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香りに酔った彼氏とはお別れすることになりました  作者: もくずしょい


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3/4

転落

トリヤは突然ふらりとし、鍛錬場で倒れそうになった。


「おっと、大丈夫か?」


「あ、すみません……疲れてるのかもしれないです」


「あんま無理するなよ」


たまたま近くにいた同僚が支えてくれたが、こんなふうにふらつくのは今回が初めてではなかった。


(どうしたんだ……よく寝てるはずなのに。早く……マリーデ様の側に行きたい)


マリーデの周囲に漂う甘美な香りを吸い込むと、霧がかかったような頭の中がすっと晴れる感覚があった。

その“すっきり”は日に日に強くなり、リリアのことは自然と頭の隅へ追いやられていった。


「トリヤが側にいると安心できるわ」


マリーデの言葉だけが、まるで蜜のように脳へ染み込んでいく。

思考がどろどろと溶けていくようだった。


「トリヤも鍛錬のおかげで逞しくなったわね」


「……マ、マリーデ様……」


その時、外が急に騒がしくなった。

ドアを激しく叩く音、何人もの足音が屋敷内に響き渡る。


「……ついにばれたみたいね。クスラ、手筈通りに」


「……はい」


マリーデはまったく焦った様子を見せなかった。


(何が……どうなってるんだ……くそっ、頭が痛い……)


トリヤがうずくまりかけたその瞬間、マリーデの部屋のドアが乱暴に開け放たれた。


「城下警備隊です。マリーデ様に“とある薬”の密売容疑がかかっています」


「く……薬?!なんのことです……?!」


マリーデは“初めて聞いた”という顔で動揺してみせる。


「香水瓶に違法薬物を混ぜ、客に渡していた疑いがあります」


「そんな……私、そんなことしていませんわ。

もしかしたら……そこのトリヤが……。

最近うちの香水を使って、なにやらしていたみたいなのです」


マリーデに指さされ、トリヤは茫然とした。


「ね?クスラ。そうよね?」


クスラはじっとマリーデを見つめ、次に城下警備隊へ視線を向けた。


「通報したのは僕です」


「な……お、お前……私を裏切ったの……!!」


マリーデは目を吊り上げ、クスラに向かって叫んだ。


「あれだけ可愛がったのに、なぜ……!!!」


「可愛がった?実験動物で遊んでただけでしょう、あなたは」


城下警備隊がマリーデとトリヤを拘束する。


「クスラ殿も、一緒に来てもらいます」


「ええ。なんでも話しますよ……なんでもね」


暴れ叫ぶマリーデとは対照的に、クスラは静かに警備隊の後をついていった。



――――――――――――――――――――――――



牢屋の中で、トリヤはただ茫然と座り込んでいた。


(何が……起こったんだ……?一体、俺は……)


奥の方から、ゆっくりと足音が近づいてくる。


「お前、とんだバカだなあ」


鉄格子の向こうに現れたクスラは、ニヤニヤと笑っていた。


「俺がどうしてこんなに身長が低いか、知ってるか?この薬のせいだよ」


「!!」


「小さい頃から、あの女にずっと薬を使われてきた。

どれだけ苦しんでも、どれだけ叫んでも……

誰も助けてくれなかった」


クスラの声は笑っているのに、どこか底冷えするようだった。


「ま、俺はお前のおかげで復讐できたってわけだ。ハハハ!」


トリヤの顔から血の気が引いていく。


「お前も捨て駒で雇われたんだよ。

全部なすりつけられる予定だったんだ。

……まあ、その計画も俺がぶっ壊してやったけどな」


「じゃあ……あの甘い香りは……俺……」


「だいぶ抜けて、頭の中がはっきりしてきたんじゃない?

現実世界に戻って幸せかどうかは……知らないけど」


それだけ言い捨てると、クスラは踵を返し、牢屋から離れていった。

残されたトリヤは、震える手で頭を抱えた。


(俺は……何をしていたんだ……?リリアに……何を……)


リリアの花屋の優しい香りが急に懐かしくなり、

それが更にトリアを苦しめた。


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