六十一話 《暗闇の空》
「大丈夫ですか?」
メリアが黒ずくめの男を気絶させたのを一瞥した俺は未だに座り込んでいる海人族の女性に話し掛けた。
「あ、貴方は一ヶ月程前に泊まって下さった…」
どうやら俺のことを覚えてくれたようだ。
「お久しぶりですね、一体何があったんですか?」
俺はスカハによって腹を貫かれて血を流している男とメリアによって気絶させられて引きづられている男を見て言った。
「で、ですが、巻き込む訳には…」
「もう手遅れ、私は巻き込まれた、だったら事情を話すべき」
スカハは微かに血が付いた槍を払いながら女性の瞳を見て言った。
「それにこの状況を見過ごす程拙者たちは落ちぶれてはござらんよ、亜人の方」
「そうよ、貴方殺される寸前だったのよ?、私たちがたまたまこの宿に泊まりに来なかったらどうなってたか…」
メリアの言葉に女性は顔を青くした。
「話してください、俺たち《雷光》が力になりますよ」
なんと言っても退かないと目線で語る俺たちに負けた女性は事情を話してくれた。
少し話は長かったが要約するとこうだ。
この女性、海人族のマリカさんは同じ亜人族である小人族や土人族の方々と一緒に宿屋を経営して暮らしていたがとある日素行が悪くて追い出した客がターズの裏組織の偉い人間であった為にマリカさんたちに逆恨みしたそいつが宿屋の悪い噂を流して営業妨害を行なった。
その結果、客足もぱったりと途絶えて更に言えば苦しく従業員の一人がその裏組織からお金を借りていた為より窮地に立たされたのだ。
そして突如行なわれた先程の襲撃で従業員の小人族二人と土人族二人を攫われて殺されそうになったとマリカさんは語った。
「何よそれ!?、人の弱味に付け込んで!」
「抑えろメリア、マリカさん、その組織の本部はどこにあるか知ってますか?」
怒るメリアの頭を撫でて落ち着かせながら俺はマリカさんに聞いた。
「こ、この街では有名な組織なので知ってますけど、何をしに行くのですか?」
「決まってるでござる、攫われた四人を助けに行くのでござるよ」
「な、何を言ってるですか!?、《暗闇の空》は王国でも巨大な勢力を持つ組織なんですよ!?」
「《暗闇の空》…」
スカハがポツリと呟いた。
どうやらその組織は《暗闇の空》と言う名前らしい。
「関係無い、それにこのままにして置くと攫われた四人がどうなるか分からないですよ?」
少し脅すような言い方になってしまったが俺が言ってることは事実だ。
「何も策なしで行くほど私たちはバカじゃない、さっきの動き見たでしょ?、メリアも輝夜も、もちろん私も強いし、アレスは"竜殺し”」
スカハが俺を指して言った。
「え!?、あの王都に出た超級危険種を討伐した冒険者!?」
俺はスカハがマリカさんから信用を得ようとしてるのを察してすかさずアイテムボックスから煌びやかな装飾が施してある短剣を取り出してマリカさんに見せた。
「その荒ぶる風の紋章は王家の!?」
そうこの短剣はアドモス王室が認めた人にのみ渡させられる短剣であり剣身にアドモス王国の印が入っている。
何かに使えるかもしれないと王女様から貰った物だ。
「俺たちは超級危険種を討伐した冒険者パーティー《雷光》だ、従業員は全員助けてみせる」
王都で名を上げておいて良かったなと密かに思った瞬間だった。
◆◆◆◆
気絶させた黒ずくめの男二人はターズの警備隊に突き出した後、マリカさんの案内に従ってターズの下町、俗にスラム街と呼ばれる場所を進んでいた。
「アレス、伝えたい事がある」
「何だ?」
マリカさんの先導に従い歩いている最中スカハが話し掛けてきた。
「《暗闇の空》は私を捕まえて奴隷にした組織」
「ーーー、それは本当か?」
突然の言葉に驚いた俺だったがそう聞き返した。
