五十七話 真剣勝負の朝
「んん、朝か」
その日の朝は心地よく目が覚めた。
俺は両脇で一糸纏わぬ姿で寝るメリアとスカハを気遣いながら布団を出て魔導服を着てズボンを履いた。
「今日が輝夜と戦う日か」
俺は少なくない緊張とそれを上回る興奮で拳を握り締めた。
まだ日が出たばかりだが全身に満ちる魔力と闘気、そして切り札である"龍闘気”が体の全身を巡っているのを感じた。
「鍛錬、をする前に二人を起こさないとな」
起こそうと振り返って俺は二人の裸体をマジマジと見てしまった。
メリアの世界が生んだ美の化身というべき美しい艶姿とスカハの小柄ながら出るところが出ている胸部などが目に焼きついた。
運悪くメリアとスカハが寝返りを打ち布団がはだけたのだ。
(くっそ!?、不意打ちは駄目だろ!?)
俺はすぐさま向き直り二人に背を向けた。
夜ならともかく明るい場所で見るのはいつもとは違った衝撃を受けた。
「コホン、落ち着け俺、父さんが言ってただろ、男は動揺したら負けだ、弱味は見せない」
「なーに独り言言ってるの?」
「!!??、メリアか」
いきなり抱き着かれて驚くと俺の肩にあごを乗せて覗き込むメリアが居た。
至近距離で見ると月光のような髪に紅い瞳そして鼻筋が整った顔立ちはまさに絶世の美少女だと思う。噂に聞く美形で有名な亜人族である、エルフ族でさえメリアには敵わないだろう。
「起きたのか、珍しいな」
メリアは基本的に朝に弱い、なので何時も最後に起きるのだがこの時間帯に起きたことに少なからず驚いた。
「何となく今ならアレスを独占出来る気がしたの」
そう言ってメリアは裸のまま俺の正面に来て抱き着き俺と唇を重ねた。メリアの双丘が俺の胸板でたおやかに潰れて仄かに甘い匂いが鼻腔をくすぐった。
「!?」
瞬間メリアの唇から暖かい魔力が注がれて俺の全身に滾っていた魔力と闘気がメリアの魔力と溶け合うように混ざった感じがした。
メリアの魔力と溶け合う感覚がとても気持ち良く俺はメリアの後頭部に手を添えて唇により吸い付いた。
ぴちゃぴちゃと唇同士が吸い付く音が部屋に響いた。
「ぷはぁ!、うん、力みが取れたわね」
メリアが唇を離して頬を仄かに赤らめたまま俺の手に触れて言った。
「ーー力み?」
俺はメリアの手を握り返して首を傾げた。
「ええ、魔力は自分の精神状態に左右されて今のアレスみたいに必要以上に魔力が溢れたりすることがあるの」
「それをキスで治してくれたのか?」
「えっと、キスはついでで魔力を送れるなら別にキスである必要はないけど……」
メリアは幼い頃からその身に宿る膨大な魔力のせいで、何かに興奮したり緊張すると魔力が溢れる"魔力過多”に陥ったことが何度もあったので処置の方法も熟知していたのだ。
方法は色々あるが一番簡単なのは誰かその人に触れて魔力を相手に送り相手の魔力に波長を合わせるように操作する方法だ。
メリアはこれをキスと同時に行なった訳だ。
(まぁ、キスは私がしたかっただけだけどね!?)
