五十六話 準決勝
大和の国最大の祭り大和祭の後半に行なわれる御前試合の準決勝第一試合はアレスが優位に試合を進めていた。
「はぁ!」
俺は龍焔を薙ぎその動きと連動するように龍星を振った。
「くっ!」
だが相手も御前試合の準決勝にまで来た男だ、この程度ではやられはしない。
刀を両手で握り斜に構えてアレスの攻撃を受け流した。
だがそれでも全ては流せず後ろに飛ばされた。
(くそ!?、強すぎる、本当に人間なのか!?)
男とて御前試合の準決勝にまで勝ち上がってきた実力がある、だからこそ感じてしまう、自分と目の前の男にある絶対的な実力差を、まだ倒れていないのは相手が慎重に戦っているからだ。
「疾っ!」
アレスは地面を蹴り追いすがって来た。
また手に持つ二本の刀も規格外だ、明らかに伝説級の代物、名のある鍛冶師に打ってもらったとは言え自分の刀とは文字通り格が違う。
「"魔刀技 風魔”!」
風の魔力と闘気により強化された二本の刀の突きが飛んできた。
咄嗟に首を捻って避けるも避けきれずいくつかの突きが頬や首筋を掠めた。
「面割り!」
自分も武人の端くれ簡単には負けない、突きは放ち腕を伸びきった状態の相手の顔目掛けて上段の一撃をくりだした。
それこそ並の相手では受けきれず容赦なく両断される一撃だ、アレスはその攻撃に対して目を見張る回避の仕方をした。
「"魔技 雷身”」
瞬間アレスの体から雷が発せられ右手を引き戻し首を捻り紙一重で自分の上段の一撃を躱した。
そして相手の刀を上から踏みつけた。
「ッッッ!?」
自らの一撃が避けられたことに驚く暇もなく刀を踏まれた衝撃が両手に伝わり手が震えるのを感じた。
「"双魔刀技 雷天”」
痛みに意識を取られた瞬間凄まじい斬撃が体を突き抜け悲鳴を上げる暇もなく意識は闇に落ちた。
「勝者、アレス!!!」
審判の人が俺の名前を叫ぶと共にすり鉢状の闘技場に居る観客たちから大歓声が上がった。
「中々に強かったけど、苦戦する程じゃなかったな」
俺は龍焔と龍星を鞘に納刀し地面にうつ伏せに倒れている対戦相手を見て言った。
「それにこんなで躓いている暇は無いからな」
俺は観客席から手を振っているメリアとスカハに手を振り返して闘剣場を後にした。
◆◆◆◆
「まさに格が違う、流石はガランの息子だな」
今しがた終わった試合を見てそう呟いたのは大和将軍義敏だ。
「あいつの息子だ、対戦相手は運が悪かったとしか言えん」
同意するように言うのは輝夜の父、天月正信だ。
「そう言えば正信、輝夜ちゃんを嫁にやる件どうしたんだ?」
「ああ、その事か」
その瞬間正信の背が何倍にも小さくなったように感じた、それ程落ち込んでいるように見える。
「ど、どうした?、まさか断られ…」
「輝夜がアレス君の旅について行きたいと言ってきたんだ!?、うぅぅぅ」
正信は涙ぐみ始めた。
輝夜は今朝アレスに想いを伝えた後、正信と静音にアレスたちと共に旅に出たいという旨を伝えていたのだ。
「はぁー、まぁ、輝夜ちゃんの実力ならそのうちそう言うのも覚悟していたのだろう?」
「輝夜の成長は嬉しいけど、愛娘がいなくなるのは寂しい」
「分かるぞ、その気持ちは、何せ日和はお前の息子の所に行くのだからな」
「それは…、、、今度身分を隠して飲みに行くか」
「そうだな、たまには二人で酒を飲むとしようか、お、噂をすれば輝夜ちゃんが出てきたぞ?」
義敏は眼下の会場に出てきた白い袴を着た少女を指さした。
「うむ、見届けねばな」
正信も嬉し涙を拭き取ってから会場に目を向けるのだった。
◆◆◆◆
父親が嬉しくて涙を流して居るのを露ほども知らない輝夜は闘剣場にて対戦相手と対峙していた。
「貴殿が噂に聞く《双鉈》の佐助殿でござるか」
「おお、天月の麒麟児に名前を覚えて貰えているとは嬉しい限りだ」
飄々と応えるのは筋骨隆々の偉丈夫、腰に差す二本の鉈を操るのが特徴の男だ。
「済まないでござるが貴殿には拙者の踏み台になってもらうでござる」
「踏み台とはいってくれるじゃあねえかぁ!!」
「試合始め!」
始めの合図共に佐助は自らの腰に差す長刀の鉈を抜き目にも止まらぬ速さで輝夜に斬りかかった。
輝夜はまだ刀すら抜いていない。
(取ったぜ!!、!!??)
