第四隻 4話 ローロラの憎しみ その頃ツクヴァルとパルヤは
◇◇◇
ヒロコがそのローロラってやつのところに行って交渉だとかなんだとかやっている間。
「ローロラさんとヒロコ、平気かな……」
俺とパルヤはその施療所の植木に隠れて、窓の隙間から二人の様子を見てた。
「知らねぇけど平気なんじゃねえのヒロコだし」
「お前、そんな軽い感じに言うなよ……!」
「つうかお前が行きてえって言うから来たけどよ、俺たち完全にストーカー野郎だぞ」
茂みに隠れてヒソヒソと話すとパルヤがギッ、とした目でこっちを向いてきた。
「僕はストーカーじゃないからな、確かに好きな食べ物とかも教えちまって、なんか色々話しすぎたかなとは思ったけど……」
「あのキャッツと仲良いのか?」
「良いっていうか、普通に店長の腰痛で通ってるだけだって。確かに一昨日は17分立ち話したし、その時にまた今度食事屋に行くねって約束されたりしたけど……」
「…………」
俺がパルヤをじっと見ると「なんだよ」とか言いながら後ろへ少し下がった。
「お前……なんかキモ……」
「うるさいな!」
パルヤが俺を小突く。俺が「気が付かれんだろうが!」と言って、でけぇパルヤの頭をグイ、と下げさせると、パルヤは若干顔を赤くして、青筋立てながら俺を見た。
「普通に話すだけの仲だからな」
「あーへいへいそうですね」
俺も気が付かれないように耳をなるべく垂らして窓の隙間から様子を見守る。今んところはヒロコとキャッツの女もフツーに話してる感じだ。
「バツ印見たらカーテン閉めてくるような女のどこがいいんだか」
「それは確かに……そういうことすんのは、やめた方がいいけどな」
そういうところは案外庇わねーのかと思って「へえ」と声を漏らした。
「んでお前どうなったんだよ」
「何が」
「店長に例のこと話したのか?」
ぴたりとパルヤが止まる。そんで少し静かになったあと、「話したよ」とだけ小声で言われた。
「ふうん、どうなったんだ?」
「大喧嘩も大喧嘩。騙してたのかってキレられた」
「ははっ。そりゃ盛大にやったみてーだな」
俺が笑うと、パルヤも小さく「はっ」と笑い、また中の様子に目を戻した。
「まあだから言ったよ正直に。騙してました、店長にバレたら追い出されると思って話してませんでしたって」
「ま、そう言うしかねーだろうからな」
パルヤの横顔を見つめた。
「けどまあ、お前んところは上手くいったんじゃねーの?結局」
「なんでそう思った?」
「スッキリした顔してるからな」
パルヤがまた口元を緩める。そしてため息をついた。
「でも僕は店長に感謝してますって言ったよ」
小さいけど、ハッキリした声で話した。
「店長が偏見っぽいことを話すたびに傷ついてたのは事実。それで僕もビクビクしてたのも事実。けど……」
「あの時助けてくれたのも、事実でしょうって」
「そうか」
窓の方を見直すとヒロコがペコペコお辞儀し始めていて、それを見てキャッツの女……ローロラが笑っていた。
「それでまあ、しばらくちょっとギクシャクしたけど」
「結局働き続けることになったよ。これからも」
「ふうん、お前がキレて追い出されたら俺とヒロコんところのギルド入れようかと思ったけどな。肉担当で」
パルヤが目を見開いて、小さく吹き出すみてえに笑った。
「そもそもお前、まだギルド設立できてないだろ」
「そろそろできるかもしんねーだろ」
パルヤが「どーだかな」とか言って軽口を叩いてくる。で、また中の様子を見ていたらパルヤがぽつりと話してきた。
「お前はさ、なんで俺が向こうの兵士だったって分かってもキレなかったんだ?」
そう、静かに聞いてきた。
「…………」
「ま、白銀の残光は俺みてーな一般兵なんか屁でもねーか。敵国の兵士だったっつっても、お前と俺じゃ実力は天地の……」
「俺の同僚に、逃げようとして撃たれたやつがいた」
パルヤが俺の言葉に黙った。
「…………」
「そいつが撃たれねーで逃げ切れてたら、お前みてーに暮らしてたのかもなって。思ったんだよ」
パルヤはそれに対して。
「そうか」
そうとだけ答えた。
俺たちはそれ以上、喋らなかった。
─────その時、町の方からなんか騒がしい音が聞こえてきた。
◇◇◇
「私自身が、魔獣も食べてみたいから食べているんです!!」
「なっ……!!」
私が叫んだのに対して、ローロラさんは驚いたように目を見開いたあと、また私を睨むように見てきた。
「わっ、私は心配してるのよ!! 大体、あんなやつ見るからにたくさん食べそうだものね!! だから困って魔獣にまで手を出してるんでしょう!? 卑しいのよ!!」
「た、確かに節約になったら良いとも思ってますけど!! だけど節約しながらご飯を美味しくする工夫をすることのどこが卑しいんですか!!」
だけど、負けずに叫んでいく。
ハアハア、とお互い叫び合って息を切らしていた。それでも私はローロラさんに聞き続ける。
「だいたい!! 何でそんなにツクヴァルに対して当たりが強いんですか!? 私や町の人たちに対しては優しいじゃないですか!!」
「あいつがバツ印だからよ!!」
「バツ印だからなんなんですか!!」
「バツ印が、戦争に負けたんでしょう!!」
ローロラさんが歯を食いしばり敵意を露わにしてくる。
「ツクヴァルが弱いわけじゃ……!!」
「あんな地獄みたいな前線にいる兵士なんて強いに決まってるでしょう!! 分かってるわよそんなの!!」
「じゃあなんで!!」
「強いからってほかの兵士を差し置いて食料せ独り占めにして!! それなのに、結局あいつらは負けたじゃない!!」
偏見だけじゃない、憎しみ。
ローロラさんの叫びの中に、心の中に。そういうものが見えた。
「……ツクヴァルのせいで戦争に負けたって言いたいんですか」
「そうよ」
「ツクヴァルが!! ほかの兵士を見捨てたって言いたいんですか!!」
「そうよ!!」
違う。
ただツクヴァルを嫌っているだけじゃない。
それだけじゃない、この人の中には別の憎しみがある。
ここまで話してきて、ずっと感じていた。
ローロラさんは怒っている。だけど、それだけじゃない。時々、ひどく悲しそうな顔をする。
(……この人を)
この人を、ここまで追い詰めたのは何だ。
(この人を!!)
この優しい人を、ここまで怒らせたのは何だ!!
「あなたは!!!」
思いっきり、叫んだ。
「本当は!!」
「何に、怒りたいんですか!!!」
その言葉を出した時、一瞬で部屋が静かになった。
静寂。
お互いの荒い息だけが聞こえた
ローロラさんはずっと、目を見開いていた。
『……おい、ローロラ! おい!』
『一般兵に食料を回すな! 上等兵に回せ! 効率悪いんだよ!』
何かを、思い出すように。




