第三隻 4話 肉屋の店員には秘密がある
「お前、アノト?」
目を見開いたツクヴァルが肉屋の店員……パルヤに尋ねる。
(アノトって)
私みたいな見た目の種族の人だったはず、と思い出した。
それを聞いたパルヤが少したじろいだ後、すぐにまた睨んで私の腕を引っ張った。
「出てけ!!」
「うわっ!!」
「二度と来んじゃねえ!! お前ら二人とも!!」
そのまま立たされてドアの外へと押し出される。同じようにツクヴァルも追いやられバタンと扉を閉める音のみが響いた。
その後にしん、とした気まずい沈黙が流れる。
「…………」
まだ頭の中を整理できていなかった。
角が取れた? 元々取れるような種族じゃないの? だとしたらなんで偽物の角をつけてたの? なんであんなに怒って─────。
「おい」
ツクヴァルが呆然と立ち尽くしている私に声をかけた。
そして眉を下げて頭をぽりぽりと搔いたあと、
「……一旦飯食わねえか?」
そう言った。
「12時過ぎてんのにまだなんも食ってねーだろ」
「た……たしかに、そうだね……」
ツクヴァルなりの気遣いだろうか。以前レバーの串焼きを買った店を親指でさして行こうと合図する。
そこでオブセンミートのコロッケを買った。
紙に包まれたそれは、まだほんのり温かい。
一口齧るとサクッと衣が割れて、中から柔らかい芋と細かく刻まれた肉が出てきた。
「おいしいね」
オブセンミートは私たちの世界でいう牛のようなものらしい。以前ツクヴァルが食べていたレッドポークはどんなものか結構伝わりやすいけど、オブセンミートはまたこの世界独特の名前だなと思った。
噛むたびに肉の旨味がじゃがいもに染みてくる。塩気も強すぎなくて、揚げ物なのに重くない。サクサクと食べ進められた。
「…………」
近くのベンチに座る。
ふと、頭をよぎった。
『あの子だって明らかによそ者じゃない、あんな暗い髪のアノトってこの辺じゃ見ないでしょ? どこから来たのかしらほんと……』
前に言われたその言葉と共に、
角の隙間から覗くパルヤの黒い髪の毛。
「アノトってさ」
コロッケを食べながらツクヴァルを見る。
「私みたいな種族のこと……だよね?」
「おう。ツノもねえし頭に耳もねえ、横にだけ耳ついてるやつらだな」
「その暗い髪のアノトってさ、良くないの?」
ツクヴァルが腕を組んだ。
「別に良くなくないんじゃねえの?」
「じゃあなんで町の人はこの前……」
「戦争」
その一言で、私は続きそうになった言葉を止めた。
「向こうの国はアノト多かったんだよ。黒とか青とかの髪のやつがよ」
腑に落ちた。
敵国によくいる種族、よくある特徴。
この町の人だけじゃない、この国の人がよく思うはずが無い。
「け、けど私の時は普通に話してくれる人もいたよ? 祈祷師の人とか……」
ツクヴァルには当たりが強かったけど、と心の中で呟いた。彼自身も嫌われていることは何となくわかっているだろうが、余計なことは言わないでおこう。傷つけるかもしれないし。
「お前は確かに向こうのアノトっぽいけど明らかにお嬢だから警戒しねえやつもいるんだろ。あん時とか良い服着てただろ」
「そ、そういうこと……」
「あいつはガタイもいいし、アノトの姿のまんまウロウロしてたらまあ元兵士とか思われんだろうな。だからノトヴァっぽく見せてたのかもしんねー」
「誤解されるかもしれないからその……ノトヴァ? っていうのに変装して隠してたってことかな?」
「誤解じゃねえかもしんねえぞ」
ツクヴァルも思うところがあるのか……
じっと、私の顔を見た。
「本当にあっちの国の兵士だったかもしんねえぞ」
「…………え!?」