「多分だけど私はアドモス王国の北方で捕まった、その時捕まえた奴が言ってた言葉の中に《暗闇の空》という単語が何回も出て来た、妙に捕まえることにも慣れてた気がした」
「《暗闇の空》には手練のスカハを捕まえられるほどの力があるのか?」
俺の疑問点はそこだ、スカハは強い、精鋭である王国騎士が束になってかかってきても無傷で全員を倒せるほどだ。
「あの時の私は精神的に参っていたところもあったけど一番の理由は力を奪う"呪詛結界”と"闇魔法”を使う奴が居たこと」
「"呪詛結界”に"闇魔法”!?」
知らない単語に内心首を傾げていると前方を歩いていたメリアが振り返り大声を出した。
「なんだ、知ってるのかメリア?」
「知ってる何も"闇魔法”は禁呪よ!、前に少しだけ話した"召喚魔法”の応用で使える魔法で強大な力を得るけどその分代償があるの、だからグラト魔法王国では使ったら即処刑の禁呪指定を受けてるわ」
「代償か、具体的には?」
「人によって違うらしいから詳しくは分からないけど人間じゃなくなるらしいわ」
「着きました彼処が例の建物です」
メリアに言葉を返す前にマリカさんが止まり建物の陰から二階建ての大きな建物を指した。
「あれが…」
「確かに建物から沢山の魔力を感じるから人が沢山いるわね、しかも地下からも感じるわ」
すかさず魔力探知を行なったメリアが言った。
「おそらく地下に連れ去られた人がいる可能性が高い」
「拙者も同感でござるな、やましいものは地下に隠すのが定石でござる」
「そうか、なら分かれよう、俺と輝夜が正面から乗り込み敵を陽動する、メリアとスカハはその隙に連れ去られた人を助けてくれ」
スカハと輝夜の言葉に頷き俺は三人にそう言った。
「みんな聞いて、さっきアレスには少し言ったけど敵は"闇魔法”を使うかもしれないわ、だから闇魔法の特徴を教えるわ、闇魔法の性質は"奪う”ことにあるわ、さっきスカハが言ってた"呪詛結界”は結界の中にいる者の魔力を奪う高位魔法よ、一番簡単な対処法は当たらないことよ」
メリアは念を押すように言った。
そしてメリアとスカハと分かれた俺と輝夜は建物の正面に移動していた。
「アレスとは初めての共闘でござるな」
輝夜は俺と並んで歩きながら嬉しそうに言った。
「一緒に戦うのが楽しみなのは俺も同じだけどラース大陸に帰ってきてそうそう、こんな事件に巻き込まれるとは思ってなかったよ」
「アレスは騒動に巻き込まれる星の元に生まれたのではござらんか?」
「そんな星が本当にあったら俺は嫌だな」
アレスは顔を顰めた。
「何だ、てめぇら?、この建物に用があるのか?」
建物の入口に立っていた人が話し掛けてきた。
「油断し過ぎでござるな」
「!?」
一瞬で男の懐に入った輝夜が白夜を抜刀し男を斬り捨てた。
「"蒼雷よ・天より・降り注げ・墜雷”!」
俺の両眼から蒼い雷が迸り目の前の建物に落ちた。
ドンっっっつ!!!!
雷が落ちた場所が爆発した建物から悲鳴や怒号が聞こえてきた。
「凄いでござるな、"魔法”とは…」
「メリアには劣るけどな、そらお出ましだ」
建物から戦闘員と思わしき男女が出て来た。
「てめぇら!、いきなり攻撃するとはどういうつもりだ!?」
「私たちが《暗闇の空》と分かって襲撃してきたのかしら!?」
男たちが剣や杖、各々武器を構えて叫び始めた。
「敵の前で油断し過ぎだって、"闘魔抜刀 黒瓏龍閃”!」
俺は腰に差す二本の刀を抜刀し二本の黒い斬撃と蒼い斬撃を飛ばした。
「「ぎゃあああ」」
二人の戦闘員に当たり斬り裂いた。
「"玖ノ太刀……」
輝夜は再び鞘に収めた白夜を抜刀した。
白の斬線が飛んだがそのまま敵をすり抜けた。
「…狂い咲き”!」
白の斬線を食らたのに何も起こらなかったからか怪訝な顔を浮かべていた戦闘員たちが一斉に斬られた。
「俺と輝夜の力を舐めるなよ《暗闇の空》!!」
アレスと輝夜による陽動作戦という名の"蹂躙”が始まった。




