九十話 喧嘩と宿探し
「この街凄いわアレス!」
メリアが街に入った途端抱きついてきた。
「ああ、凄い、想像してたよりも大きな街だな」
俺はメリアの銀髪を撫でながら呟いた。
実際ダリスは帝都や王都には及ばないものの、ノイスやカリスに匹敵する規模の街でありそこら中から湯気が立ち上っている。
「あれがこの街名物"温泉”の湯気ですよ、いたるところに湯源があるんです」
感動している俺たちを見たベリルが解説するように言った。
「むー、確かに変な匂いがする」
スカハが自身の鼻を摘んで顔を顰めた。
「多分それが温泉の匂いよ、体に悪いものではないから大丈夫よ」
「アリスはダリスに来たことがあるのでござるか?」
街を見回していた輝夜がアリスに疑問顔で聞いた。
「父から聞いた事があるのダリスの温泉は疲れが取れるからってよく行ってたそうだから詳しく話してくれたのよ」
アリスはどこか懐かしむように言った。
「あのー、私たちは冒険者ギルドに行きたいんですが…」
ベリルの冒険者仲間、軽装の斥候が恐る恐る聞いてきた。
「ん?、ああ、済まない俺たちも行くよ、休暇に来たとはいえギルドには顔を出しとかないとな」
俺たちはベリルたちの後ろに着いていく形で街を見ながら冒険者ギルドに行くのだった。
「かなり良い街だな、やっぱりここにするかー」
「どうしたのアレス?」
思索しながら歩いているとメリアが横から声を掛けてきた。
「いや、かなり良さそうな雰囲気の街だからメリアとデートするならここでやりたいなと思ったんだよ」
俺は湯気が立ち上る街並みを指して言った。
「私もそう思ったけど、大丈夫なの?」
メリアは知らない街だけど大丈夫?、という視線を俺に向けてきた。
メリアはアレスとのデートを楽しみにする一方アレスに負担をかけないか心配しているのだ。
「メリアが心配する必要はないよ、これは男の役目だし好きな女の子を楽しませる方法を考えるのも楽しいしな」
「ーアレスはずるい」
俺が笑いながら言うとメリアは頬を赤らめて、顔を腕に押し付けてきた。
「あのー見てきましたよ、冒険者ギルド」
俺が少し歩きにくいなーと思っていると凄く申し訳なさそうな様子でベリルが言った。
「あー、その気にしないでくれ、頼む」
「わ、分かりました」
変な空気のまま俺たちは冒険者ギルドに入った。
◆◆◆◆
「僕たちは報告に行ってきます」
「あ、前を見るで…」
輝夜が制止する前にベリルは走り出して前に居た冒険者にぶつかってしまった。
「痛っ!」
「あぁん?、何だ《逃げ足》のベリルとその仲間じゃねぇか!」
ベリルがぶつかった冒険者は倒れたベリルを見て嘲笑の声を上げた。
「お、お前はガリル」
ベリルは目の前の冒険者、ガリルを見て怯えたような顔を見せた。
「何だ今日も魔物から逃げてきたのか?、その様子だと本当見たいだな、ギヤハハハ!」
ガリルは仲間たちと一緒にベリルを見てそう言って笑い声を上げた。
ギルドの中に居るものたちはそんな光景を見て静観していた、察するにいつもの光景なんだろう。
「おい」
俺が低い声でそう言うとガリルは初めて俺たちに気づいた。
「おうおう、四人もの美人がこんなところにいるなんて、どうしたんだ…」
ガリルは俺を無視してメリアたちに近づいた。
メリアたちは身構えて声を出そうとした瞬間、ガリルが吹き飛んだ。
ガリルは思いっきり酒場のテーブルや椅子に突っ込んだ。
「ーーえぇ」「ーーーー」
冒険者ギルド内の人達が呆然とする中、アレスは怒気を吹き上げた。
「俺の恋人たちに近づくんじゃねよ」
アレスがガリルの巨体を蹴り飛ばしたのだ。
俺は倒れたベリルを助け起こした。
「それとベリルを侮辱することも許さん」
「何しやがるんだァ!?てめぇは!」
ガリルは青筋を立てて、怒った。
「あのガキをぶっとばせ!」
「うおぉ!」「うあぁ!」
ガリルとガリルの仲間四人が殴りかかってきた。
「はいはいベリル君、こっちよ」
メリアはすかさずベリルを引き寄せた。
「えぇ!?、助けなくて良いんですか!、ガリルは銀鉄級冒険者なんですよ!?」
「心配ない」
ベリルは何も心配していない様子のスカハを見た。
「彼奴とアレス、格が違う」
スカハがそう言った瞬間、アレスも走り出した。
「オラァ!、うぼぉ!」「あがぁ!」
「ふっ!」
俺は前に突出した冒険者の顎を蹴飛ばして、拳をもう一人に頬にめり込ませた。
さらに一人の足を引っ掛けて転ばせて踵を鳩尾に落とし、最後の一人の殴りかかった拳を避けて腕を掴み、腹に拳を打ち込み投げ飛ばした。
「くそがァ!」
「逃げることの何が悪い!」
