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九十三話 街散策と調査依頼

温泉に入り旅の疲れを癒した翌日、俺は宿を出て中央広場へと歩を進めていた。


歩きながら考えるのは昨日出会った金糸の狼少女のことである。


俺は獣人族のことを詳しく知っている訳ではないが九本の尻尾を持つ種族など聞いたことはない。

それに加えてルーヴォルは"幻術”という魔法とはまた違う力を使っていた。


(長生きしてるって言ってたし実は凄い人なのかもしれないな)


それと同時に気になるのはルーヴォルが昨日屋根の上で流していた涙のことだ。


(気にはなるが俺が深追いするのは失礼だろうしな、いつか自分から話してくれるのを待つのが一番だな)

たまたま保養で立ち寄った街で出会った少女だったが俺の中で長く付き合うことになるだろうという予感があった。


しばらくすると大きな噴水が中心ある広場に辿り着いた。


まだ朝方とはいえ多くの人が広場に居たが俺が常に張り巡らせている感覚領域に不自然に薄い気配が引っかかった。


「やはり妾を見つけるか、褒めてやるのじゃアレス」

噴水の台に腰掛けていた金糸の狼少女ルーヴォルが立ち上がり獣人族特有の牙を見せて笑った。


「ありがとうルーヴォル、いつも幻術を張ってるのか?」

「そうじゃ、妾は目立つし人払いの結界は余計な心配をせずに済むから便利なのじゃ」

ルーヴォルは手を広げて自身の身なりを見せた。

太陽の光が反射してキラキラと輝く金色の髪とユラユラと動く獣耳と九本の尻尾を見て俺は内心納得した。

(確かに目立つ)

それと同時に他にどんな術があるのか気になった。


「それで今日はどこを案内してくれるんだ?」

俺は好奇心を引っ込めてそう聞いた。


「うむ、妾も女の端くれだからの女が何をされたら嬉しいか分かるのじゃ、そういった場所を教えてやるのじゃ」

歩き出したルーヴォルに俺は楽しそうな一日なると予感してその背中を追うように歩き出すのだった。


◆◆◆◆


アレスがルーヴォルと待ち合わせをしていた頃、アリスとスカハの二人は冒険者ギルドへの道を歩いていた。

メリア程ではないにしろその端麗な容姿から周囲の視線を浴びながら歩いているとスカハが口を開いた。


「アリスと組むのは何気に初めて、私の役割は何?」

隣を歩く自分にスカハは無表情かつ抑揚のない口調で聞いてきた。


「ー私の役割は矢を急所に撃ち込むことだから私に敵を近づけさせないでくれるのが理想だけど、逆にスカハは何が出来るの?」

出会ってそれなりの時間が経っているがアリスはスカハの戦いを帝城でのカーズ戦しか目にしていなかったので確認の為に聞いた。


「私ができるのは槍を振るうこと、後氷魔法が少し使える」

スカハは指先から青紫色の魔力を僅かに出した、それにより生じた冷気がアリスの頬を撫でた。


「頼もしいわスカハ」

アリスがスカハの実力を再確認したところで丁度ギルドに到着した。



ギルドに入ると驚きと好奇の視線がアリスとスカハを向かい入れたが二人は構わず依頼板(クエストボード)に向かった。


アリスは依頼板の端にある"緊急エマージェンシー”という札が掛かっている場所から目当ての依頼書を見つけて剥がした。

スカハはアリスに全て任せていつも首に掛け帝国での一件から手入れをするようになった首飾りを大事そうに握っていた。


「この調査依頼を受けたいの、これが冒険者カードよ」

アリスは依頼書と一緒に冒険者カードも出してスカハも横から置いた。


「この依頼は二つのパーティーと合同で行ないますが、よろしいですか?」

受付嬢は依頼書を見て、一度奥に引っ込んで再び戻ってくるとそんな事を言った。


「構わないわ、ちなみにどんなパーティーが居るのか聞いてもいいかしら?」

(ゴールド)級パーティー《疾風》と銀鉄(ミスリル)級パーティー《雷の戦鎚》です」

アリスは二つの冒険者パーティーを聞いて僅かに思案した。

(《疾風》は知らないけど《雷の戦鎚》は風の噂で聞いた事あるわね、問題はないか)

