八十一話 戦前の契り
少し短いです。
夕刻時、スカハたち三人と皇女アレクシアと騎士トリスが輝夜が作った夕ご飯を食べていると二階へ行く為の階段から人が降りてきた。
「アレス!!」
黒紅色の魔導服を来た紅髪に蒼色の瞳を持つ青年、アレスが降りてきたのだ。
アリスは嬉しさのあまり立ち上がり大きな声を出してしまった。
「メリアは?」
アリスに軽く微笑んでから空いていたスカハの隣の席に座るとスカハが横から聞いてきた。
「まだ上だよ、もう少しで降りてくると思うぞ」
全身をほぐすように体を回しながら答えたアレスの目の前にサラダやら肉やらが乗せられたお皿が置かれた。
「ゆるりと食べるでござるよアレス」
机に並べた輝夜に俺は感謝の言葉を送ってから食べ始めた。
しばらく食べるのに集中しているとふと視線を感じた。
「ーー」
顔を上げるとこちらをジッーと見るアリスが視界に入った。
「アリス、嫉妬するのはいいけどメリアからアレスを盗るのは超級危険種を討伐するより難しい」
言外の"アレスはメリアにゾッコンだから張り合うのは止めろ”というスカハの言葉にアリスは眉を釣り上げた。
「それとこれとは話が違うの!、これから私がアレスと一緒に居ようと思ってたのにメリアに横からかっさわれたのよ!?」
アリスはメリアが横からアレスをかっさらったことに怒り、それに同意したアレスに怒っているのだ。
「気持ちはよーく分かるでござるがメリアと戦うのは自殺行為であるとしか言えないでござるよ」
輝夜のもっともな発言にアリスは「ふぐっ」と痛いところを突かれたという顔をした。
「月光のように輝く銀髪に紅玉のような瞳、そして他を隔絶する容姿と体型、武力を持つメリアは強敵でござるよー、無論拙者は戦うでござるが」
「輝夜はいいわよ、その艶のある黒い髪に"黒瑪瑙”のような黒目、そしてメリアに負けず劣らずの容姿と体型、それに比べたら私は…」
アリスは自身の短い背丈と視線を下に向けると分かる、メリアたちとは違い平たい胸部を見て落ち込んだ。
「いや、別にアリスのいい所は「黙ってて!、この天然女たらし!」…は、はい」
フォローしようとしたところを鋭い眼光と言葉で止められて俺は背筋を伸ばした。
場が混沌とし始めたところでその元凶の一端である少女が降りてきた。
「皆お待たせー、えっ!?、何!?」
メリアが降りてきた瞬間スカハが瞬足で動きメリアに思いっきり抱きついてスンスンと匂いを嗅いだ。
「メリアから凄いたくさんのアレスの匂いがする、それにこれアレスが偶に朝の鍛錬の時に着てるシャツ」
基本的にアレス大好きなスカハは実はアレスの匂いが好きであり密かにアレスが着ていた服を着るという夢があったのだ。
つまり、
「アリス、私はメリアを断固許さない、一緒に倒そう、一人じゃ勝てなくても二人ならいける」
メラメラと瞳の奥を燃やしてスカハは宣言した。
アリスが喜びメリアが驚いたのは言うまでもない。
◆◆◆◆
アリスとスカハが結託してメリアに対抗するというわけの分からない状況を止めたのは輝夜だった。
「喧嘩は止めるでござるよ二人共、これ以上やるのなら三日程は二人の食事は作らないでござるよ?」
輝夜の宣言に輝夜の料理大好きなスカハと最近輝夜が作る料理にハマり始めているアリスは素早く自身の席に着いた。
同じくメリアも席に座ると皇女アレクシア様と目が合った。
「な、何か凄いものを見た気がします」
「わ、忘れていただけると助かります殿下」
そんな言葉を交わして微妙な空気が漂ったがその空気を正したのはアレスだ。
「さっきバジル爺さんが言ってた"剣聖”について聞いてもいいか?」
アレスの視線はフルフェイスの兜を被り鎧を着たトリスに向いていた。
いきなりアレスに声を掛けられたことに驚いたトリスだったがアレスの真剣な顔を見て、答えた。
「"剣聖”とは陛下に剣の腕を認められた者に与えられる称号だ、バジル翁も引退するまでは"剣聖”の地位についていたのだ」
「そんな奴がいるのには逃げてきたのがアリスたち三人だけとなると…」
「剣聖は殿下たちを裏切った宰相の味方だったか、既にやられてるかのどっちかね」
俺の言葉をメリアが引き継いで言った。
「おそらくですが現"剣聖”ベルナルト・フォーゲルは俗物的な男です、陛下に対する忠誠心など皆無に等しくもしお金さえ宰相が払えば簡単に寝返るでしょう」
皇女様は剣聖本人を知っているのか、嫌悪感が滲み出るような表情で言った。
「ならば敵は帝国騎士団、約二百人と《降魔の盃》の戦闘員、二百人と幹部二人でござるか」
「当初の作戦通り俺とメリア、アリスで正面から侵入、出来るだけ派手に暴れておそらく城内を警邏させているであろう帝国騎士を誘き出す」
「その隙に私と輝夜が地下牢に行く」
これまでの調べで城下の地下牢へ行く道に一番敵が集まっていた事から推測し皇帝がいるのなら地下牢だと思った為の作戦だった。
「あそこには皇族しか知らない秘密の通路があります、私が案内します」
皇女様がスカハたちと一緒に行くと宣言すると騎士トリスが反対の声を上げた。
「なりません殿下!、敵は強大!、もし御身に何かあったら!」
「例えそうだとしても私はザハーク帝国第一皇女アレクシアです、危険を皆様方に押し付け一人安全な場所に居る気はありません」
毅然と言い放った皇女様の目を見て騎士トリスは諦めて「御意」とだけ言った。
「決まりだな、俺とメリア、アリスが陽動、スカハと輝夜、皇女様たちが救出だな、その後に合流して敵の殲滅だ」
そう言って俺は立ち上がった。
「スカハ、少し良いか?」
一度解散にしてスカハを目配せで呼んだ。
「何?、アレス」
一度部屋に戻るメリアたちを見送ってからスカハに視線を合わせるように俺は少し腰を落とした。
「一つ約束して欲しい」
俺はいつも通り、否よく見ると緊張が見て取れるスカハの端正な顔を見て続けた。
「カーズ・オルテイシアを打倒し必ず生きて俺の元に帰ってきてくれ」
情けないことに少し声が震えてしまったかもしれない。
俺は怖いのだ、カーズ・オルテイシアという敵にスカハが負けるとは思わないだがそれでも一抹の不安が頭から消えない。
そんな俺の心情を何となく察したのかスカハは俺の頭を自身の胸に押し付けて抱き締めた。
「約束する、必ずアレスの元に戻る、だから信頼して、信じて私の勝利を」
スカハは抱き締めていた手を少し緩めて俺の額に口付けした。
「戦いに行く恋人を送り出す為の魔族のおまじない、本当は角にやるけどアレスはないから額、ん、アレスも」
スカハはずいっと二本の捻れた角を出てきた。
「ああ」
俺は俺の中にある愛おしさを全て乗せるようにスカハの角へ口付けをするのだった。




