまけに態度も悪い、怖い。
だけど…………。
(飢えて、る)
(飢えてるから、こうなってる)
…………。
自分のお腹に力を込めた。
「お父さん、お母さん」
「ごめんなさい」
呟くと男が一度「あ?」と声を出した。
そして、
私はドアを開けて家のすぐ裏側に行き、私の喉に指を突っ込んだ!!
「オエエエエッ!!!」
「!?!?」
女子大生が出して良い声ではない声が響く。ガタンと家の中でベッドが揺れる音が聞こえたがとりあえず良い。
突っ込む、お腹を押す、周辺の土の匂いをなるべく嗅ぐ、それでまた気持ち悪くなる、突っ込む、お腹を押す、吐く!!
(分かってる。絶対こんなこと推奨されない。むしろやっちゃ駄目なやつだ。分かってるけど)
こんな吐き方本来はダメだ。食道が傷つくだろうし、なんか誤嚥とかになる可能性もあるって教わった!
(でも、今は金がない!!)
そして……ついにダイヤモンドの指輪がポロリと喉から出てきた!
急いで口から取り出してハンカチでガシガシと拭く。これだけじゃ汚いと思い男の部屋に入って酒瓶を取り出す!
「効くかわかんないけどアルコール消毒!!」
「テメェェ俺の酒!!」
【TIPS! 嘔吐の消毒は本来アルコールだけではなく次亜塩素酸ナトリウムが有効です! 感染性胃腸炎の原因となるウイルスはアルコールだけでは不活性化しないのです!】
無視してザバザバと酒をふりかける。少し酒臭くなったそれがきらりとまたカーテンの隙間から差し込んだ太陽光に反射した。
そして、
「……下に町、ありますよね」
「……あ?」
「売ってきます!! あとご飯買ってきます!!」
───────私は走り出した、見知らぬ町へと!!
質屋どこか分からないけど!!




