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七十九話 先鋒と母の出自

「!?、待ちやがれ!」

突然怒声を上げて走り出したアレスに虚を突かれるのと同時にメリアたちはアレスの視線が数メートル先に居る黒ずくめの人影を見ているの気づいた。


「「「!!!!!」」」

それを認識したのと同時にメリアは皇女アレクシアと騎士トリスを守るように立ち、スカハと輝夜はアレスを追うように走り出した。


「ごめんなさいね!」

アリスは近くの露店まで駆けて跳躍してテントの反動を利用して飛び上がり建物の屋根伝いに黒ずくめを追い掛けた。



背中越しにスカハと輝夜が一緒に付いてきているのを感じながら逃げる黒ずくめを追っていると黒ずくめは近くの路地に入り込んだ。


俺たちもすぐさまに路地に入ったが黒ずくめは器用に壁にしがみつき登った。

危うく逃げられるという所でゴンッ!、という音ともに黒ずくめが落ちてきた。


「考えが甘いのよ」

黒ずくめがちょうど飛び出してきたところをまるで()()()したように蹴落としたアリスが居た。


黒ずくめは上手く受け身とって着地して再び走り出して逃げようとしたがダメ押しの矢が降り注ぎ黒ずくめのローブを地面に縫い止めた。


「だから考えが甘いのよ」

アリスは上から飛び降りて狙ったかのように黒ずくめの上に着地した。

アリスの鉄靴がめり込み、ぐぇ!、という呻き声が聞こえたが黒ずくめは完全に沈黙した。


「アリスは身軽だな」

「伊達にエルフの血が半分流れている訳じゃないのよ」

何故アリスが先を読むように行動出来たのか、気になったがふとアリスの虹色の瞳がキラキラと輝いているのに気づいた。


「どうやら拙者とスカハの出番は無かったでござるな」

アリスに目のことを聞こうとしたところで輝夜とスカハが路地に到着した。


「アレス、こいつの首を見て」

「あ?、これは…」

アリスが魔弓の弦輪で黒ずくめの首元を指した。


「"隷属の首輪”、こいつは多分《降魔の盃》が街に置いている"目”」

「人混みに紛れ込ませ先程のように何かを見つけた時は上司に報告するといったところでござろうな」

「す、凄いわね、そこまで頭が回るのね」

素早く己の推測を口にしたスカハと輝夜にアリスが驚きの声を洩らした。


「?、敵の状況を考えれば当然」

「こういった早駆け兵は兵法書で見たことがあるでござる」

忘れてはいけないのはスカハは卓越した武人だが決して頭が悪いわけでないのだ、輝夜に至っては元々武家の娘であったので武術以外にも様々な教育を受けたのでここまで頭の回転が早いのだろう。


