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八十話 アリスの想いとメリアの嫉妬

俺は母さんが帝国のお姫様だったことを聞いて驚きいろいろ知りたいから教えてくれと老人、バジル爺さんに貸してもらった英雄譚を読んでいた。


「なるほどなー、父さんが言ってた母さんとの壮絶な馴れ初めってそういう意味か」

各個人に割り振られた部屋のベッドに仰向けに寝転がりながら一人呟いた。


バジル爺さんが貸してくれた英雄譚、"紅髪剣士と鳥籠の姫様”の主人公は確実に俺の父さんであることが分かった。


この本は父さんが若い頃冒険者をしていた時に帝都でたまたま城を抜け出していた母さんが出会う所から始まる。

父さんが母さんと結ばれる為に苦難を乗り越えるというある意味王道な英雄譚だった。


「この本に書いてあることがどこまでが本当のことか怪しいけどなー」

俺は読み終わった本を返す為にベッドから立ち上がり扉まで歩き開けた。


「アリス?」

扉を開けると目の前に何故か"しまった!”みたいな顔をしているアリスが居た。


「待ってくれアリス」

すぐさま脱兎のごとく逃げたアリスの手を掴んで呼び止めた。


「何か言いたいことでもあるんだろ?」

俺がそう言うとアリスはしばらく逡巡した後口を開いた。


「そのさっき路地裏でいきなり殴ってごめんなさい、そのついカッとしちゃて、結構痛かったでしょ?」

アリスは頭を下げて恥ずかしそうに言った。


「え?、ああ!、その事か、別に気にしてないよ、ぶたれる強さだったら父さんの何倍も痛かったしどうってことないよ」

一瞬何のことだか分からなかったが直ぐに思い出して俺はアリスに言った。


「殴った張本人が言うのもどうかと思うけど普通はもっと言いつのるものじゃないの?、特に私はハーフエルフだし」

「言いつのる必要なんてないよ、アリスは謝ったし俺はそれを受け入れた、それにその件はどうやら俺にも非があるみたいだし……とにかくだ!、謝罪は受け入れるからこの件はこれで終わりだ」

俺の言葉に安心したのかアリスは胸を撫で下ろした。


「それと余計なお世話かもしれないけどアリスは綺麗な瞳を持ってるんだから自分をあんまり卑下するなよ、自信の無さは外面に出るんだからな」

それだけ言って扉を閉めようとしたらガシッといつの間にか下を向いてプルプルしているアリスに掴まれた。


「アレス!!、お前はあれだけ美人で可愛くて強い恋人が三人も居るくせになんでそんなことを軽々しく言えるのよ!?」

不思議に思って再び扉を開けた瞬間アリスが入ってきた俺の魔導服の襟首を掴んで言い募った。


扉がアリスが入ってきた反動で閉まり俺が突然の行動に驚く暇もなくさらにアリスは捲し立てた。


「今まで誰一人も私の眼を綺麗なんて言ってくれなかった!、エルフにも人間にもなれていない半端者の私を認めてくれた人なんていなかったのよ」

アリスはだんだんと尻すぼみになりながらも続けた。


「ボロボロになった私を助けてくれたわ、しかもこんな私の為にまるで肉親が殺されそうになったみたいに怒って帝都まで来てくれた、そんな人を私が…んっ!?」

「そこまでだよアリス」

俺はアリスの唇に人差し指を添えて言葉を止めた。


「俺とアリスの出会いは衝撃的だったし過去に戻れるならやり直したいぐらいだけど俺は人との繋がりは大切にするんだ、そう言う教えだからな、でもアリスと初めて邂逅して君の瞳を見た時感じたんだ、彼女は友達いや、それ以上の存在になるんじゃないかってな」

アリスは黙って俺の言葉の続きを聞いた。


「こういうのは男から言うものだけどその前に一つ聞いてもいいか?」

「な、何?」

アリスは顔を真っ赤にして動揺しつつも言った。


「俺はメリアが好きだ、スカハも好きだ、輝夜も好きだ、みんなが好きなんだ、つまりその…俺は傍から見ると最低な男だよな?」

「そんなことないわ!、エルフは長命種だからあまり色恋に頓着しないけど女をたくさん養える男がいい男だと私は思うわ、確かに好きな人を独占出来ないのは寂しいけど…それは愛が大きいってことよ!」

