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第四隻 2話 あの時の祈祷師

「本当に食べられるかの確認が必要だな」


 私もパルヤと同じことを言った時、これでもう食べられると思っていたツクヴァルは若干ムッとしながら尋ねる。


「で、その食っても平気かどうかってのはどうやって判断すんだよ」


「僕のところでは特殊な錬金食器に入れて確かめていたな」


「錬金食器?」


 私が首を傾げるとツクヴァルは知っているのか「あー」と声を漏らした。


「あの毒が入ってるか見抜けるやつか。メシ入れて食器が紫とかになったら毒だってわかんだっけか?」


「そんな便利なのあるの?」


「そりゃな。お偉いさんがメシに毒盛られたりしたらやべーだろ」


 錬金食器。

 パルヤの話によると、毒魔法というのは何種類かあるらしい。まず、魔獣の中に入っている毒だ。ふたつめは植物から生成される毒。さらには錬金術師がそれらを調合して作る錬金毒。これは暗殺などでよく使われるらしい。


「そんな便利なものあるならさ! 解体したお肉をその錬金食器に入れて確かめるとか……」


「この量をか?」


 パルヤに言われて横を見る。


 どっさり。


 かなりの量の解体肉が台の上に積まれている。


「こ、この量のお肉をちまちま小さい錬金食器に入れるしかないってこと!?」


「大きい器が欲しいなら、軍とか役場で使ってる貯水タンクも同じ原理だぞ。めちゃくちゃ高いけどな」


「えーとお値段がいち、じゅう……ひゃ、100万G!!!」


 パルヤが自分用に持っていたカタログを見せてくれたがかなり高額だ。今の私たちに手が届くような値段ではないし、これを買うために働いていたら節約目的が本末転倒だ。


「ど、どうしよう〜!!」


「使う時だけちまちま錬金食器に入れて確かめるしかないかもな……」


「それも考えたけどそもそもツクヴァルの食べる量が多いからそんなことしてたら日が暮れて餓死しちゃうよ!!」


 ツクヴァルが申し訳なさそうに頭をかいて「どうすっかなあ」と呟く。私がわあわあと騒いで悩んでいるのを見てパルヤがため息をついた。


「……僕が作るか?」


「えっ」


「錬金ボウル。僕が住んでた所では、解体した後に一気に器に入れてそうやって確かめてたんだよ」


「パルヤ様ーー!!!」


 パルヤが神々しく見える。ツクヴァルが「おおー」とまた感心したように声をあげた。


「お前そんなのも作れんのか。斧とかも自分で作ってたしな」


「けど僕が作れんのは器だけだぞ」


「器だけ?」


「祈祷師の魔法入れないと効果が発揮しないんだよ」


「祈祷師…………」


 ふと、ひとりの顔が思い浮かんだ。


『ごめんなさい、あそこのラヴィは乱暴でちょっと』


『それに、バツ印だし』


「……話したことがある祈祷師の人、いるっちゃいるけどさ」


 汗がダラダラと出てくる。


「あー、まさかあいつか?町の端の方にいるキャッツの女」


「ツクヴァル、知ってるの?」


「知ってんぞ、あいつ俺のこと見る度にすげえ嫌な顔するからな」


 だいたい予想通りだった。


「ツ、ツクヴァルはその人のこと嫌い?」


「嫌い」


 即答。


「いやでもそりゃそうだよね〜〜……」


「あの女、俺のこと見るたびにあからさまに嫌な顔してカーテン閉めやがって。イラつくんだよ」


 髪を拭き終えてもらったツクヴァルが、どす、と椅子に座る。


「僕に対しては普通に関わってくるけど、お前はバツ印だからってのはあるだろうな」


「それしかねーだろ! ったく偉そうにしやがって……」


「そうやってツクヴァルに嫌な態度してくる人だけど、私の知ってる祈祷師がその人しかいない……」


 ううーんと頭を抱えて悩む。そもそも、知り合いだとしてもその人が快く引き受けてくれるかも分からないし、引き受けてくれることを前提に考えるのも早計すぎるかもしれない。


 それに、ツクヴァルだってその人に頼むのは抵抗感があるだろう。


「……仕方ない、別の祈祷師の方を探してみるしか」


「いいよ別に。一回そいつに話してみたら良いんじゃねえの」


「えっ」


 悩んでいる横で、ツクヴァルがサラリと言った。

 私がツクヴァルの方を見ると、ツクヴァルは眉毛を下げて頭をぽりぽりと掻いた。  


「俺がそいつのこと嫌いだから、別のやつに頼むかとか思ったんだろ? 別に俺は気にしねえし、そいつに一回話聞いてダメだったらまた考えればいいんじゃねえの」


「そ、それもあるけど……」


「いいよ別に。そもそもこれも全部俺ん為にやってくれてる事だろ、お前」


 作業台から離れた綺麗な机の上には、私がパルヤから言われたことを全てまとめたメモがある。ツクヴァルがなにか忘れた時にあとから見返して指示できるように。何かトラブルがあった時に対処できるように。



「そ、そもそも魔獣食べたいって言ったのは私だし。それもまあ節約目的でもあるけど好奇心っていうか……」


「だから」


 ツクヴァルが横から言う。


「その節約とかも俺のためだろ」


「…………」


 その言葉に黙ってしまった。


「……なんだよ」


「ツ」


「?」


「ツクヴァルが成長してる〜〜!!!」


「俺のことガキだと思ってんのか!!」


 感動で思わず涙が出て抱きつこうとすると「くっつくな!!」と言われため息をつかれる。成長したねぇと言いながら胴体に抱きついて頭を撫でるとかなり困った顔をしながら長い耳をぺたんとさせた。


「そうだね! ツクヴァルがそう言うなら一回聞くだけ聞いてみるよ!」


「色々教えようか。僕、店長の腰痛とかでたまにその人のところ通ってるし」


「はいもう是非教えてください!! お名前、好きなお菓子、好きなこと、なんでも!!」


 パルヤに言われ、今回は手作りではなく市販のお菓子を買って手土産にするぞと意気込む。



(名前はローロラさん。好きなお菓子はミド商店のチョコ! キャッツ族で町の色んな人の腰痛とか風邪とかを治してくれていて慕われてる!)


 パルヤから聞いた情報を元に、町へ降りて心臓をバクバクさせながら建物の前に立つ。手土産の入った紙袋が少し震えた。


(なんか、ちっちゃい教会みたいなところだなぁ)


 ここの建物には、「お怪我や不調、診ます」と書かれた看板がぶら下がっている。私の世界にある病院、というよりは本当に小さな教会のような見た目をしていた。小さな窓にはステンドグラスがはめ込まれている。


(断られるかもしれない。もしかしたら嫌なことだって言われるかもしれない。けどちゃんと「報酬も払います」って言って頼むだけ頼みに行くぞ!! 頑張れヒロコ!!)


 ぱん、と自分の頬を叩き鼓舞する。行くぞ!と気合を入れてノックをした。


 そして、この時の私は思いもしなかった、


「錬金食器に祈祷魔法を? いいわよ」


 こんなにさらりとOKされることを。

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