八十三話 地上の戦闘
長めです。
「馬鹿な!?、人如きが空を飛んだだと!?」
思わず敵であるアリスを前にして放心した《洗脳鬼》ギーラの視線の先を見るとアレスが背中から翼を生やして空を飛びワイバーンと戦っていた。
「ふふ」
「何が可笑しい!?」
思わず笑うとギーラをこちらを射殺さんばかりに睨んできた。
「いえ、アレスはつくづく人の想像の上を行くと思っただけ、よ!」
言葉の最後で射った矢が光条を描いて飛んだがギーラは直ぐに地面を蹴ったことで避けた。
「小賢しい混じり者風情が私を笑うとは許さん!」
ギーラの全身から闇色のオーラが吹き出ると地面がボコボコと音を立てて何かが出てきた。
「"闇よ・集え・我が至高の闇よ・今ここに・顕現せよ!・腐食巨人”」
地面を突き破り闇色の巨大な巨人が出てきた。
「"闇よ・集い・我が敵を殺せ!・命殺”」
闇色の波紋がギーラを中心を広がると目が虚ろな《降魔の盃》の戦闘員や帝国騎士たちが集まって来た。
「"我が弓よ・契約者たる・我に力を与えんーー」
アリスは弓に魔力で作った矢を番えて空に放った。
「ーー魔弓技 魔雨”!!」
空に放たれた矢は空に上がると砕け巨大な魔方陣を空に展開し、ギーラが驚く暇もなく魔方陣から豪雨の如く矢が降り注いた。
矢は戦闘員を串刺しに帝国騎士は足を撃ち抜き物理的に行動不能にした。
「混じり者!!」
闇色の巨人を盾替わりにアリスの魔弓技を防いだギーラが怨嗟の声を上げた。
「黙りなさい!、私はアリス、アリス・アグノスよ!」
アリスは崩れ落ちる闇色の巨人の隙間からギーラを狙い矢を放った。
ギーラは防御魔法を展開し矢を防ぎながら突っ込んで来た、手には短剣を握っていた。
おそらく矢を防御魔法で弾きながら弓師であるアリスの懐に入り短剣で攻撃するつもりだろう。
ギーラの思惑を推測したアリスは内心理にかなってると思った。
元々弓師は一対一の対人戦には向かない職業なのだ、弓師は前衛の後ろに構えて前衛を援護するのが本来の仕事だ。
だがアリスは凡百の弓師とは違う―
「一人で幻鋼級冒険者になった私を舐めんじゃないわよ!!」
アリスの虹色の瞳が僅かに輝くとアリスは矢を放つのを止め突っ込んで来るギーラに向かって走り出した。
ギーラはヤケになったかとニヤリと笑いアリスの頸動脈を狙って短剣を薙いだ、があるはずの手応えがない?、そう思った瞬間顔面に何がめり込み吹き飛ばされた。
ギーラが何とか体勢を立て直して顔を上げると左脚を伸ばした体勢のアリスが写った、ギーラをその様子のアリスを見て自分が蹴られたのだと理解した。
アリスの虹色の瞳がギーラを射抜いた。
ギーラはアリスの瞳を見て何かに気付いたように声を上げた。
「キキキ、なるほど混じり者、お前のそれは《魔眼》か」
ギーラはアリスに蹴られた箇所を労りながら言った。
《魔眼》、種族問わず極稀に現れる魔法体質でありその性質は千差満別で使い手の数だけあると言われている。
そんな《魔眼》は確認されているだけでも五十あるがギーラの記憶には虹色の魔眼など存在しなかった。
「つまり混じり者の瞳はランクは最高ランクの"宝石級”と言うことか」
ギーラは一度俯くと直ぐに顔を上げた、邪悪としか言いようのない笑みを携えて奇怪な笑い声を上げた。
「キキキ、なんという幸運!、"宝石級”の《魔眼》など一生に一度出会うかどうか!、混ざり者、貴様の魔眼は私の贄となるのよ!」
宣言と共にギーラの全身から周囲を覆い尽くす程の闇色のオーラが吹き出た。