「二人のことは一旦横に置いてだ、とりあえず隷属の首輪を斬るか」

「はぁ?、アレス何言って…」

アリスが何か言う前に龍焔(ホムラ)に《蒼の雷眼》から発した蒼雷を纏わせて抜刀した。


路地裏にアレスが振った衝撃の剣圧が駆け抜けてスカハたちの髪を僅かに巻き上げてゴトッという音と共に切断された隷属の首輪が地面に落ちた。


「"闘魔抜刀 蒼閃”」「ーーー」

アリスが驚愕の目でアレスを見る中、龍焔が鮮やかに紺色の鞘に納刀されチンッという鯉口がなる音が響いた。


「あ、アレス貴方、い、今隷属の首輪を…」

「ああ、そういえばアリスに見せるのは初めてだったな、この"蒼雷”を使えば隷属の首輪も斬れるんだよ」

アレスが自分の眼を指してそう言ったのと同時にアレスの両眼からバチバチッと蒼色の雷が迸った。


「ーーーー」

アリスはアレスの一対の蒼色の瞳に吸い込まれるように感じた。自然と恐ろしさは感じずただただアレスの瞳に見入ってしまった。


「「ふん!」」

「痛!?」

スカハと輝夜が突然アレスの頭を叩いた。


「何するんだよ二人とも!?」

俺は突然の二人の行動に驚き抗議の声を上げた。


「別に何でも」

「何でもないでござるよ」

二人とも何故か憮然とした表情でそっぽを向きながら言った。


「えーー」

アリスはしばしば目の前の光景に圧倒されていたがスカハと輝夜が感じていることを悟って思わず赤面してしまった。

男のアレスでは分からなかったが二人が浮かべているのは間違いなく"嫉妬”だ。


誰に嫉妬しているのか言わずとも分かる、アリスだ。

その事実を悟った瞬間アリスは何かしらの言い訳を言うために声を上げようとした。


「あ、アレスたちここに居た!」

だがそれは皇女アレクシアたちを連れたメリアに阻まれた。


「メリア!、悪かった急に走り出して」

「ううん、大丈夫よ、その人を追い掛けたんでしょ?」

アレスは先程までの出来事が無かったかのように振る舞いメリアに駆け寄った。


アリスは楽しく話す二人、主にアレスに怒りを覚えた。

「ふん!」

「あだ!?」

アリスはアレスの頭を弓で思いっきり叩いた。

アレスは地面にぶっ倒れた、思わず目を白黒させる女性陣たち。


「いきますよ皇女殿下、トリス」

アリスは地面にぶっ倒れたアレスをガン無視して歩き出した。


「い、痛い、アリスってあんなに膂力があったのか」

アリスに殴られた箇所を労り少しズレたことを言いながらアレスは立ち上がった。


「何かあったの?」

メリアは突然のアリスの行動に驚きスカハと輝夜に聞いた。


「アレスの女たらしさが露呈した」

「メリアの登場するタイミングが悪かったってござるなー」

無表情で言うスカハと苦笑い気味に言う輝夜にメリアはますます首を傾げるのだった。


◆◆◆◆


"隷属の首輪”を着けていた黒ずくめに数枚の銀貨を渡して帝都から離れさせてからアリスたちに追いついて宿屋に着いた。


「ここが…」

目の前の建物は二階建てのしっかりとした宿屋だった。


「おお!、トリスじゃないか!」

騎士トリスと皇女様が入ると受付に座っていた人間の老人が顔面をしわくちゃにして喜びを浮かべた。


「久しぶりですバジル爺」

「お久しぶりですバジル様」

トリスが頭を下げて皇女様も続くように頭を下げた。


「なぁ!?、殿下が何故こんなところに!?」

驚く老人に騎士トリスはゆっくりと全ての事情を話した。


全ての事情を聞いた老人はゆっくりと事実を噛み締めるためか数分間沈黙して口を開いた。


「儂はもう歳で前線には立てんがそれ以外のことでなら喜んで協力する、後ろの冒険者たちもうちの宿を好きに利用しても構わんよ」

「騎士トリスと皇女様と知り合いなのは分かりますが俺たちも良いんですか?」

老人にとって見ず知らずの者である俺たちにそこまで言うとは思わず俺は聞き返した。


「儂は元"剣聖”なんじゃ、お前たちがどれほどの力を持っているのかぐらい分かるぞ」

そう言った老人の眼光は鋭く俺たちを居抜き、確かな()を感じさせた。


「俺はアレス・バハムートと言います」

「なんじゃと!?」

俺が自己紹介した瞬間老人は大声を上げた。


困惑する俺たちを他所に老人はカウンターから出て俺の目の前に立ち思いっきり肩を掴んだ。


「お前今バハムートと言ったか?」

静かにだが確かめるような口調だった。


「え、ええそうですけど」

どこかで見た光景だなーと思いながら俺は答えた。


「ま、まさかミリア殿下の息子か!」

「はーー」

俺は老人のまさかの言葉に一瞬呆けた。


「な、なんで俺の母さんの名を…」

「な、何だとあの小僧ー、息子に母親の出自を伝えていなかったのか!?」

老人は叫んで俺を揺さぶった。


「ミリアさんってアレスのお母さんだけど今、殿下って言ってたわよね?」

「うん、言ってた」

確認するように言うメリアにスカハは頷きを返した。


「バハムートってどこで聞いた事あると思ったら納得だわ」

「どういう事でござるかアリス殿?」

妙に納得顔のアリスに輝夜が尋ねた。


「二十年くらい前に本当にあった出来事でザハーク帝国で今でも人気の英雄譚"紅髪剣士と鳥籠の姫様”って話の主人公が"ガラン・バハムート”って言うのよ」

アリスの衝撃の発言にメリアたちは目を剥いて驚いた。


「「えーーーー!!!??」」

メリアと輝夜は驚きの声を出して、スカハも珍しく口を半開きにしていた。


「アレスのお父さん、英雄譚のモデルになってるの!?」

「ということは先程殿下と呼ばれていた方はアレクシア殿の…」

輝夜の視線が老人の言葉に放心していた皇女アレクシアに向いた。


「ミリア殿下は今の皇帝陛下アドルフ様の姉君だ、つまりアレクシア様にとってアレス殿は従兄(いとこ)ということになる」

戦慄したような声音で騎士トリスが呟いた。


「アレスはやっぱり凄い人」

「いや、貴方は少しは考えなさいよ」

びっくりして老人にされるがままのアレスを見て納得するように言ったスカハにアリスはすかさずツッコミをいれるのだった。

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