俺はガリルの拳を避け、頬に蹴りをかまして吹き飛ばした。
先に倒した二人が再び殴りかかってきた。
「ベリルは格上の魔物相手に恐怖で屈しなかった!」
拳を構えて、一人の顔面に打ち込み怯んだ隙をついて、もう一人の蹴りを勢いそのままに受け止めて怯んだ男に投げつけた。
二人は酒場のテーブルに思っきりぶつかってピクリとも動かなくなった。
「お陰で俺たちが間に合ったんだ!」
「だから何だ!」
ガリルが投げつけてきた椅子を避けた。
痺れを切らした最後の一人がナイフを抜いて、襲いかかってきた。
「ベリルを侮辱することは…」
「へぶぅ!」
ナイフを襲ってきた男の足を攻撃し、顔面に膝蹴りをかまして倒した。
ガリルが振るったボディブローをしゃがんで避けた。
「助けた俺たちを侮辱するのと同じなんだよ!」
「がばぁ!?」
ガリルの顎に拳を打ち込み、トドメに蹴りを腹にかまして気絶させた。
「あ、あ、ガリルたちを…」「鎧袖一触にした、何者だ、あの青年…」
ギルド内の人々が呆然とアレスを見る中、スカハがとてとてと近づいた。
「アレス、拳、痛めてない?」
「大丈夫、闘気を纏ってたからな」
先程の乱闘がなかったかのように振る舞うアレスにベリルは焦りの顔をした。
「殺してないですよね!?」
「当たり前だろ、気絶してるだけだ、それよりもあの森の異常を報告しなくていいのか?」
俺の言葉に我に返ったベリルは同じく唖然としていた受付嬢のところに走り出した。
「派手にやったな、バハムート」
数分後二階から降りて来た隻眼の大男が俺を見て開口一番にそう言った。
「お前の活躍はアドモス王国のギルド長たちからよく聞いてるからな」
「ああ、通信魔道具か、それとこの惨状で何か弁償することがあるか?」
流石にギルドの物を壊してしまったので弁償をしようと思ってそう言った。
「まぁ、本来だったら弁償代を請求してたが今回はお前の冒険者ギルドへの活躍に免じて請求しない、元々ガリルたちは問題児だったしな、逆にお灸を据えてくれたありがとよ」
「それはありがたいが、あんたはここのギルド長だよな?、ならベリルの話を少し聞いて欲しいんだが…」
「ベリル?、ああ、新人のか、良いぜ、ダリス冒険者ギルド長バレンが聞いておこう」
俺はギルド長バレンに感謝してギルドを後にした。
◆◆◆◆
「さてと宿を探しますか」
「うん、安くてもいいから快適なところが良い」
「拙者はアレスと一緒に温泉に入りたいでござる!」
「それは俺の心臓が持たないからダメだ!」
俺はすぐさま輝夜の案を却下した。
「あんな乱闘があったのによく元気に宿探しが出来るわね」
アリスが呆れたようにアレスを見て言った。
「ふふ、アレスがあんな乱闘騒ぎで何か思うことはないわよ、今日は珍しく怒ってたけどね」
「あの冒険者がベリル君のことを侮辱したからでしょ、アレスも言ってたけど自分が認めたことを否定されるのは自分を侮辱されるのと同じよ」
「なるほどねー、アレスらしいわ」
アリスの言葉にメリアは納得するように頷いた。
「それはそうとメリア…」
「ん?、どうしたのアリス?」
何故かメリアの背中に隠れるように歩くアリスを不思議そうに見るとアリスはチラチラと周囲を見た。
「なんか見られてない?」
アリスの言葉で改めて周囲を見ると道行く人たちが前を歩くアレスたちはもちろん、アリスや自分のことも見ていた。
「気にしない方がいいわよ、ほら、なんというか私たちって目立つでしょ?」
自身の胸に手を当てて言ったメリアにアリスは納得顔になった。
銀髪が美しく誰が見ても美人だと分かるメリアを筆頭にアレスを含めてみんな容姿端麗だからだ。
「というか私も入ってるの?」
「え、当たり前でしょ、アリスは可愛いわよ、この長い耳とかねー」
メリアはアリスの背中に回ってエルフ耳を撫でた。
「く、くすぐったいから止めてよ、アレスにやられるのならともかくして……」
「ふふ、アリスももうアレスにゾッコンね」
「うるさい、メリアほどじゃないわよ」
ゾッコンという所は否定しないアリスはメリアを袖にして進んだ。
「仮面がない方がいいでしょ?、アレスにいつでも見てもらえるし」
「いちいち内心を読み取るな!」
恥ずかしさで声をあげるとメリアはクスクスとおかしそうに笑った。
「メリア、アリス、この宿屋にしないか?」
前を歩いていたアレスが振り向いて聞いてきた、どうやらどの宿屋にするか目星がついたようだ。
メリアは律儀に意見を聞いてくれるアレスに対して笑顔を浮かべて、アリスもそんなメリアに呆れつつも嬉しそうな笑みが浮かべるのだった。




