閑話短編 チャーハンを作ろう!
パルヤの精肉店でケースを見ながらぼそりと呟く。
「ここに来てから覚えられない食材の名前が多い……」
何かの力が働いて料理名は上手く翻訳されているのか伝わることが多いけど、食材名だけはピンとこないことが多い。野菜はある程度のものがわかるとして、お肉が未だによく分からないことがある。
(えーとえーとオブセンミートが牛肉みたいなやつで、グランボアがイノシシみたいなやつで、アッシュコッコが鶏肉みたいなやつだっけ!?)
頭をぐるぐる働かせて思い出す。ここに来ていちばん意外だったのが、アッシュコッコは確かに料理に使われることがあるが私の世界ほど一般的ではないことだ。どちらかというと、オブセンミートやレッドポークの方が使われやすいらしい。
(値段見るとアッシュコッコって結構高いし、希少性の問題なのかなー……)
名前については今後ゆっくり覚えていくとして、お肉を買いに来たがなかなか決まらない。どのお肉も美味しそうだし、なによりどれがコスパが良いかでも悩んでいる。
「決まったか?」
パルヤがそう言いながら歩いてきて、ケースの外にぺたんとなにかのシールを貼った。
「んーまだ悩んでて………あ」
そして、そのシールを見て今日のお昼ご飯が決まった。
………。
「と、いうわけで!」
パンパン、と手を叩くとツクヴァルが勝手に寄ってきてキッチンの後ろから私をじーっと見てきた。
「今日のご飯は自己流、卵なしチャーハン!」
「卵なしチャーハン」
ツクヴァルが復唱した。
パルヤがあの時ちょうどよくレッドポークのバラ肉に割引シールを貼っていたのでその分だけ買ってこれたのだ。
「そういえばここら辺じゃあんまり見かけないね、チャーハン」
「俺は食ったことねえな」
文化の違いだろうか。私のいた国の文化とは少し違う独特な要素が見える。
(じゃがいもが入ったコロッケはあったけどチャーハンはそんなにないって、日本と同じって感じでもないんだなぁ)
割引レッドポーク、ネギ、生姜、お米、そして……コーン!
「卵は高いんで……彩りを出すためにコーンにしましたー!」
そう、クッキーを作った時にも思ったがこの世界は卵が高い。アッシュコッコも少し高いのを見るとやはり鶏類関連の食材は貴重みたいだ。
「じゃ、早速作ってくよ! ……じゃあツクヴァルは缶開けてコーン出しといて」
「おう」
後ろでずっとウロウロされていたのでとりあえず役割を与えておいた。
ヒロコ完全自己流レッドポークのチャーハン作り方!
まず、レッドポークのバラ肉を熱くなったフライパンに一気に入れる。そうするとバラ肉の脂が熱で溶けていくので、そこに刻んだネギと刻んだ生姜をイン!
「ツクヴァル、炊いたご飯持ってきてー!」
「へいへい」
先程から何かしらやりたがってるツクヴァルに役割を与えつつ、ネギと生姜の香りが出てきたら直ぐにご飯とコーンを入れて油と馴染ませながら炒める!
「卵があった方がパラパラになりやすいんだけど……」
「卵ってたけえからな」
ツクヴァルがいつの間にか食材の値段の高い安いについて把握していて地味に感動した。
「ほんとにね! 今のうちにお醤油……セーシーをちょっと入れてっと」
こっちの世界にも醤油みたいなものはあった。正式な名前はセーシーというらしく、正確に同じものなのかは分からないけど、味も香りもかなり近い。瓶にブランド名として「キナヤワ」と書いてあるので、そういうところが作ってるのだろう。
「最後に塩コショウで味付けて完成!」
自己流卵なしチャーハン、完成!
部屋の中にレッドポークのジューシーな匂いとコーンの甘い匂いが混ざりあって空腹を刺激する。炒められて熱々のご飯を見て達成感が湧いた。
私の分を盛りつつ、ツクヴァルには皿を渡して自分の分を盛り付けさせ、二人でテーブルへ向かう。
「いただきまーす……ん?」
手を合わせて私がそう言った横で……ツクヴァルが人差し指と中指を二本立て、それを自分の目前でシュッと横切らせた。
そういえば、ツクヴァルは食べる前にこの動作をしていることがある気がする……やっていないこともあるけど。
「それさ、なに?」
「あ?俺もよくわかんねえ」
「なにそれ、よくわかんないのにやってんの?」
「昔教わったんだよ、軍いた時によ。同僚だったやつが食う前はこうしろって言うからやってる」
それを聞いて、もしかしたらこの世界にも私たちがやる「いただきます」と同じ、食べる前の礼儀があるのかもしれない。
(宗教的なものだったりするのかな?)
いただきます、という言葉も仏教などが関係しているかもしれない……と言われていた気がするし。
(その人から教わったこと、律儀に守ってるんだなぁ)
そして、
ツクヴァルが「同僚だったやつ」と言う時、その人は亡くなっていることが多い。
「………」
私も、
ツクヴァルと同じように指を二本立てて前を横切らせて……そして食べ始めた。
ツクヴァルがきょとんとした。
「お前ってそういうのやるブンカのやつだっけ?」
「私は違うよ。けど、ツクヴァルの同僚さんが教えてくれたことなら私もやってみようかなって」
「ふーん……」
ツクヴァルが私を見る。そして、私が食べているのを見ながら手を前にして、
「いただきます」
ツクヴァルがそう言った。
そして、食べ始めた。
「私の真似?」
「おう」
「私の住んでたところはさ、そうやるマナーがあったんだよね」
「毎回やってっからそうだろうなと思ってた」
「あはは、なんかありがとう」
「うめーぞ」
二人でスプーンを進めた。




