八十四話 召喚魔方陣と望まぬ最悪
「流石は私のアレス!、格好良過ぎるわ!」
メリアは天使の翼を広げてアレスに抱き着いた。
アレスは苦もなくメリアを受けて止めてメリアのサラサラの銀髪を撫でた。
そんな二人はメリアの銀色の翼とアレスの黒紅色の龍翼が相まってまるで物語のワンシーンのように見えた。
「ありがとうメリア、滅茶苦茶嬉しいよ」
「うんうん、そうだ!、《龍闘気》を使って翼を生やすなんて何時から出来るようになったの?」
アレスの首に抱き着いたまま、身を引いてアレスの顔を見てメリアは聞いた。
「実は輝夜と戦ったあの時から翼を広げること自体は出来たんだけど今までは飛ぶのを練習してたから使わなかったのさ」
メリアはアレスの言葉から輝夜との決着の瞬間アレスの背から生える龍翼が見えた気がしたのを思い出した。
「練習してたんだったら私に相談してくれたら良かったのに…お陰でビックリしたわ」
暗にアレスと一緒に鍛錬出来たと言うメリアにアレスは内心苦笑して答えた。
「ごめんよ、メリアたちを驚かせたくてさ、こっそり練習してたんだ」
アレスの言葉と共に左右に広がっていた龍翼が小さくなり完全に魔導服に収納された。
アレスが《龍闘気》を収めたからだ。
「許してあげるわ、その代わりに今度二人きりでデートがしたいわ!」
「で、デート?」
メリアの発言に驚き俺は言い淀みつつ聞き返した。
「そうよ、何だかんだ言って初デートは輝夜に取られちゃたし冒険者生活がずっとでアレスとデートをしたことが今までなかったわ」
思い返して見ると確かに一緒に行動したことは沢山あったがあれらがデートと呼べるものではないことぐらい流石の俺でも分かった。
「分かったよ、今のゴタゴタが全部終わったら改めてデートに誘うよ」
「約束だからね」
メリアは念を押すように言ってアレスの手から地面に降りた。
「終わったかしら?」
いつの間にか自力で治療して足に包帯を巻いたアリスが不機嫌声で言った。
「うん!、ありがとう気を使ってくれて」
アリスを見て嬉しそうに言うメリアにアリスはそっぽを向いた。
「別にメリアのことが嫌いな訳じゃないもの…」
「アリスの治療が終わったら城に突入しようと思ってるけど、行けるか?」
俺は心配の目でアリスを見ながら言った。
「アレスから貰った回復瓶と包帯を使って治療したから大丈夫よ」
アリスの言葉が強がりでないことを理解して、俺は頷いた。
「よし、なら帝城に侵入してスカハたち合流しよう」
スカハたちが帝城に侵入してからかなりの時間が経っている筈だ、心配の心から思わず走り出す足に力が籠るアレスだった。
◆◆◆◆
ドカンッ!!
大きな音が響いて帝城正面の巨大な扉が開けられた。
さらに侵入してくる影が三つ、偶然扉の近くに居た《降魔の盃》の戦闘員たちが警戒するがそれは無意味だった。
桃色の髪を持つ少女 アリスが一呼吸のうちに放った矢が全ての戦闘員の眉間を撃ち抜き打ち倒した。
「うぁぁぁ!!」
「え?、執事さんにメイドさんが居る?」
辺りを逃げ惑う執事とメイドさんを見てアレスが困惑の声を上げた。
「多分ギーラの闇魔法が解けたからよ」
「構ってる暇はないわ、あんた達死にたくなかったらどこかに隠れてなさい!」
アリスは周囲を逃げ惑う執事さんたちに言い放ち駆け出した。
「ああ、敵と間違って斬りたくはないからな」
「結界を張って守ってあげたいけど、今は無理だから隠れる場所を見つけて隠れるのよ!」
俺とメリアはそう言い残してアリスの後を追った。
「アリス!、この階段の先から膨大な魔力を感じるわ」
メリアが巨大な階段を駆け登りながら前を走るアリスに言った、
「この先?……まさか!、謁見の間!?」
「謁見の間って、不味くないか?」
メリアから聞いて知ったことだが謁見の間は国の主が公式で人と会う為に使う場所であり、国の力を示す最たるものだ。
「もし破壊なんてされてしまったら帝国の威信は地に墜ちるわ」
「何をしてるかは分からないけどとにかく急ごう」
俺はメリアとアリスと頷き合い高速で階段を登りきり、驚くほど天井が高く広い廊下を駆け抜けた。
「魔力の密度が増したわ!」
謁見の間らしき巨大な扉が見えた瞬間メリアが叫んだ。
「あれが謁見の間の扉よ!」
アリスが巨大な扉を指さして叫んだ瞬間俺はさらに踏み込んでアリスを追い抜いて目の前の扉を蹴破った。
扉を蹴破った視界に入ってきたのは闇色に輝く複雑な模様の円形陣とその中に倒れる豪奢な服を着た壮年の男と数人の男たちだった。
