表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
香りに酔った彼氏とはお別れすることになりました  作者: もくずしょい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

不穏

あくる日。

職場の片付けをしているトリヤのもとへ、同僚たちが集まってきた。


「突然だな、トリヤ。

結婚して一緒に花屋でもやるのか?」


「聞いて驚けよ。俺、明日から伯爵家のご令嬢の護衛になったんだ」


「……は?お前が?」


「なるべく早く来てほしいってことでさ。

ここを辞めるのも、向こうが急いでるからなんだ」


トリヤは自慢げに言いながら、箱に自分の荷物を詰めていく。


「お前、護衛なんてできるのかよ?」


「見込んでくださってるんだから、これから努力するさ。

じゃ、元気でな」


「お前正気かよ...最近はあの伯爵家もいい噂聞かないけどな...」


軽い足取りで職場を後にしたトリヤは、

そのままリリアの花屋へ向かった。

ちょうど客足が途絶えたのか、

リリアは店内でお茶を飲みながら休憩していた。


「リリア!!聞いてくれよ!

俺、明日から伯爵家のご令嬢の護衛になったんだ!」


「え……?護衛?」


リリアは驚きのあまり、手にしていたカップを落としそうになった。

トリヤはカフェでの一件は伏せ、

伯爵令嬢を助けたこと、

その結果護衛に選ばれたことだけを話した。


「助けたのは……トリヤらしいわね」


「だろ?いつもしてることなのに、こんなに評価してもらってさ!」




そこからトリヤは、伯爵令嬢がいかに可憐で美しいかを熱っぽく語り始めた。


「やっぱり高貴な方は違うよなー。

もう全然違うんだ。あの美しさはどうやっても言葉にできない」


リリアは、目の前で自分以外の女性を朗々と褒めるトリヤに、どんな反応をすればいいのかわからなくなった。


「そんなに……美しいのね……」


「ああ、俺は幸せ者だよ。

そうだ、だから明日から帰りが遅くなるんだ。

今までみたいにここに寄れなくなるけど……

でもリリアも鼻が高いだろ?

なんたって彼氏が伯爵令嬢の護衛になるんだからさ!」


ずっと一方的に話し続けるトリヤに、

リリアは口を挟むことすらできなかった。


(トリヤがこんなに喜んでいるのに……

私ってば、なんて狭量なのかしら……)


そう思いながら、リリアはただうんうんと頷き、

トリヤの話を聞き続けた。




――――――――――――――――――――――――




トリヤの勤務は順調そのものだった。

鍛錬では「筋がいい」と褒められ、

日中は美しいマリーデの側で護衛を務め、

そのたびに「頼りになるわ」と微笑まれる。

トリヤはすっかり有頂天になっていた。

そして、マリーデが纏う香りは、思わず引き寄せられそうなほど甘美で、

胸の奥がふわりと浮くような多幸感があった。


マリーデの屋敷には、日中多くの客人が訪れた。

若い令嬢から高齢の貴族まで、皆が談笑し、

最後には小瓶のようなものを箱に入れて帰っていく。

トリヤはその様子を黙って見守っていた。


「あの小瓶は何なのですか?」


「言ってなかったかしら。うちでは香水も扱っているの。

お客様の好みに合わせて調合しているのよ」


「なるほど」


(マリーデ様の香りも、きっとご自身に合わせて調合しているんだ……

あの香りは、まさにマリーデ様そのものだ)


「最近、バラの数が減っているのか、なかなかエキスが手に入らないのよね」


「バラですか?」


「ええ。お好きな方も多いから困っているの」


その言葉を聞いた瞬間、トリヤの脳裏にリリアの顔が浮かんだ。

そして、その日は帰りにしばらく足が遠のいていた花屋へ向かった。


「リリア!久しぶり!バラが欲しいんだけど」


「トリヤ、久しぶりね。お仕事は順調?

バラなんて、今の寒い季節じゃ手に入らないわ」


「首都の一等地近くで店をやってるんだろ?

色んなツテがあるんじゃないのか?

マリーデ様がどうしても欲しがってるんだ、なんとかしてくれよ」


「そんなこと言われても……」


手に入らないものは手に入らない。

南方に行けばあるかもしれないが、

ここまで運ぶ間に枯れてしまうし、

何より日数がかかりすぎる。


「……ごめんなさい……」


「なんだよ、役に立たないなあ!」


トリヤはイライラを隠そうともせず、

乱暴に店舗のドアをガンッと蹴りつけ、

足早に去っていった。


(そんな……どうして、そこまで言われなきゃいけないの……?)


静かになった頃を見計らって、

アロカが店に入ってきた。


「リリア、大きい音がしたけど……大丈夫か?」


「アロカ……」


リリアは、ここで全部を話したくなった。

けれど、どう説明してもトリヤのことを悪く言ってしまいそうで、ぐっと堪えた。


トリヤはマリーデが香水を扱っていると聞いてからは、リリアの店から花を強引に持って行くこともしばしばあった。

「俺が伯爵家で重んじられたほうがリリアも嬉しいだろう?」と言われるとリリアは強く出られない。


(偉くなるより、側にいてほしい)


その一言が出ないのだ。

止めてほしいと言ってもトリヤは聞く耳を持たない。

そのうち周囲も成り行きを知って、リリアを心配するようになった。


「もう付き合えないって強く言ったほうがいいんじゃないか?」


「アロカ…でも今は慣れない環境でこんなことをしてしまっているのかも」


リリアがへにゃりと笑うと、アロカはもう何も言えなくなってしまう。


「そうだ、珍しいレースのリボンがあったから、

サンプルだけど使ってみてよ」


「わあ、可愛い!ありがとう、アロカ」


アロカは自分なりにリリアを元気づけようと決心した。




――――――――――――――――――――――――



面白い、続きが気になると思ってくださった方は、下にある【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると嬉しいです!読者の皆様の評価やブックマークが、執筆の大きな励みになります。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