八十二話 アレスの龍翼と空中戦
夜の帳が落ちる帝都ザハークの中心、帝城ゼキールの巨大な門に立つ三人の人影があった。
「速度が命だ、俺が前衛、メリアが中衛、アリスが後衛で中に居る敵を引きつけるぞ」
アレスの宣言と共にメリアは銀に輝く魔剣、銀光剣クレセントをアリスは深緑色の魔弓、聖魔弓アルテミアスを顕現させた。
「まずは門を破るわね」
メリアが一歩前に出て銀光剣を上段に構えた、瞬間メリアの剣に膨大な魔力が収束し始めた。
「"我が光は・天を照らす光なり・我が光は数多の敵を滅ぼす・銀光なり・光よ裂け!・輝銀刃束大剣”!!!」
荘厳な詠唱が紡がれる共に巨大な銀色の大剣が現れメリアはそれを振り下ろした。
銀色の大剣は見事門を斬り裂き破壊した。
「やりすぎだと思うけど!?」
「メリアの本気だ、気にしたら負けだぞ!」
メリアの魔法を見て戦慄の声を上げるアリスに俺はそう返しながら門の残骸を横切り帝城の中に侵入した。
帝城はかなり巨大な建物だったがやはり先程のメリアの一撃で注意を引いたせいか、敵がワラワラと現れ始めた。
「鎧を着ているのが帝国騎士だから!、出来るだけ殺さないでね!」
アリスの言葉を聞いて眼を凝らすとこちらに向かってくる敵が鎧を着ている者とそう出ない者が居るが分かった。
「任せろ!」
俺は背中越しに返事をして、"瞬雷”を使って十人程の敵の中を駆け抜けた。
「"双魔刀技 雷霆飛斬”」
雷の斬撃が幾重にも飛び、アレスによって的確に加減された騎士たちは昏倒し《降魔の盃》の兵士と思われる黒ずくめたちは《蒼の雷眼》から放たれた蒼雷と斬撃によって斬り倒された。
「「「ガアアアア!! 」」」
「!?」
雄叫びが聞こえた瞬間、俺は咄嗟に地面を蹴った。
先程まで俺がいた場所が爆炎に包まれた。
「あれは亜竜ワイバーンか?、しかも人が乗ってるのか」
続けざまに飛来する青色の鱗と翼を持つ一級危険種ワイバーンたちの火球が放たれて俺は疾走して避け続けた。
「アレス!」
アリスが援護の矢を無数に放つとワイバーンたちは攻撃を止めて上昇して滞空した。
「キキキ、やるね、十体のワイバーンからの爆撃を避けるとは」
「然り然り」
不快な笑い声と共にワイバーンの背中にローブを着た人と巨躯の大男が現れた。
「鬼人族に六腕族?」「《洗脳鬼》ギーラに《千手》オーグ!」
アレスが敵の風体を見て思わず種族名を呟くとアリスが叫んだ。
「キキキ、そういうお前は逃げた幻鋼級冒険者《白仮面》か」
「ここに戻る愚劣なり」
二人がニヤリと笑った瞬間姿が消えると同時にワイバーンたちが火球を放った。
鬼人族の女、ギーラはアリスを六つの腕を持つ大男オーグはメリアを狙って接近し俺には視界を埋め尽くす程の火球が迫った。
「闘魔抜刀 大龍不天!」
両腰から抜刀した龍焔から"魔刀技 雷嵐閃”、龍星からは"龍閃”が飛び雷と風の斬撃が火球郡を縦に斬りヤマタノオロチの魔力が乗った斬撃が斜めに斬り裂くと形状を維持出来ず破裂した。
弾ける火球を気にせず突っ込むギーラとオーグにアリスとメリアはそれぞれ手を打った。
「死ね!、混ざり者!!」
「お断りよ!」
ギーラが杖から放った闇色の魔刃を魔力を纏った弓の柄で弾くという神業を見せたアリスは飛びかかるギーラを前に滑るように移動して避け置き土産に矢を放ったが、ギーラの防御魔法に弾かれた。
「重いわね!」
「然り然り」
メリアも同じく六つの手に握られた剣や斧を軽やかに避けて六本の飛光剣をぶつけ合いオーグと斬り結んだ。
ワイバーンからさらに火球が放たれてアレスを襲った、アレスはメリアとアリスの戦いの邪魔にならないようにワイバーンたちを引き離すように移動しながら刹那の瞬間思考した。
(敵は強いしワイバーンたちにずっと攻撃をし続けられたらいつかは当たる、このままだとジリ貧だ、あれを使うしかないか)
俺は刹那の思考を終えてワイバーンの火球を避けるのではなくワイバーンたちに向かい前に突っ込んだ。
ワイバーンたちは立ち向かってくるアレスを焼き尽くそうとさらに火球の雨を降らした。
火球の雨が迫る中、アレスは呟いた。
「《龍闘気解放》」
瞬間アレスの全身から紅色の覇気が放たれた、アレスの切り札であるが以前とは明らかに違う特徴があった。
「「「グルアア!?」」」
ワイバーンたちから有り得ない困惑の唸り声が上がった。
「神龍カグラより授かりしこの加護がいつまでも地に縛りつけると思ったか!」
