八十七話 覚醒のスカハと決別の奥義
スカハを傷つけられて怒ったメリアとスカハが現れた壁からやって来た輝夜、アリスが一人の魔族に対して戦意を高めた瞬間、爆発的な何かが吹き荒れた。
「スカハ…その覇気は…!」
アレスの驚く声にメリアたちがアレスとスカハの方向を見ると倒れるスカハの全身から魔力とは明らかに違う、青紫色の覇気が立ち上っていた。
「何!?、まさかのこの土壇場で覚醒に至ったのか!?」
魔族が驚きの声を上げた瞬間、スカハの腹に刺さっていた剣が飛び抜けた。
「私は…」
近くに落ちていた二本の槍がスカハに吸い寄せされるように飛び、目を開き起き上がったスカハが掴み取った。
「…お前を今度こそ倒す」
スカハの握る二本の槍がスカハの覇気に反応するかのように色を変えた。
金色の槍アスールはスカハの覇気と合わさるように色を変え蒼く煌めく蒼銀色に塗り変わった。
赤色の槍カラドボルグは青紫色の覇気と溶けるように合わさり、スカハの瞳と同じ藍色に変わった。
スカハの覇気が螺旋状に立ち上り、覇気の波動が謁見の間を撫でた。
それに呼応するように、スカハの容姿が変化した。
二本の角が伸びてさらに捻れた、魔族の象徴である角が伸びるという光景に呆気に取られているとスカハの変化はそれでは終わらなかった。
髪の色が変化し僅かに藍色が混ざることで鮮やかな青紫色に変わり、肩口まで伸びていたのがまるで成長するかのように腰ほどまで伸びた。
背中から一対の青紫の翼がバサッと広がるようにして現れた。
魔導服が背中の翼と青紫色の覇気と共鳴するように淡く光るとスカハが先程まで負っていた傷が全て塞がり、魔導服も巻き戻るように再生した。
それと共にスカハの身長も伸びて、メリアと同じくらいに成長した。
そして全ての終わりを告げるように、魔導服の至る所に紫と青の線が走り昇る龍のような紋章が両裾に現れた、元々あった交差した槍のレヴィアタンの紋章は一回り大きくなり、スカハの力が増したことを明確に表した。
「これが魔族の覚醒か……」
あまりの変化に呆然と呟くとスカハは肩越しに振り返った。
「ありがとうアレス、皆、お陰で私は自分の扉を開けた」
成長したスカハは思わず息を呑むほど美しく、柔らかい笑顔で微笑んで言葉を紡ぎ俺とメリアたちに向かって言った。
「ふざけてるじゃねぇ!、生まれて十数年足らずの魔族が覚醒に至るだと!?、有り得ねぇ!」
魔族、スカハが見る目から察するにおそらくカーズ・オルテイシア、は狂ったように叫び散らした。
「残念だがこれが現実だ、カーズ・オルテイシア」
スカハが槍を切っ先を向けて、宣告するように言うとカーズは床を踏み砕く勢いで駆け出した。
「有り得ねぇ!、生まれて十数年程度のてめえが俺より才能があるなんて!、"魔連黒弾”!!」
漆黒の覇気が纏われた拳の雨が降り注いだ。
(遅い)
漆黒の拳郡が迫る中、一人スカハは内心呟いた。
先程まで認識するのも難しかった攻撃がハッキリと捉えられる、これが《覚醒》へと至ったことで得た、全てを強化する力、龍闘気、神気、呼び方は幾つもあるが敢えて名ずけるのならば、魔族であるスカハにちなんで"氷魔気”となるだろう。
「"幻槍流 刺烈驟雨”」
スカハの魔力と合わさり、瞬く間に現れた冷気がスカハの全身を覆うことで槍に氷が纏われ、霞む速度で放たれた刺突の雨がカーズの拳郡を全て相殺した。
「なぁ!?、くっ!?」
驚くカーズの声を無視してスカハは前に踏み込み長く伸びた髪が揺れるのに合わせて時間差で刺突を放ち、回避行動を取らせた。
翼を使い上へ逃げるカーズに素早くスカハも翼を使って翔びカーズと同じ高さに至った。
「くそ!」
翼を巧みに使い、カーズが繰り出す技を翼を上手く使うことで避けた。
「何でだ!、飛んだのは今が初めてだろう!?」
メリアの飛翔術を真似しているとは言わずに刺突を繰り出す。
「"螺穿”!」
避けるのを当然として想定して魔力を貯めたもう一方の槍から刺突を放つ。
「ぐわぁ!?」