内心やけっぱち気味に叫ぶメリアである、最近アレスのこととなると自制が効かなくなってきている。
「?、まぁ、どうであれ治してくれてありがとうメリア」
「う、うん」
アレスの笑顔を見ると一瞬で撃沈してしまうメリアであった。
メリアにキスをされて緊張で"魔力過多”という状態異常に陥りかけていた体を治してもらった俺はいつものように朝の鍛錬を行なうことにした。
場所はいつも通りの中庭、大和祭が終わったらこの中庭で鍛錬することも無いと思うと少し寂しくもある。
「行くわよアレス」
「ああ、何時でも来てくれ」
銀光剣クレセントを上段に構えるメリアに俺も同じく龍星と龍焔を抜き構えた。
どこかで小鳥が鳴いた瞬間メリアとアレスが同時に地面を蹴った。
「はぁぁぁ!」
メリアは銀光剣をアレスに目掛けて振り下ろした、並の相手ならば反応すら出来ずに斬られてしまう程の剣速をほこっていたがアレスには届かない。
「ーーー!、やぁ!!」
俺は龍星を逆手に持ち直してから銀光剣を受けて流し、一瞬無防備になったメリアの鳩尾を縦に割るように龍焔を振った。
メリアは瞬時に反応、僅かに飛び去り龍焔の斬撃を避け無詠唱で作った光球を幾つかアレスに放った、当然アレスには斬り払われるが目的は距離を取る為だ。
「流石はメリアだ!」
「負けないわよ!」
すぐさま距離を詰めてきたアレスにメリアは銀光剣と召喚した二本の飛光剣を使用してアレスの二本の刀と打ち合い鮮烈な金属音が響いた。
アレスの斬撃をメリアが防ぎメリアの飛光剣の一撃をアレスが身を捻り避ける、一進一退の攻防が続いたが変化は突然起きた。
「!??」
アレスの四肢を突然霧散して四つの光球になった飛光剣がアレスをほんの一瞬拘束した。
罠だ、気づいた時にはもう遅くこのレベルの戦闘では一瞬の隙が負けに繋がる。
「取ったわ!」
メリアは銀光剣を振り下ろした。
「いいや」
「!?、きゃっ!!」
瞬間メリアの視界が宙を舞い空が見えてから地面に叩きつけられた。
「俺の勝ちだな」
地面に倒れたメリアの上に馬乗りに乗ったアレスが龍星と龍焔の剣先をメリアに向けて言った。
(何故?、あそこからどうやって持ち直したの?)
メリアは内心疑問でいっぱいだった。何故ならアレスがあの状態からどうやって自分を投げ飛ばしたのか分からなかったからだ。
「参ったわ、でもどうやってあの状況から持ち直したの?」
私は銀光剣を霧散させて疑問に思ったことを言った。
あの時のアレスにはメリアの一撃を避けて投げ飛ばすなんてことは出来なかった筈だったからだ。
「《妖刀》に選ばれた者は人間を超越するそうだぞ?」
アレスが立ち上がり龍星と龍焔を鞘に納刀し拳を胸の前で握った瞬間アレスの後ろに八本の首を持つ龍の幻影が現れた。
「ーーっ」
それはすぐに消えたがメリアは思わず息を呑んだ。
それはつまりアレスが龍の力を使ったという事だ、だが"龍闘気”の気配とは違ったので何かしらの新しい力だとメリアは推測した。
「教えてはくれないの?」
「いや、別に大したことじゃないよ、バハムートの一族が代々《神龍の加護》を受け継いで"龍闘気”をその身に宿すってのは前に説明しただろ?」
メリアは静かに首肯した。
「当たり前だけど、"龍闘気”は元々神龍様の力で人間のものじゃないでも俺たちをそれを受け継いでいる、その理由は体が"龍闘気”に適合していくからなんだ」
アレスは"龍闘気”という絶大な力に体が少しずつ変わっていくのだと言った、つまり先程メリアの一撃を回避したのはアレスがここ一ヶ月鍛錬したことにより成長した龍の膂力と瞬発力だそうだ。
「つまりアレスは《龍人》ってこと?」
「《龍人》って、それは御伽噺だろ?」
《龍人》は龍が魔法によって姿を変えた人間のことを指す言葉だ、だが龍は遥か遠い昔に神龍様が自分の以外の龍を倒したことでいなくなり伝説の存在だ。
「あるとしても《竜人》じゃないか?」
「む、確かに《龍人》より《竜人》の方がしっくりくるかも」
《竜人》は《龍人》とは逆にドラゴンが人間の姿になった存在だ。だがこちらも御伽噺の存在だ、そもそも好き好んでドラゴンに近付きたがる人はいないので、あくまでそんな御伽噺があるだけだ。
(アースドラゴンはそんな感じはしなかったしな、でも元々ドラゴンってどんな存在何だろうな?)
ドラゴンと龍は違う存在だと言うことは何となく分かるがドラゴンは他の魔物と比べても別格の力を持つ、その理由が俺は少し気になった。
「まぁ、とりあえず朝ご飯にするか」
「あ、うん、そうだね、今日も頑張って作るわよ!」
メリアは手を胸の前で可愛く握って言った。
「あー、それは嬉しいけど輝夜には負けてるよな?」
「し、仕方ないでしょ!、まだ練習し始めたばっかりなんだから」
「あはは、頑張れよ」
俺はメリアの頭を撫でた。
「むぅぅー、もっと撫でて」
「分かったよ」
俺はしばらくメリアの頭を撫で続けてメリアが満足した所で手を繋ぎ食堂に向かうのだった。
朝は恋人と穏やかな時間を過ごしアレスは戦いに向かう―




