六十二話 救出
建物の正面で轟音が響き怒号と剣戟音が鳴り始めた頃メリアとスカハは気配を殺し建物の裏側にたどり着いていた。
「アレスたちが暴れてるみたい」
「さっき雷が見えたし派手に陽動してくれた方が助かるわ」
呟くように言ったスカハにメリアはそう返して慌ただしく人が動き回るのを気配で感じながら慎重に建物を魔力探知で調べていた。
「スカハ、ここから侵入するわ、多分ここに地下の入口がある」
メリアは木製の窓を叩いて言った。
「分かった」
スカハは頷き窓に手を当てた。
「"氷よ・波紋の如く・広がれ・凍氷波”」
スカハの手から冷気が吹き出て木製の窓を凍てつかせた。
「ふっ!」
スカハは凍てついた窓を殴打、すると凍てついた窓が砕け散った。
スカハが破壊した窓はそこまで大きくは無かったがそこは女であり同性代の女と比べると線が細いメリアと小柄なスカハなので簡単に侵入出来た。
「あれね」
メリアが侵入すると沢山の木箱と地下へと続く階段が目に入った。
「メリア、室内は狭い、私が前衛をする」
スカハは胸ポケットから棒のような物を取り出し魔力を流していつも使っている槍より短い、いわゆる短槍の長さにして右手に持ちながら言った。
「なるほどね、狭い室内じゃスカハの槍は振るえないからさっき私に預けて来たのね」
メリアは建物に侵入する前にスカハから大事なはずの槍を預けられたので疑問に思っていたがスカハの行動を見てその疑問は氷解した。
スカハを先頭にメリアたちは地下へと続く階段を降りた。
階段を降りるといくつもの仄暗いランプで照らされる廊下が目に入った。
「何、この匂い、まるで薬の生成所みたいな…」
「メリア、これ」
スカハが廊下に落ちている瓶を拾い上げた。
匂いの原因はこれだ。
「何かの薬の空き瓶みたいね」
メリアは空き瓶を受け取り何となく見てみたが何の薬かはわからなかったがこんな所に捨てられている時点で普通の薬では無いのは容易に想像出来る。
「慎重に行きましょう」
「うん、常に警戒はする」
メリアとスカハは頷き合い廊下を進んだ。
しばらく進むと途端に廊下が途切れて大きな部屋に入った。
「これは!?」
メリアは部屋を見て驚きの声を上げた。
部屋には多くの子供を閉じ込めた檻が幾つも並び檻の中に居る人の首には"隷属の首輪”が付いていた。
「多い、亜人だけじゃなくて人族も居る」
スカハは檻の一つを見て言った。
「ひっ!、角のある人!、怖い!」
檻に居る子供の一人がスカハを見て怯えるように言った。
「君たちは何でここに居るの?」
メリアは周囲に光球を幾つも浮かべて薄暗い部屋を照らして言った。
「お、お姉ちゃんは誰?」
スカハとは違い角を持たないメリアに少しだけ態度が和らいだ子供がメリアに言った。
「私の名前はメリア、冒険者をやってるのよ、もう一度聞くわね、どうして君たちはここに居るの?」
メリアは優しく問い掛けるように言った。
「村から連れ去られたの!」「僕も!」「私は借金のかたにここに居るわ!」「ターズに来る途中で捕まったの!」
メリアの言葉をかわきりに檻の中にいる人が叫び始めた。
「待って!、みんな出してあげるから!、この中に今さっきここに来た亜人族の人は居るかしら!?」
「私はです!」「僕だ!」「私!」「僕もついさっき連れ去られた!」
メリアから少し離れた檻から声が聞こえた。
「マリカの言う通り、小人族の二人と土人族の人が二人居る」
スカハは檻の中にいる先程声を上げた四人を見て言った。
「マリカさんを知ってるですか!?」
「うん、少し縁があった、、!?」
スカハは小人族の人に返事した瞬間弾かれたように短槍を振るいメリアに向かって飛来した短剣を防いだ。
「おお!、素晴らしい完全な不意打ちでありながら防ぐとは、伊達や酔狂でここに攻めてきた訳では無いようだ」
「誰!」
スカハは叫びメリアの前に躍り出た。
「これは失敬、私はドグロ、ここに居る商品を管理している者ですよ」
メリアたちが来た方向とは逆の廊下から薄ら笑いを浮かべ両手に短剣を持った男が現れた。
「あなた達はこんなに沢山の人を集めてどうするつもり!?」
メリアは素早く銀光剣を抜き問い掛けた。
