五十五話 スカハと輝夜
いつもより少し長いです。
「ふわぁーーー」
まだ太陽が顔を出し始めた時刻、鍛錬の為早起きして支度をしていた俺の耳にとても幸せそうなスカハの欠伸が聞こえてきた。
「随分と可愛い欠伸だな、スカハ」
「ん、そんな事無い」
若干恥ずかしそうに言って頬を赤く染めるのは一糸纏わぬ姿のスカハだ。
何故スカハが一糸纏わぬ姿なのかはあえて触れない。
「そういえば昨日のスカハは可愛かったなー」
が俺にも相手をからかいたい時はある。
「だ、駄目!、思い出さない!」
珍しく焦るスカハにくつくつと俺は笑いを零した。
メリアと同じで鍛錬していた一ヶ月間一切一緒に寝ていなかったのでスカハの乱れようが色々凄かったのだ、スカハの名誉の為に言及はしないが。
「アレスは意地悪」
スカハは布団を被って顔だけを出して拗ねるように言った。
「悪かった、これで許してくれるか?」
俺は布団から出ているスカハの角を撫でた。俺は既にスカハが角を撫でられるのが好きなのを知っていたからだ。
「ん、仕方ない許してあげる」
スカハはそう言って布団を払い立ち上がった。ただし背中側を俺に向けているので大事な場所は見えない。その代わり背中の小さな一対の羽が見えた。
「スカハの羽って空は飛べないんだよな?」
「"覚醒”に至ってない私では空を往くことは出来ない」
スカハは傍に落ちている服を拾いながら言った。
「"覚醒”って何だ?」
俺は初めて聞く言葉に首を傾げた。
「魔族は遥か古代に神がまだ人と関わりを持っていた"神代”に魔神が生んだ種族、創世神が創った人間よりも魔力が多く頑丈で強い、そんな魔族には"覚醒”と言う魂を限界突破し己に眠る全ての力を目覚めさせると言う特性がある」
「魔族限定の特性ってことか」
魔族は数多いる亜人族の中でも最強格、そう言われる所以が何となく分かった。
「そう、"覚醒”に至った魔族には至っていない魔族が何人で挑もうと絶対に勝てない、けど"覚醒”に至るのには途方も無い修練と時間が居る、ちなみに父は至っていた」
「ーーーー」
俺はスカハのお父さんが"覚醒”に至っていたことに驚きそして何故そんなに強かったスカハのお父さんが負けたのか疑問に思った。
「聞いてもいいかスカハ?」
「何?」
スカハはその時には既に服を着終えていた。
「答えたくないならいい、どうしてスカハのお父さんはやられたんだ?」
俺はスカハに家族の質問を今までしてこなかったのはスカハが言わなかったからだ、だがいつかはしないといけないと思っていた。
「ーー父は強かった、それこそ魔族という種族の中でも一二を争うほど、でも!、彼奴は!、カーズは一族の者を人質に取った!、父に本気を出させないようにする為に!、私も母も止めた!、でも…」
父は戻って来なかった。スカハは荒らげていた口調を萎ませて言った。
スカハはその紫紺の瞳から涙を流して泣いていた、俺はスカハの悲嘆に暮れる表情に胸の所がチクリときたがスカハの言葉は俺の中にある何かに反応した。
それは怒りだ、別に顔も知りもしないスカハの仇にでは無いスカハを泣かしている自分にだ。
「スカハ、君は強いよ、それだけの物を抱えて、前にも言ったな俺は君を救えないか?」
「そんな事無い、アレスは私の槍を守ってくれた、感謝してる」
「それは嬉しい、でも母に仇を討つ事を禁じられたスカハの気持ちは悔しいけど俺には理解出来ないんだ」
当たり前だ、俺は母さんや父さんを殺されたことなんて無い、そんな奴が家族を殺されたスカハの気持ちを理解出来るわけは無い。
「でもこれだけを言わせてくれスカハ、俺は君のことが好きだ、あんまり比べるのは嫌だけどこの気持ちはメリアに感じてるものにだって負けてない」
俺にスカハを救わせてくれ、俺はそう言った。
スカハは基本的に感情を表に出さない為に無表情である時が多いがだからと言って何も感じてない訳では無いのだ、俺だってスカハいや、愛しい恋人をずっと見てきたのだ。
「あ、アレス、仇討ちは出来ない、母の言葉に反する」
嗚咽混じりの声でスカハが言った。
「分かっているよ、その誓いを破らせるつもりは無いよ、でもおそらく帝国に行けば何か起こる気がする、ただの勘だけどな」
昔父さんに言われたことがある"力を持つ者は必然的に争いに巻き込まれる”と、つまり大和を出てラース大陸に戻ったら忙しくなるかもしれない。
(アースドラゴンが現れた原因も分かってないし帝国に向かう道中で王都に寄って王女様に聞いてみるか)
「勘、でもアレスの勘なら一概に無視出来ない、メリアも魔族狩りが帝国で行なわれてるって言ってたし、争いが起きるかも」
「かもな、全部勘だし確証も無いけど備えておくに越したことはない、そろそろ中庭に出ようぜ、あっ!そうだ」
「ん?、どうしッ!?」
スカハは驚きで硬直した、何故ならアレスが自分の涙を親指で拭き取ってからキスをしてきた。しかも舌で口内全体を愛撫するようなキスにスカハは蕩けるような甘さを感じると共にまともな思考が出来なくなった。
「泣かせてごめん、これは一先ず詫びだ」
唇を離したアレスはそう言って素早く部屋を出て行った。
スカハはしばらくその場から動けなかった。
「少し激し過ぎたかな?、まぁ、嫌がってなかったし多分大丈夫だろ」
自分がした所業に気づかないアレスはそのまま廊下を歩き近くにある縁側から中庭に出ようとしていた。外まだ太陽が少し顔を出しているせいか空に朝焼けが見える。
「え?、メリアと輝夜?」
鍛錬を内容を頭の中で考えながら歩いていると縁側で毛布にくるまり寄り添って寝ているメリアと輝夜を見つけた。
(夜は冷えないとはいえ外で寝るのはどうなんだ?)
