7 仲間
街に向かって歩きながら、ケイドはチーム内で一番小柄な女の子をちょいちょいと呼んだ。
「ルイン、紹介するよ。こいつは土属性の使い手、テッサだ」
「ふふ、よろしくね。ルイン……くん?」
「ああ、俺はルイン。猟師崩れの新人冒険者……ってところかな、よろしく」
俺が握手を求めて手を伸ばすと、テッサは上げかけた手を途中で止め、気まずそうに後ろへ引っ込めた。
どうやら獣の狩猟で土を弄っていたせいで、泥に汚れていることを気にしているらしい。
背中側に逃げ隠れようとする手を俺は掴み、乾いた土がパラパラと剥がれるのも気にせず手を握り合う。「よろしく」と伝えると、彼女は数秒間あわあわとした表情を浮かべてから、パッと弾くように手を離した。
ケイドが「へへっ、テッサのやつ、照れてやがる」と揶揄うと、テッサは「そんなんじゃないし!」と彼をぽかぽかと叩いた。仲のよろしいことで。
そんな様子を見ていた巨体の男女が「がははっ!」と豪快に笑いながら近づいてくる。
「ルインよ、我はヴェイルだ。見ての通り格闘家であるぞ!」
「ミラ。私も格闘家よ。よろしくね、ルイン!」
ヴェイルとミラ、筋骨隆々という言葉の似合う二人が名乗り終えるとケイドはテッサに叩かれたまま俺に笑顔を向けた。
「この格闘家カップルと、俺とテッサの四人でパーティーを組んで……」
「ちょ、誰がカップルよ! こ、こんな大男のことなんとも思ってないんだからっ!!」
「心外である。ケイドよ訂正せよ。我とてこんな大女を伴侶になど、まっぴら御免である!!!」
大男と大女が肩をぶつけながら歩くのを見て、テッサは「あわわ、喧嘩は駄目ですよぉ」と困った顔をする。
そんな様子を見て笑うケイドは俺に「な、仲いいだろこの二人」と耳打ちをした。
微笑ましい光景を見せられて、俺も思わず小さく笑い返してしまう。
話を聞くと、この四人はつい先日この国で行われた属性解放の祭典で出会い、意気投合してパーティーを結成したらしい。
お調子者のケイドが中心になって、まずはテッサを仲間に。その後、祭場で喧嘩していたヴェイルとミラを仲裁してそのままの流れで勧誘。晴れてパーティーの最低人数をクリアした彼ら彼女らは意気揚々と近くの森で実力試し……
というのが今までの流れらしい。そんな出来事を、まるで詩人のように朗々と謳うケイドを見て、仲間達は呆れたような顔をする。「な、すごいだろ」と自慢するような顔のケイドに、俺は心から「すごいな……」と賞賛を送った。
今まで見てきた冒険者共とは違う、純粋な……それこそ冒険譚に描かれるようなプロローグ。しかもそれが作り話ではなく現実に起きた事実だということに、俺は今までにないほど気分が高揚するのを感じる。
ケイドは表情をキリッと引き締めて、真っ直ぐに俺を見た。
「と、いうことでルイン。俺と……いや、俺達の、仲間にならないか?」
ケイドに合わせて他の三人も期待するような目を俺に向けてくる。このチームに加わることが出来れば、わいわいと楽しいひとときを過ごすことが出来るのだろう。
既に関係性が出来つつあるグループに入って上手くやれるのか……という一抹の不安はあるが、この四人もまだ知り合ったばかりらしいので、これからどうにでもなるだろう。
逡巡を振り払って、俺は燃えるようなケイドの目を見返した。
「……わかった。こちらこそ頼むよ、ケイド。俺を仲間に入れてくれ」
俺の言葉を聞いて、四人は一斉に花を咲かせるような笑顔を浮かべた。
「よろしくな、ルイン!」「よろしくね、ルインくん!」
格闘家二人が背中をバシバシと力強く叩いてくる。
ケイドは腕を組んで「うんうん」と満足そうに頷き、テッサは「あ、じゃあ参加申請の書類は私が用意しておくね」と鞄の中を確認しようとするが、ケイドが「そんなのは後でいいだろ!」と言うと困った顔をしながら、渋々手を止めた。
いつの間にか俺達は深い森を抜け、目の前には街の建物が見えていた。四人は慣れた足取りで街道を駆け、土地勘のない俺はその後を追いかける。
たどり着いたのはメインストリートからは少し離れた、地元民しか知らないような細い商店街だ。
一軒の大衆食堂に飛び込むと、店員のおばちゃんと「また来たね、あんた達!」「おばちゃん、いつもの! 五人前!」「おや、一人増えたのかい、おめでとう!」と常連のようなやり取りをする。
猟師をしていた頃の質素な食事ではなく、前世で商人をしていたときの堅苦しい食事でもない。
豪快で温かく、力強く、いかにも「冒険者らしい料理」を前に、不思議な感慨が湧くのを感じた。
◇
その後、酒が入って調子に乗ったケイドをテッサが宿まで連れ帰ることになった。
初めての狩猟を成功させたのがよほど嬉しいのか、肩を担がれながら
今後のことは明日にして、ひとまずは街の中心にある噴水前で再開することを約束し、ひとまず今日は解散することに。
二軒目に向かおうとする格闘家二人を見送って、俺は一人で街をぶらぶらと歩く。
祭りが終わって街を後にする者が多い時期だったらしく、空き宿はいくらでも見つかった。
本来は一見お断りの高級宿さえ、通りがかった人に「もう一泊いかがですか」と呼び込みをしているのを見かける。
ちょうど煙突掃除で稼いだ泡銭があるのを思い出した俺は興味本位で話を聞いて、そこらの安宿にちょっとお値段を足したぐらいの料金と聞いたので、一晩だけ泊まることにした。
値下げしているからと言ってサービスの格が落ちることもなく、前世でも味わったことのないレベルの……まるで貴族のような一晩を過ごした。
地上から離れた三階の寝室で、窓から差し込む朝日で目を覚ますと……なにやら外が騒がしい。
退出手続きをして大通りを歩くが、まるで紛争地帯のような血と埃の混ざる、乾いた空気が唇を乾かした。
道の脇では怪我の手当てをしている人がちらほらと見える。屋根や外壁をバラバラに斬り刻まれ、中には倒壊した建物もある。街の人々は屍人のような表情をしながら、立ち尽くし、泣き崩れ、被災者の救出をしようと瓦礫を掻き分けていた。
「な……にが、起きたんだ?」
間抜けな声を漏らすと、近くにいた衛兵が「冒険者の為業だよ」と呟いた。
呆然と、理解が及ばず、ふらふらと歩いていると、昨日見たテッサの後ろ姿が目に入ったので駆け寄った。
近づくと、なぜ彼女が床に座り込んだまま動かないのか、理解する。
「テッサ……さん」
後ろから声を掛けると、彼女は振り向かず静かに泣きだした。
「ルイン……くん? ねえ、どうして……どうして、ケイドが死ななきゃいけないの」
彼女の目の前には、顔を白い面布で隠された、見覚えのある鎧姿の男が仰向けに寝かされていた。