ここで初めてカーズの覇気の防御を貫き、腕を負傷させた。
「がぁぁあ!!」「はぁぁ!」
拳と槍がぶつかり合いお互いの魔力と覇気の激突が眩く謁見の間を照らし、カーズの拳を槍で受けるのではなく翼を操作し回転するように避けたスカハの踵蹴りがカーズの脳天にぶち当たり、人体とは思えぬ轟音を立てて床にめり込ませた。
スカハは魔力を吹き上げ加速すると上から槍を握り床と槍を突き出した。
辛うじて起き上がったカーズが魔力と覇気を纏った拳でカードするも上からの加速と覇気が伴ったスカハの一撃は防げず、肩に槍が刺さった。
槍をわざと捻り、傷を広げてから槍を抜き地面に降り立ち、再び二本の槍を構えた。
「がぁぁあ、くそ!、左腕は使いものにならねぇ!」
スカハの槍は的確に腕と肩の継ぎ目の筋肉を貫き、カーズの片腕を使い物にならなくした。
スカハは息を整えつつ魔力を練り、油断なく槍を構えた。
「《覚醒》に至ったばかりなのに、そこまで力があるお前は何だ!、下手するとオリオンよりも上だぞ!」
敵ながら父さんより上という評価に嬉しさから思わず笑みが零れた。
「元々お前は父さんより下、娘の私がお前に負ける道理は無い」
表情を引き締めてスカハは凍てつくような表情を浮かべて言い放った。
「お前は父さんを殺しただけ、正面からぶつかり倒したわけじゃない、お前が覚醒に至ったのは時のお陰だ」
魔族が覚醒する条件は二種類存在する、一つは長い時を生きて修練することでたどり着く方法、そしてもう一つはスカハのように自身を貫き通す覚悟を先祖に示し己の魂を昇華させることだ。
「黙れぇ!!」
カーズは使い物にならない腕を垂れ下げたまま、動くもう片方の手を腰だめに構えて、正拳突きを放った。
「"幻槍流 流浪水月”」
二本の槍が左右に振るわれ、切っ先から円を描くように放たれた水の紐がカーズの腕に巻き付き、スカハは渾身の膂力で持って投げ飛ばした。
轟音を立ててスカハが先程ぶつかった側の壁にぶち当たった。
「いや!、強くなりすぎでござるよスカハ!」
スカハの戦いぶりを見て輝夜が戦慄するかのように言った。
「見た目変わりすぎだし!、これは色々不利になるかも…」
メリアは流し目を謁見の間の一角に居るアレスに送った。
「覚醒してさらに洗練された槍捌きに体捌き、見惚れるよスカハ」
アレスの褒め言葉にスカハが思わず頬を赤らめていると、破砕された壁からカーズが出てきた。
「やっぱりレヴィアタンは格が違う、流石は八種の血筋の一つなだけはあるな」
フラフラと出てきたカーズの手にはカリスで見たような丸薬が握られていた。
「なら!、薬を使うしかねぇよなぁ!」
カーズが丸薬を口に含むと、筋肉が膨張して先程スカハがつけた傷が塞がった。
カーズの圧力が倍になったように感じたが、スカハの表情に焦りは皆無であり、ただ無言で二本の槍に氷魔気と魔力を収束させ鋭く収斂し続けた。
まるでそんなことをしても何も変わらないと告げているように見えた。
「死ねぇ!、クソガキがぁぁ!!」
瞬足で地面を駆けてカーズは己の最大の攻撃を放つため魔力と覇気を存分に貯めた。
スカハもまた一歩を踏み出す、しかし速度は驚く程に遅く、傍目には何をしているのか理解出来なかった。
理解出来たのはこの場ではアレスと輝夜のみだった。
「"幻槍流…」
全てを圧倒するような冷気が吹き出てスカハの周囲が凍てつき始めた。
「…奥義…」
"氷魔気”が螺旋状に立ち上り青紫色の髪が舞い上がる、スカハが見据えるのはただ一点のみ。
「……霞ノ槍”!」
カーズが間合いに入った瞬間、スカハの槍が躍るように動き、あたかも何人ものスカハが現れ攻撃したように見えた。
交差した瞬間、魔力と覇気が広がりこの場にいる人々の髪を吹き撫でた。
「私は歩み出す、過去を乗り越えて、私はお前を踏み越えた」
カーズの体が無数の刺突に穿たれたかのように血を撒き散らして床に倒れた。
スカハが過去に決着をつけ前に進み出した瞬間だった。