疑問に思わないでもなかったがとりあえず俺は二人を起こすことにした。
「おい、二人共こんなところで寝てないで起きろ」
俺は優しく二人の肩を揺すった。
「ん、んん、アレスーー」「アレス殿の声がするでござるーー」
二人は完全に寝惚けていた。
そんな二人を見るのも中々眼福だが何時までも見ていたら鍛錬の時間が無くなる。
「仕方ないか、少し強引だけど…」
俺は《蒼の雷眼》に魔力を送り蒼雷を迸らせた。
「!!、何!?」「はっ!?」
二人は蒼雷に素早く反応して後ろに下がるように後退して一瞬警戒の視線を俺に向けたが俺の顔を見てその視線はすぐに霧散した。
「何だーー、アレスか、ビックリしたよ!」
「一瞬敵意を向けられた気が…?」
俺は見て胸を撫で下ろすメリアと混乱する輝夜に俺は声を掛けた。
「わ、悪い、そんな敏感に反応するとは思わなくてな」
「普通に起こしてよ!?、蒼雷を迸らせるなんて!」
メリアはそう言ったが俺は反論したかった。
「輝夜はともかくとしてメリアが自分で起きれたことあったか?」
俺は混乱していた輝夜に視線で謝りメリアに向かい言った。
「なるほど、今のはアレス流のメリアの起こし方でござるか」
「ちょっと少し朝が苦手なだけでしょ〜!?」
ふと俺は悲鳴のような声を上げるメリアと輝夜の距離感が近いように感じた。
「何かあったのか?、距離感が近いし縁側で寝てたし」
「え?、まぁ、昨日夜遅くまで輝夜とお話してたの、どうやらあのまま寝ちゃったみたい」
「メリアはなかなかに面白いでござるなー」
「だからー…」
二人のやり取りは面白くてずっと見ていたかったがスカハが歩いて来たことで一時中断した。
「おはようスカハ、何かボーっとしてるけど大丈夫?」
「大丈夫、問題無い」
何故か頬を赤くして唇を手の甲で抑えて言うスカハにメリアは首を傾げた。
「ああ、そうでござる、アレス殿少しいいかござるか?」
そんな二人を見ていると輝夜に声を掛けられた。
「何だ?」
「拙者貴殿のことが好きでござる、この気持ちに戦いの場にて応えてはくれないでござるか?」
俺は輝夜が言った言葉に一瞬理解が及ばなかった。
輝夜が俺のことが好き!?
「え、ええ、何で?」
俺から出てきたのはそんな情けない言葉だ、いきなりの言葉に戸惑ったというのもある。
「神人を受け入れてくれたこと、最初に財布を拾ってくれた事、そして卓越した武技の数々、それらから拙者はアレスに惚れたでござる!」
輝夜は堂々と言った。メリアは何故か納得顔でスカハはいつも通りの無表情で見ていた。
「なるほど、それで戦いの場でか」
俺は納得した、輝夜は武人だ、つまり自分より弱い者にはついて行かない、だが嬉しいことに俺を好きになってくれた、だから俺に戦いの場で自分を打ち負かしてくれてと言ったのだ。それが大和の武人として生まれた天月輝夜の"好き”の証明だからだ。
「いいぜ、決勝は明日だけど今日勝ち抜いて、輝夜、俺は君を倒す」
「それでこそアレスでござるよ」
「よし!、そうと決まれば鍛錬だ、メリア今日はスカハと一緒に付き合ってくれ」
「はぁ、仕方ないわね、焚き付けたのは私だし協力するわよ」
「もちろん私も」
俺は嬉しそうに言うメリアといつもの無表情、でも微かに笑っているスカハに鍛錬の付き合いを頼むのだった。
ちなみに作者はメリアにスカハに輝夜、ヒロイン全員が好きです(*´ω`*)。