そう脳内で判断を下しアリスは依頼書を受け取り、待ち合わせ場所へと向かった。



集合場所は昨日アレスたちと一緒に入った来た西門ということもあり、特に迷うこともなく到着することが出来た。


「ほう、女二人組とは珍しいな」

集合場所に着くとその場に居た冒険者の中でも特に背が高く背中に巨大な戦鎚を担いだ強面の男がアリスとスカハを見て、驚きから呟いた。


「なんで女が二人?、それに滅茶苦茶可愛い…」

さらに動き易い軽鎧に二本の曲剣(シミター)を佩いた男が呟くように言った。


「初めましてテュリンの森の調査依頼を受けた《雷光》のアリスよ」

「《雷光》のスカハ」

アリスとスカハは冒険者たちの奇異の視線をものともせず自己紹介をした。


「おっと、俺は《雷の戦鎚》のリーダー、ガンツだ、宜しくな」

「ぼ、僕は《疾風》のリーダー、マークだ、宜しく」

「戦鎚を武器にした剛の戦士、風魔法を身にまとって動きを加速させて戦う双剣使い」

「「!?」」

スカハが言った言葉に二人は驚愕を浮かべた。

スカハが言ったことが事実だったからだ。


「俺とあんたは初対面の筈だが…?」

「知ってる、今見抜いただけ、体格と背中に担いでる武器を見れば一目瞭然」

なんでも事の無いように言うスカハに今度はマークが言い募った。


「なら、なんで僕の戦い方が…?」

「装備と仲間、動き易い軽鎧に素早い攻撃に向いている曲剣(シミター)、パーティーメンバーに後衛が多い、風魔法はただの勘」

スカハの言葉にマークは口をポカンと開けて呆然としてしまった。


「ちなみに私は弓師だから、一緒に調査依頼頑張りましょう」

聖魔弓アルテミアスを顕現させて言うアリスに冒険者たちの心情は一致した。

すなわちーとんでもないのが来たーと。


アリスとスカハ、《雷の戦鎚》、《疾風》は街を出て目的地のテュリンの森に向かった。



「今から森に入って三時間後にここに戻ってくる、何か意見はあるか?」

森の近くでガンツが皆に向かって言った。


「それとこれはギルマスの予想だがこの異常は"魔物暴走(モンスターパレード)”の可能性が高い、くれぐれも気を配ってくれ」

そのガンツの一言でアリスたちは森に踏み込んだ。


◆◆◆◆


人々の喧騒が聞こえる俺の耳に楽しそうな少女の声が入り込んだ。


「アレス!、これがダリス自慢の"足湯”なのじゃ!」

ルーヴォルは興奮気味に履物を脱いで足元にしかお湯がない不思議な場所に足を入れた。


「足だけを入れるのか…、メリアが見たら喜んで入りそうだな、丁度今のルーヴォルみたいに…」

俺がはしゃぐルーヴォルに視線を向けると丁度ルーヴォルと目が合った。


「なんじゃ?、入らんのか?」

「ああ、メリアと来た時に取っておくことにするよ」

俺が当たり前のように言うとルーヴォルは湯に足を着けたまま縁に腰掛けた。


「メリアというのがアレスの恋人の一人か?」

「ああ、そうだぞ、とても綺麗で俺の最愛の人だ」

気負いなく告げた筈だったがルーヴォルは目を丸くした。


「本当にアレスは恋人たちを大切にしておるのだのう、長生きはしてみるものじゃ」

「婆臭いこと言うなよルーヴォル、その容姿でそんなこと言うと違和感しかないぞ」

俺は縁に胡座をかいてルーヴォルの隣に座りながら言った。


「む、確かに妾の容姿では歳を取ってるように見えないのう」

どうやら自覚はあったみたいだ、俺はルーヴォルの金色の瞳を見て言った。


「俺は金の糸のような髪と尻尾を見た時はとても美しくて驚いたけどな、それにルーヴォルは目を見張る程の美人だったし余計にビックリしたんだ」

宿屋の屋根で会った時のことを思い出しながら言うとルーヴォルの顔が真っ赤になっていた。


「おい大丈夫か?、顔が真っ赤だぞ?」

「アレス、お主は天然の女たらしと呼ばれたことはあるかのう?」

ルーヴォルの口からもいつぞやにスカハから言われた単語が飛び出した。


「言われたことはあるかもしれないけど、今関係あるのか?」

「この尻尾とかこの耳とか気にしないのかえ?」

俺の言葉を無視してルーヴォルは自分の尻尾と耳をずいっと押し出すように見せて言った。


「普通に綺麗だと思うけど…、ルーヴォル?」

ルーヴォルは足湯から足を上げて俺の胸板と腹に押し付けてきた。

「お主は自分の存在を猛省するべきなのじゃ、こんな老獣にそんなこと言うお主はバカなのじゃ」

「存在を猛省!?、酷い言い様だな!?」

足で攻撃してくるルーヴォルに俺はそう叫ぶのだった。

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