私が驚いて声を上げるとベンチの後ろに立っている木から鳥が飛んだ。バサバサと翼をはためかせ、木の葉が落ちる。
「そ、そうなの!?」
「お前あいつに魔獣食う国あるか聞いた瞬間にキレられただろ」
「…………」
「ヴィージ……向こうの国のことな。そこがそういうブンカだとかがあるとこだったら、バレたって思ったんじゃねえの? お前も青髪のアノトだしよ」
「なんか……めっちゃ頭回るねツクヴァル」
「俺が普段は馬鹿だって言いてえのか??」
「いや……元々頭は回るなって思ってたけど、ここまですぐに考えられるとは思わなかったから」
「へん」
ツクヴァルが「分かればいいんだよ」と笑う。
同時にちょっと単細胞と思っていたのも事実ではあるが言わない。
「な」
スカートの裾をきゅ、と掴んだ。
「なんで、こっちの国来たんだろ? あっちからしたら敵だったはずなのに」
「アノトで馬鹿なヤツっていねえしなんかしら頭使って逃げたんだろ」
「それは……ちょっと決めつけすぎだとは思うけど、アノトって頭良い人多いんだ」
「あ? そうか? 悪かったよ」
ツクヴァルがコロッケを食べ終わり包み紙を丸めた。
いや、私もこの世界に来たばっかでなんも知らないのに決めつけすぎって言うのも良くなかったかな。そんなことを考えながら思考をグルグルさせていると、またツクヴァルが声をかけてきた。
「気になるか?」
そう尋ねてきた。
「き、気になりは、する」
「そーか」
ツクヴァルが自分の膝に頬杖をついて目を細めた。
「俺も気になる」
その言葉を聞いて、私はかなり驚いた。
ツクヴァルが、人に興味を持っている。
出会った時のツクヴァルは、自分の言いたいことだけ話したら突き放そうとするような人だった。町の奴らについて話す時だって、「偉そうでクソだ」とか「イラつく」とか、そんなことばかりだった。
それ以外で、他人に関心を持っているような話を聞いたことがない。
「気になるの?」
「おう」
そう返事をした。
「て、敵国……の人かもしれないのに……?」
「おう」
それ以上は語らないといったように、また短く返事をしてきた。
(てっきりあんなやつ放っとけって言うか、敵国の人かもって知って怒るかと思った)
そして、思った。
私だって、この世界の人から見れば暗い髪のアノトだ。
だけどツクヴァルは私の種族に対して何か言ったことがなかった。
確かに最初はお金ないか探すために身体まさぐってきたし、死体じゃないってわかったらナイフを向けてきたし、偉そうだったけど。
だけど、私のことを敵国のアノトだと決めつけて接してくることは一度も無かった。
(いやだからといってツクヴァルって実は良い人! とはならないけどさ)
店員にタメ口使ったりメニュー読めなくてイライラしてちょっと当たってたこととかあったし、完全に良い人だとは思っていない。あと普通にナイフを向けられたことについては個人的にまだ根に持っている。
だけどツクヴァルはツクヴァルで、良い人とか悪い人とか、その前に……
こういう人なのだとまた実感した。
(ツクヴァルのそういうところに、私って助けられてるんだろうな)
目を細める。
「ツクヴァル」
決意して、ツクヴァルに顔を向けた。
「もう一回話そう、あの人と!」
「ツクヴァルが誤解されてたことについてもそれは違うって言いたいし、何より私自身があの人のことが気になるの!」
ツクヴァルに向けられた言葉、「依頼達成したって話もどうせ他のやつからパクって嘘ついてんだろ」という決めつけ。
ちゃんと話して、誤解を解いて、お肉のことも彼自身のことも、色んなことを聞きたい。
「ああ」
ツクヴァルが立ち上がる。
「どうにかあの野郎ん所行って話すぞ」
作戦会議を始めていく。