アリスは闇色のオーラに抗うように弓を構えて一度に三本の矢をギーラ目掛けて射った。
ギーラは闇色のオーラを収束させ防御魔法を展開して矢を防いだ。
「ゆっくりと潰そうと思ったけど手加減はもう要らない、確実にお前の魔眼を頂くわ」
ギーラの額から鬼人族の証である角が現れた。
鬼人族の誇りと呼ばれる角は膨大な魔力を宿す、ギーラの真っ黒な角がせり出るのと同時にギーラを中心に黒い闇が広がり地面を腐らせた。
あまりの醜悪さにアリスが顔を歪めるとドカンッと轟音が響きアリスの頭上を飛び越えて人間が吹き飛んできた。
吹き飛んできた巨大な大男は角を露わにしていたギーラに激突してさらに吹き飛んだ。
「もう!、硬いし重いわね」
「メリア!」
文句の声と共に六枚の銀色の翼を生やすメリアが現れアリスは歓喜の声を上げた。
「見たところ怪我はないみたいね」
アリスに心配の声を掛けながらメリアは飛光剣を六本生成して大男オーグとギーラが吹き飛んだ方向に放った。
「私は大丈夫よ、ギーラは闇魔法を使う鬼人族だけどオーグは?」
アリスは情報共有をするためにメリアに聞いた。
瞬間雷鳴が轟き魔物の骸が幾つも地面に落ちてきた。
「ーーー、あの六腕族の大男オーグは六本の腕にそれぞれ剣と斧を持ってる、剣技は剛一極でかなり重いわ、魔法は今のところ使ってきてないわね」
一瞬空を見て空中を縦横無尽に飛び回る紅の軌跡を見てからメリアは答えた。
メリアの情報をアリスが脳内で理解するのと同時にギーラとオーグが吹き飛んだ場所の煙が晴れて闇色のオーラが立ち上った。
「ギギギ、オーグの雑魚!、あんな小娘一人殺せないの!?」
「小娘違う、あれは人を超えてる」
完全に角を展開して闇色に染まったギーラと同じく全身から闇色のオーラが吹き出るオーグが出てきた。
「アリス一緒に彼奴ら倒すわよ!」
「分かったわ!」
メリアが六枚の翼を広げて突っ込むのと同時にアリスは矢を前に立つオーグを目掛けて放った。
「小癪」
オーグは二本の剣でアリスの矢を弾くと突っ込んで来たメリアの銀光剣を受け止めた。
重厚な金属音が響くに合わせてメリアは剣をはね上げ再度の連撃を放つ、ギーラが援護に放った魔法の矢をアリスが的確に撃ち落とす。
残りの二本の斧がメリアを両断しようと下段から迫り、召喚された飛光剣に受け止められる、即席で創った飛光剣はオーグの人外の膂力で折られるがその頃には既にメリアは上空に逃げていた、
「"呪悪魔矢”!」
アリスに撃ち落とされた後すぐにきちんと詠唱されたギーラの無数の闇色の矢が闇色の尾を引きながら空を飛ぶメリアに接近し、当たる寸前でアリスの矢が撃ち落とした。
「あれは…飛行型の魔物?」
メリアは自身に当たる矢だけを撃ち落とすという神業を見せるアリスを信じてオーグの周囲を周回するように飛んでいるとふと空に上がる魔物たちが見えた。
さらに視線を上に向けると上空で縦横無尽に動く"紅”が見えた。
「ふふ、流石はアレス」
「メリア!」
アリスの警告に視線を戻すと六本の武器を振りかぶったオーグが無数の闇色の斬撃を飛ばしてきた。
(純粋な魔力を膂力だけで斬撃として飛ばしてるのね、アレスの"嵐閃”より輝夜の"燕”が近いかしらー)
そんな思考をしつつメリアは六枚の翼を巧みに操作し踊るように斬撃郡を避けた。
オーグが僅かな驚愕の瞳で見ているの見てメリアは翼に魔力を込めて加速しながら六本の飛光剣を生成した。
だが今度はバラバラに撃ち出すのではなく六本を円形に集め回転させた。