そしていきなり入ってきた俺を驚くように見る円形陣の周りに立つ魔族たちと玉座に座る中年の男。
「アレス!!、その魔法を発動させては駄目!!」
いつになくメリアの逼迫した声が聞こえた瞬間、俺は《蒼の雷眼》から蒼雷を放った。
両眼から放たれた蒼雷は左右に別れて迸り、蒼雷が駆け抜けた頃には円形陣に立っていた魔族たちは吹き飛び謁見の間の奥に飛んでいった。
これで闇色の光が収まると思ったが逆に闇色の光が増して謁見の間を照らした。
「不味いわ!、魔力暴走を起こしてる、制御しないと!」
メリアが前に出て床の陣に触れた。
「な、何だ貴様ら!?」
玉座に座っていた中年の男が唾を飛ばす勢いで怒声を上げた。
「貴方はジギス!、この裏切り者!」
アリスが聖魔弓に矢を番えて玉座の男、ジギスを狙った。
アリスが放った矢はジギスの眉間を狙って飛翔したがジギスは咄嗟に前に転がることで避けた。
ジギスは玉座から転げるように落ちて床に顔面を押し付けるように倒れた。
「あれが帝国を裏切った宰相なのか?」
俺は吹き飛ばした魔族たちが体勢を立て直すのを見て龍焔と龍星を抜きながら隣に立つアリスに聞いた。
「ええ、そうよ、というかこの魔方陣大丈夫なのメリア!?」
アリスは床に描かれ謁見の間を照らすほどの光を放つ複雑な模様の円形陣を見て焦りの声を上げた。
「少し、いえかなりヤバイかも…」
「メリア何が起こってるのか、簡潔に教えてくれ」
珍しく冷や汗を額に浮かべるメリアを見て俺は理由が気になり本人に聞いた。
「中断された召喚魔法の魔力が暴走して爆発しそうになってるの!、多分爆発したら謁見の間は跡形もなくなるわ」
メリアの言葉はつまりメリアが魔力制御に失敗すればアレスたちが終わりだと言うことを示していた。
「なら、頼んだぞメリア」
アレスはメリアにそれだけ言って起き上がり憤怒を浮かべる魔族たちと戦うべく駆け出した。
「メリアが失敗したら終わりなのに…」
あまりの軽さにアリスが半ば絶句していると、陣に手を置くメリアは満面の笑みを浮かべていた。
「任せてアレス!」
メリアの返事を背中で受け止めて一条の風の如く駆け魔族たちに接近した。
魔族たちは最初は不意打ちで吹き飛ばされたものの最強格の魔族としての自負があるのか、一人で突っ込んで来たアレスに嘲笑を浮かべて各々魔法を無詠唱と見間違うほどの速度で放った。
炎の球、風の刃、石の矢、氷の槍、様々の魔法がアレスを襲った。
「遅いな、"魔技 疾風迅雷”」
アレスは全身に纏った風と雷の力で加速し魔法を避け、アレスに当たりそうになった魔法は刹那の間に斬り捨てられた。
「なぁ!?、早…」
瞬く間に接近したアレスに反応出来ず一人の魔族が袈裟に斬られた。
さらに流れるような所作で漆黒の刀が振り抜かれて追加で一人が斬り捨てられた。
流石に一瞬で二人の魔族を斬り捨てたアレスに魔族たちは距離を取ろうとそれぞれ床を蹴って後退した。
アレスはそのうちの一人に追いすがりいつ間にか納刀していた龍焔を霞む速度で抜刀し瞬く間に四本の斬線が刻まれた魔族は鮮血を撒き散らして倒れ伏した。
アレスが止まったのをチャンスだと思った三人の魔族は背を向けるアレスに対して同時に魔法を放った。
魔法が放たれた気配を殺気と魔力から判断したアレスは片足を軸に半回転して振り向き暴風を纏わせた刀を一閃した。
「"魔刀技 暴風剣”!」
収束された暴風が魔法とぶつかり合い拮抗し、弾けた。
魔族が思わず目元を手で覆ったその頃には接近したアレスは三人の魔族を間合いに捉えていた。
「"闘魔抜刀 蒼閃”」
今度は右腰の龍星を抜刀し三人の首を撥ねた、最強格の魔族の首が冗談のように宙を舞い、背中を狙って放たれた魔法を即座に床を蹴り移動することによって避ける。
幾度も漆黒と蒼光の軌跡が描かれ、魔族の大半が打ち倒された。
「よし!、制御に成功したわ!」
メリアの喜びの声と共に謁見の間を照らしていた闇色の光が消え失せた。
アレスがメリアの喜びに呼応するように刀の刃に纏った闘気と風で風魔法をはじき返すという神業を見せ、はね返ったそれが魔族に当たり顔面を抉られて悲鳴を上げる魔族の首を撥ねたことでアレス対魔族の戦いは終結した。
「魔族共が人間にやられただと!?」
驚愕の声を上げるジギルを無視して、メリアたちに振り向いた瞬間、壁が爆発した。
高速で何が動き反対の壁に激突した。
「何だ!?」
思わず驚き爆発した壁から離れるように動き何かが激突した壁を見るととても大切な、俺の大事な人が居た。
そこには腹に剣が突き刺さり全身を血に染めたスカハが居た。




