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2 脱国

 こうして俺は晴れてというか、前世の記憶を思い出して早々に冒険者への道を歩き出すことになった。


 家に戻ると、事情を知った俺の父が、奴隷商から前金と思われる金貨袋を受け取っている様子を目撃してしまう。

 今世の俺に狩人としての技術や生き様などを教えてくれた、親であり師でもある彼だが、だからこそ期待を裏切った俺を許すつもりはないのだろう。それが例え、実の息子であったとしても……いや、だからこそなのかもしれない。

 幸いにも俺が気づいたことに、向こうは気づいていないようだった。俺は夜中のうちに使い慣れた弓矢や罠を持てるだけ背負って挨拶もせずに家を出る。

 もう二度と戻ることはないだろう。そう決意して最後に実家に向かって頭を下げて……俺は背を向けて歩き出した。


 真っ直ぐに前だけを向いて歩き、振り返っても家が見えない距離まで来た所で立ち止まる。星明かりだけが弱々しく降り注ぐ森の中。今ならまだ、引き返せば何事もなかったように元の生活に戻ることが出来るかもしれない。そんな誘惑を俺は首を振って振り払い、俺自身の内側にある『力』に意識を向けた。

「風……これが、風属性か」

 本来であれば、正しい指導を受けることで初めて覚醒する属性の力を、俺は前世の知識を駆使して理解しようと試みる。


 前世の俺は、商人として人生を過ごす運命にあったので、属性解放の儀式を受けなかったし、当然属性を使う訓練などは受けたこともない。

 だが死ぬまでの数十年で、様々な流派の書籍に目を通していた。

 それは、冒険者という存在への反発であり、同時にそういう生き方への憧れだったのかもしれないと、今更ながらに思う。

 かつて「自分に属性があったなら」と空想した理想の訓練法を、自分自身の身体で試す。


「まずは……体内に循環する属性を感知する。これは出来てるな」

 様々な教本に共通する基礎を順繰りに辿っていく。

 俺の内で循環する属性の流れにイメージを与えることで干渉し、一部を分離する。まるで肉体が引き裂かれたような痛みに襲われるがそれを噛み殺し、主流から外れた属性を四肢に流し両手両足に定着させる。

 本来であれば師の補助ありで数日掛ける、とある流派に秘伝された修行法だ。全身がメチャクチャに破壊されて使えなくなる可能性も承知だが、同時に俺には「なんとかなる」という確信があった。

 通常この修行は属性を解放してから数年後に行われる。だが別の文献には『解放直後が最も柔軟性に優れている』とある。ならば今の俺になら……いや、今の俺だからこそ可能性がある……

 最悪の場合はここで死ぬ可能性もあった。リスクなど承知のつもりだったが、いざ実際に死を目前にすると恐怖が纏わり付いてきた。

「っぐ……ぁぁぁあああああ!」

 死んでしまった方が楽とさえ思えるような痛みをかき消すように大声を出し、俺の中で暴れ狂う風の手綱を掴むように、拳を握りしめる。


 ごごご、ごおぅぅ……どくっ、どくっ。


 まるで嵐が過ぎ去った直後の晴れ間のように、ふっと痛みが凪ぎ止んだ。

 一つしかなかった属性の核が、今は中心核に加えて両手両足にそれぞれ一つずつ、主核に加えて複核四つを加えた合計五つ。

 それらは歯車で繋がるように連動し、俺の身体全体で一つの大きな流れになっていた。

 ガチッガチッとネジを巻くように力を込めると、それが属性の力となって世界に干渉する。直後、俺の身体からふわりと重さが消えた。爪先に力を溜めて放つ。それだけで数メートルは身体が飛び上がった。少し風が吹くだけで吹き飛ばされそうな程身体が軽い。

「これが、属性力。風属性の超跳躍か……」

 まるで、重力の弱い別の星に降りたかのような不安定さ。数秒後に着地をすると、飛び上がった地点からかなりの距離を移動していた。まずはこの状態の感覚に慣れる練習をした方が良さそうだ。


 俺は滑るように夜闇の中を駆けながら、風を噴出して加速する技術も身に着けながら……やがて国境にある結界にたどり着いた。

 属性に目覚めない者には見ることもできない半透明の壁。高さは数十メートルもある長城が、霊脈に沿って延々と伸びている。通常国外へ出るためには、この壁の継ぎ目にあたる関門を通る必要がある。

 だがほとんどの国民にはそもそも出国の許可など与えられることもない。まして猟師すら剥奪された俺のような非国民が関門を抜けるなど、天地がひっくり返ってもないだろう。

 前世の知識もありそのことをよく理解している俺は、初めから関門に向かう選択肢を外していた。

「これぐらいの高さなら、今の俺なら越えられる……」

 俺は風属性を全身に巡らせ、地を蹴り真上に飛び上がる。上昇気流を発生させて、跳躍を加速する。木々の高さを軽々と越え、そのまま星空へと身を投げる。やがて俺の視界は壁を遥かに見下ろしていた。


 関門を無視して国外に抜けるということは、生まれた故郷を捨てると言っているのに等しいことだ。

 このまま向こう側に足を着けてしまったら、二度と戻ることは出来ないだろう。ほんの一瞬だけ躊躇して空中で踏みとどまった。そんな俺の背中を、自然の風がふわりと押した。俺はその風に逆らわず……重力に任せて国の向こうに舞い降りた。

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