だが突然長年の戦闘経験で磨かれた第六感が"避けろ”と警告、攻撃を即座に止めて立ち止まった瞬間、鼻先を何かが通り過ぎた。
「"陸ノ太刀 迅”」
輝夜が腰を落とし純白の刀身の刀"白夜”を振り抜いていた。
先程目の前を通り過ぎたのは"白夜”の刃だ。
(馬鹿な!?、俺に視認すら出来ない抜刀術だと!?)
佐助は自らの強さに自信を持っていた、現に彼は強く並の剣士では今の一撃に反応すら出来ずに斬られていただろう、だが輝夜には止まって見えた。
(スカハやメリアの攻撃に比べたら蝿も止まるでござる)
スカハは槍士なので刺突の速度がずば抜けているのは納得だが妖術が得意だと言っていたメリアの剣速には驚いたのをよく覚えている。
「"壱ノ太刀…」
輝夜は"縮地”で一瞬にして間合いを詰めて上段からの一撃を繰り出した。
「天断”」
"天断”は魔力を物質化して戦う天刃流の基本技であり見た目はただの上段斬りにしか見えない。
「ッッ!!」
故に佐助は鉈をクロスさせて受けた時に両手に走った衝撃の重さに目を見張った。その威力は佐助が踏みしめる大地に罅が入るほどだった。
(これが成人したての女が出せる膂力かよ!?)
輝夜は昨年の大和祭の御前試合にて使った技に"天断”は無かった為に輝夜の情報を仕入れていた佐助は知らなかったのだ、だが最も致命的だったのは天刃流という大和武尊の第一の腹心であった天月家の初代当主が編み出した剣術と天月家の長い歴史の中で最も才覚に溢れている天月輝夜の強さを知らなかったことだ。
「行くでござる」
そう言った瞬間輝夜の手に持つ"白夜”が閃いた。
輝夜の怒涛の連撃が始まった。
「うぉぉぉ!!」
佐助も今まで培ってきたあらゆる技を用いて輝夜の攻撃を防御した。
「"弐ノ太刀 閃、参ノ太刀 月影”」
白夜の刃が閃き近接戦の間合いにて数百の斬撃が飛び交った。
"閃”は天刃流に存在する基本の太刀、九本の中でも"陸ノ太刀 迅”に次ぐ速度を誇る剣であり"月影”は魔力を刃として収斂し剣戟に織り交ぜる技だ。
それに加えて上段斬りである"天断”を含めた三つの太刀を使う派生剣技、その名は
「"連ノ太刀 天津風”」
数百否数千の斬撃が現れ佐助に判断の暇を与えることも無く防御を突き破り体全体を斬り裂いた。
「決着でござる」
輝夜は白夜を鞘に納刀し呟いた。
「勝者 天月輝夜!!!」
審判の勝者を告げる声と共にアレスが勝った時を超える歓声が闘剣場を席巻した。
「お疲れ様」
「スカハ?」
輝夜が闘剣場を歩いていると二本の槍を背中に持つ魔族の少女が居た。
「驚いたでござるてっきりアレスの所に居ると思ってたでござるよ」
「さっきまでは居たけどメリアに譲った」
憮然そうな表情から察するに渋々だったのだろう。
「それはともかく、明日アレスと戦うんでしょ?」
「先程の試合は勝ったでござるからそうでござるな」
スカハに言われてアレスと戦うという事実に全身が震えた、恐怖ではなく好きな人と斬り逢えることとアレス程の武人と戦えるという歓喜でだ。
「アレスは強い、私もアレスを応援すると不公平だから私は輝夜を応援する、勝ってアレスに」
「まさかスカハがそんなことを言うとは思ってなかったでござるが、拙者負ける気はござらん」
「流石、ならお昼ご飯食べよう、"海鮮料理処”に行く」
「あそこでござるか、拙者も好きでござるよ、スカハは何が好きでござるか?」
「私は"マグロ”の刺身が一番好き」
「拙者もでござる!、気が合うでござるな」
輝夜はスカハと言葉を交わしながら闘剣場を後にするのだった。