自信満々に自分の意見を言うアリスに俺はそうなのか?と疑問に思わないでもなかったが一先ず先に言うことを先に言うことにした。


「んん!、俺はアリス、君が好きだ、虹色の綺麗な瞳も卓越した弓技も何より苦しみながらも決して屈しなかったその()が好きだ」

俺は堂々とアリスに告げた。


「わ、私もアレスが好き、力を人の為に振るえる貴方がなによりも自分を貫くその姿勢を私はとっても格好良いと思ったわ」

アリスの真っ赤な長耳がピコピコと動きすぐさま顔を上げた。


「そ、その確か恋人になった二人同士ですることがたくさんあるのよね!」

「え?、まぁ、たくさんあるんじゃないか?」

俺の中では寝ることとキスぐらいしか思いつかないがアリスは違ったようだ。


「て、手を繋いで一緒に座るの、そして二人のことを話してもっと距離を深めるの!」

「別に話すのはいいけどそれはどこ情報か聞いてもいいか?」

アリスの恋愛関係の情報をどこから手に入れたのか少し気になる俺だった。


◆◆◆◆


「私には母がいなかったの」

二人で手を繋ぎながらベッドに腰掛けるとアリスがぽつりと話し始めた。


「母は亜人族国家ユグドラシル共和国でやんごとなき身分の人だったらしくてね、もし人間との子供が出来たなんて知られたら大変なことになる、それを知った父は母の為にまだ赤ちゃんだった私を連れて国を出たの」


「アリスのお母さんはユグドラシル共和国のお偉いさんだったのか?」

俺は内心驚きながらもアリスに聞いた。


「父から聞いただけだからどれくらい偉い人だったかは分からないけど父が自ら身を引いたって言ってたしかなり身分が上の人なのかもね」

「そうか、じゃあアリスはその弓術は誰に教わったんだ?」


アリスはアレスの質問を少し意外に感じてアレスを見るとその蒼色の瞳は爛々と輝いているように見え興奮しているのが分かった。

アリスはそんなアレスにクスッと忍び笑いを零して続けた。


「弓術は父から習ったの、父は無口で不器用な人だったけど弓の腕はピカイチで父が矢を外したところは見たことないわ」

「アリスのお父さんは冒険者だったのか?」

「うん、そうだったみたい、母と出会ったのも冒険者生活が理由だろうしね、でも英雄譚になんかなってないし、あなたのお父さん程じゃないと思うけど?」

「父さんのことは言わないでくれよー、俺だって母さんが元帝国のお姫様で自分が皇族の血を引いてるなんて聞いて混乱してるんだ」

「アレスはもし皇族に誘われたら皇族になるの?」

アリスが若干不安そうな目で見てきた。


俺はそんなアリスの頭を手を繋いでいる手とは逆の手で桃色の髪を撫でつつ言った。


「誘われたってならないよ、俺は冒険者を気に入ってるし大事な恋人たちだっているんだから心配するなよな」

優しく安心させるように頭を撫でるアレスにアリスは心安らぐ気持ちになった。


「このままこうしてるのもいいけどそろそろメリアたちと合流しないか?、その恋人同士になったんだから報告しないとな」

そう提案するアレスにアリスは静かに頷くのだった。


◆◆◆◆


「アリスなら良いわよ、でも私が一番なのは忘れないでね!」

「時折私を膝枕をして一緒に寝てくれるのならば構わない」

「拙者ももちろん認めるでござるが拙者との時間を疎かにしないのが条件でござる!」

アリスと恋人同士になったことを三人に報告するとそんな答えが返ってきた。


三人が軽く認めたことにアリスは思わず、「軽ぅ!?」と言ってしまった。


「もちろん一緒に戦ったアリスだから認めるのよ、他の得体の知れない女なら断ってるわ」

「うん、アリス強い、アレスも認めてる、なら私に異存はない」

「それにアリスがアレスのことを好いていたのは薄々分かっていたでござるしな」

言外の見抜いていたぞ、という輝夜の言葉にアリスは若干仰け反った。


「まぁ、やっぱりアレスは帝国でも女を増やすと思ってたわ」

「いひゃいです(痛いです)、めひりゃさん(メリアさん)」

メリアは満面の笑みなのに何故か身震いしてしまうような表情を浮かべてアレスの頬を両手で引っ張った。


俺はメリアが完全に嫉妬心からやっていると分かっていたのでされるがままになった。


「皇族の血を引いてるって聞いて驚いたらその衝撃冷めやらぬうちにアリスがアレスの恋人になったのは私を混乱させるため?」

「違うよ、これから戦いが始まるんだし気持ちに整理はつけないといけないと思っただけだよ」

俺の真摯な言葉にメリアは一瞬考え込み再び顔を上げた。


「なら、今日は私が独り占めするんだからね、アレス♪」

「「「ーーーー」」」

スカハたちが一瞬見とれてしまうほど淫靡な笑みを浮かべてメリアは舌なめずりをするのだった。



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