バサッとアレスの背中から一対の黒紅色の龍翼が現れた。
アレスは翼をはためかせて高速で飛び立った。
ワイバーンたちから混乱から覚めるのと同時に二体のワイバーンの首が飛んだ。
「"闘魔抜刀 瞬閃”」
胴体と首が泣き別れたワイバーン二匹が地上へと落下した。
俺はそれを見届けて仲間を殺されて憎悪に染まるワイバーンたちの瞳を見つめ返した。
「闇魔法で"狂化”させられているお前たちには同情するが俺にはお前らを倒す理由がある」
アリスを助けた時に見た爛れた火傷の傷はワイバーンの火球を受けて出来たものだとさっきの攻撃を見て確信した。
「覚悟しろよ、ワイバーン共」
俺は龍翼を広げて加速しワイバーンたちと交錯した。三次元的に動くアレスに向かって二体のワイバーンが爪と牙で切り裂こうと迫った。
アレスは魔導服から展開した龍翼に龍闘気を回して身を捻りながら上昇して他のワイバーンが放つ火球を避けた。
「(重い!!)」
飛翔する時、暴風と重さが全身にかかり俺は歯を食いしばった、迫る火球を避けると右手に持つ龍焔の黒い刀身が何かに呼応するように紅く光り黒紅色の魔力が溢れ出てきた。
「!!!」
俺が驚く暇もなく黒紅色の魔力は龍闘気と混じり合うように重なり全身にかかる重さが和らぎ風が薄れた。
俺は軽くなった体に任せて龍星と龍焔を同時に振り抜き一体のワイバーンの首を撥ねた。
(これは龍焔が俺に力を?、でも龍焔はただの刀のなのに何で…)
黒紅色の魔力は龍翼に集中せている龍闘気を補助するように動き飛ぶ度に襲いかかる風を受け流すように俺の全身を包み込んでいた。
「いや、今は関係ないか」
瞬間下から無数の火球が飛来してきた、俺は翼を操作し斜めに下降して避けた。
火球が飛んできた方向を見ると援軍と思われるワイバーンと飛行タイプの魔物が数十匹見えた。
「いっちょ勝負だな」
俺は宙空で一回転し魔物たちに向かって加速した、よく見ると上に人が乗っている魔物もいた。
杖を向けて魔法を放ってくるが俺は蒼雷と龍焔から発せられた黒紅色の魔力、龍星に宿るヤマタノオロチの魔力を借りて縦横無尽に飛翔して魔法を避けた。
「ば、馬鹿な…」
驚く戦闘員を蒼雷を纏った二本の刀で魔物のごと真っ二つに斬った。
一度止まった俺を上と下から囲むように迫った火球や爪牙やらを避けて上に乗る人間が放った魔法を置き去りにする速度で一人が乗る魔物に迫った。
「"双魔刀技 迅雷万象”」
空から墜ちる雷の如くアレスは飛び回り紅色の軌跡を描きながら無数の魔物と人間を斬り捨てた。
こちらの攻撃は通らずアレスの攻撃は雷の如く素早く仲間は刹那のうちに斬り捨てられる、《降魔の盃》の戦闘員にたちにとっては悪夢だった。
「ば、化け物が!」
一人の戦闘員が魔法の弾幕を張ったがアレスはその間を縫うように飛び斬った。
斬り捨てた直後のアレスを狙う四人の戦闘員の剣や槍、魔法が迫るが剣をいなし槍の刺突を二本の刀で流すと斜めに下降して、それを追い掛けた戦闘員は突如アレスが上昇したことによって、別の戦闘員が放った魔法を食らい地面に落下した。
「背中に目でもあるのか!?」
「ある訳ないだろ」
驚愕の声を上げた戦闘員の一人を斬り捨てると同時に龍焔と龍星を納刀した。
なぜアレスが刀を納刀したのか理解出来なかった戦闘員たちだったが好機と見て各々で連携を取りながら接近した。
「"闘魔抜刀…」
アレスの二本の刀にゾッとするほどの魔力と闘気が収束していくのを感じた一部の戦闘員が「待て!」と静止の声を上げたが既に突き進んでいた戦闘員たちは止まれなかった。
「…双天孤月”」
巨大な二本の半円状の斬撃が霞む速度で抜刀されたアレスの刀から放たれて一度に戦闘員の半数を斬り捨てた。
無数の血飛沫が飛ぶ空中で佇むアレスを見て一人の戦闘員が気付いた。
(この小僧、地上の武技を空にまで…!!)
戦闘員の一人が察したようにアレスは今まで地上で使ってきた武技の数々を空で使っているのだ。
(なぜだ!?、奴は先程初めて空を飛んだのではないかのか!?)
驚愕のあまり放心した戦闘員の乗っていた魔物の首が撥ねられた、いつの間にか移動したアレスに斬られたのだ。
怨嗟の声を上げながら落ちる戦闘員を一瞥しながら俺は体軸を中心に回転して火球や魔法を避けた。
「お前らにはここでくたばってもらうぞ!」
紅色の覇気を猛らせながら飛ぶアレスに戦闘員たちの脳内には全滅の二文字が浮かぶのだった。