メリアによって完璧に制御された銀光剣の魔力と自身の魔力を用いて回転を加速させ射出する為の魔力を貯めた。
「行け!」
メリアの気合い一発の声と共に収束飛光剣が射出され、オーグは四つの大剣と斧で防ぎ激烈な金属音が響いた。
メリアは飛光剣を防ぐのに精一杯なオーグの股を翼を閉じて針に糸を通す精密さで通過した。
その先には先程までメリアに魔法を放っていたギーラが居た。
驚愕の声を上げるギーラに構わずメリアは剣身が銀色に輝く銀光剣で咄嗟に張られた防御魔法を斬り裂きながらギーラを袈裟に斬り返す剣で逆袈裟に斬った。
「ぐぎゃあ!!??」
ギーラの鮮血が舞う中メリアは返り血に構わず剣を上段から振り下ろし、首を撥ねた。
メリアは手に肉を斬る確かな手応えを感じると共にボトリと地面に落ちたギーラの首を見て、背後からの殺気を感じて飛び上がった。
直後地面が爆発したと見間違う程の斬撃が走った。
「意表を突かれた、感嘆」
「褒められても別に嬉しくはないわ」
オーグの一撃はギーラの死体を挽肉に変え見るも無惨になっていた。
メリアは僅かな同情を覚えたが意識を切り替えてオーグに向き直った。
よく見るとオーグの六本の腕のうちの一つが抉り取られるように穿たれ使い物にならなくなっていた。
「食らえ!」
アリスの放った三本の矢が分裂し雨の如くオーグを襲った。
防戦一方になるオーグの横をつくように走ったアリスは弓を大きく引き絞り矢を番えた。
「"魔弓技 魔矢”!」
一際魔力が込められた矢が飛び、オーグの腕の一つを穿った。
「ぐぉぉぉ!!」
アリスの攻撃に悲鳴を上げながら斧を投げた、投擲された斧はアリスへと直進し、アリスは咄嗟に横に飛び退いたが脚を斧が掠めて地面に倒れ込んだ。
「アリス!」
メリアがアリスを助けようと飛んだ時には人外の脚力を持って突撃したオーグの大剣が地面に倒れ込むアリスを両断しようと迫った。
メリアとアリスが最悪を予想しオーグが内心勝ち誇った瞬間、"紅”が舞い降りた。
ガギィンという金属音と共にオーグの大剣が弾かれた。
「"魔刀技 龍呀乱刃”!」
蒼色の軌跡が煌めいた瞬間、龍の幻影が唸るように飛びオーグの残りの腕を全て斬り落とした。
「「アレス!」」
メリアとアリスが歓喜の声を上げた時には紅髪の青年 アレス・バハムートは龍星を納刀し、爆発的な闘気と魔力を吹き上げた。
紅色の覇気を引きながら一歩踏み出しアレスの蒼の瞳から出る蒼雷が集まる中、手元が霞む速度で龍星を抜いた。
「"闘魔抜刀 蒼華雷月”!」
爆発的な蒼光と雷が散るとオーグの巨体が爆発するように斬られて吹き飛んだ。
アレスはバラバラになったオーグの死体を数秒見つめた後、すぐさま刀を納刀しアリスに抱き着いた。
アリスが反応するよりも早く、強く抱き締められた。
「危なかった、間に合って良かったよ」
「う、うん」
何故か言い淀むアリスにアレスは「どうした?」と言って首を傾げた。
「い、いや、そ、そのアレスがか、格好良過ぎてどうにかなりそうなだけよ!」
密かに英雄譚に出てくるヒロインに憧れているアリスの乙女心はアレスが紅色の覇気を纏っている時点でオーバーヒートしそうだった。
「!、アリスにそう言われると嬉しいな、メリアもそう思ってくれたのか?」
アレスがアリスの背後に居るメリアに向けて問うた、アリスはメリアが余裕の表情で返すと思いきや、珍しく瞳と表情を惚けさせていた。
「流石私のアレス!、格好良過ぎだわ!」
メリアはそう叫んで翼を広げて飛びアレスに抱き着くのだった。