「ふふ、これから死ぬ者に言う必要はありませんね!」
瞬間男から黒い靄が吹き出て男は地面を蹴った。
「行かせない、!!?」
スカハは槍に魔力を流し僅かに長くして刺突を放ったがスカハの脇腹には短剣が掠った。
「お前、その腕…」
スカハの計算では二本の短剣は槍の連続の刺突で防げていた、その計算が狂ったのは相手の腕だ。
「ふふ、素晴らしいでしょう"闇魔法”の力は!!」
ドグロの腕は人のものでなく黒く染まった異形のものに変化しまるでゴムのように伸びていた。
再びゴムのように伸びたドグロの短剣の突きがスカハに迫った。
「確かに凄い、でも…」
スカハは槍を構えて相手の攻撃を待ち構えた。
「ぐぼぁ!?」
「"ニノ槍 氷穿”、私には届かない」
スカハの槍の先から伸びた氷がドグロの心臓を正確に穿いていた。
「"幻槍流”は少し体を変化させたところで負けない」
絶対の自負と共にスカハは氷の槍を引き抜いた。
ドグロは仰向けに倒れた、スカハの"ニノ槍”は穿いた場所を凍てつかせる、内側から体内を凍らされて死んだのだ。
「スカハ!?、さっき攻撃を受けてたけど大丈夫?」
「大丈夫、魔導服が防いだ」
スカハは先程短剣が掠った脇腹に手を当てて言った。
メリアが見ると魔導服には少し擦れた痕があるだけだ。
「良かったー、まさか闇魔法がこんな力があるなんて驚いたわ」
メリアはスカハに倒された男を見て言った。
「私も驚いた、それより早く助けよう」
「そうね、みんな少し伏せててね」
メリアとスカハは手分けして檻を壊して中に居る人を解放した。
「けどどうしよう、ここまで人が居るとは思って無かったし」
「全員守りながら行くのは難しい」
メリア達の周りには五十人を超える人が居る、どんなにメリアとスカハが強くとも無傷で全員ここから出すのは難しい。
「ならば少し相手を調べてから来るべきてはなかったのですか?」
突如メリアたちがやって来た廊下から人の声が聞こえた。
「えぇぇぇ!?」
メリアは廊下からやって来た人物を見て今日一番の驚きの声を上げた。
◆◆◆◆
「輝夜!左右から攻撃するぞ!」
「承知!」
俺と輝夜は左右分かれて目の前の敵…二メートルを優に超える大男に迫った。
「双魔刀技 暴風剣!」
アレスは身を捻り限界まで風を纏った二本の刀に力を乗せ相手の脇腹を斬った。
「漆ノ太刀 叢雨!」
魔力の刃が白夜に収束し斬れ味を底上げしアレスと同様に脇腹を斬りアレスと同時に振り切り大男を上下に両断した。
「これで最後か」
アレスは龍星と龍焔を鞘に収めて僅かに返り血が付いた頬を右手で拭おうとした。
「あ!、ダメでござる!、キチンと布で拭かれよ」
輝夜は袴の懐からハンカチを出してアレスの頬に付いた返り血を拭った。
「ーーありがとう輝夜」
アレスは輝夜の行動に驚きながらもお礼を言った。
「べ、別にこ、恋人としてと、当然でござるよ」
「恥ずかしいなら言わなければいいのに」
「うるさいでござる!」
顔を真っ赤にして吠える輝夜は俺にはとても可愛く見えた。
「それにしても薬を飲んで巨大化するとはな」
陽動作戦をしながら敵を倒していた俺と輝夜だったが突如敵が謎の薬を飲み巨大化して襲いかかってきたのだ。
「完全に理性を失ってござったし、メリアが先程言っていた"闇魔法”と関係があるのでござろうか?」
「分からない、俺も武術ならともかく魔法はからっきしだからな」
魔法に関してはメリアに聞くのが一番だ。
「それで何時まで見ているんだ?」
俺は目に魔力を込めて周囲の建物に攻撃しようとした。
「ま、待ってくれ!、私たちは敵じゃない!」
俺が蒼雷を放とうした瞬間、周囲の建物の窓や扉から黒装束を着た奴らが出てきた。
「私たちは王国近衛騎士団六番隊だ!」
一人が黒装束を脱ぎ自らが着る鎧を指して言った。
それに習い他の人も黒装束を脱いた。
「近衛騎士?、何でこんな所に?」
俺はそう問い掛けた。
「それは私が説明しますわ、アレス様」
建物から声が聞こえてメリアたちと共に見知った顔が出てきた。
「王女様!?」
「お久しぶりですわ」
出てきたのは翡翠色の髪と瞳を持つアドモス王国第二王女エレネシア様だった。




