五十八話 バハムート流VS天刃流
メリアと愛しい朝の一時を過ごした俺は大和城の二の丸にある闘剣場の控え室でとあることを考えていた。
(龍とドラゴンの違いって何だ?)
メリアとの今朝の会話からその事が中々頭から離れなかった。
俺の持つ《蒼の雷眼》や《神龍の加護》は龍の力であるが龍星や龍焔を振る時はいつもよりも力が出せたりする時がある、メリアの罠にかかった時に脱出できたのはこれのお掛げだ。
(確か龍星に宿るヤマタノオロチは元は龍って言ってたもんな)
俺は鍛錬をしていた一ヶ月の間にヤマタノオロチのことも気になり正信さんや正宗さんに聞いたところとヤマタノオロチとは大和神話に出てくる神獣であり崇めている人はそれなりにいるそうだ。
正直伝説や御伽噺に興味は無いが自分の剣の過去は少し気になったのだ。
「アレス様、そろそろ試合が始まります」
数回のノックの後に審判の人が戸を開けて言った。
「分かりました、すぐに向かいます」
俺は思考を中断して試合に集中するのだった。
御前試合の決勝は闘剣場に人が入り切らないほど人が集まる為観客席がごった返しているのが遠目にも分かった。
(凄っ、確実に準決勝の時よりも居るな、理由はあれか)
俺は向かい合う輝夜に視線を向けた。
輝夜は白夜を腰に差し自然体で佇んでいるが今日はその装いが違った。
「驚いたよ、そんな綺麗な袴、持ってたんだな」
輝夜が身に着けていたのは今まで着ていた袴と似ていたが今までものより白の純度が増して胸の当たりには羽ばたく金の鳥の刺繍が描かれており輝夜の美貌と相まって思わず息を呑むような存在感を示していた。
「これは拙者の戦装束でござるよ、アレスと戦うなら必要でござる」
輝夜から相手を斬るという意思である剣気が発さられ俺の前髪を撫でた。
周囲からは応援の歓声が響いているが俺の意識は輝夜一人に集中し始めていた。
「その気持ちに誠心誠意応えさせてもらう」
「試合開始!」
試合を始める声が響いたが俺と輝夜は動かなかった。
お互いの刀の柄に手を置いたまま動かない。
だが二人の間ではお互いの剣気が衝突し剣呑さを増していった。
空を覆う雲が一時的に太陽の光を隠す。
「ゴクリ」
審判が生唾を飲み込んだ音がした、アレスと輝夜の剣気に圧倒されているのだ。
そして始まりは一瞬だった。
雲を抜けて太陽の光が二人を照らした瞬間審判には二人が消えたように見えた。
「闘魔抜刀 瞬閃」「陸ノ太刀 迅」
いつの間にかアレスと輝夜は刀を抜刀し打ち合っていた。
鮮烈な金属音が響き二人の刀が衝突した衝撃波が周囲に広がり地面の土を舞いあげた。
「「はぁぁぁ!!」」
裂帛の声を二人が上げ二人の刀が常人の視認を許さない剣速で打ち合い黒と白の斬線と刃がぶつかり合う度に走る火花だけが見えた。
(アレスはまだ龍星を抜いていない、これは試しでござるか)
輝夜は目に止まらぬ速度で刀を振りながらもアレスが二本の刀を抜いていないことに警戒していた。
(しかし抜かぬというのならばその隙は与えぬでござる!)
「捌ノ太刀 雲雀!」
輝夜が振った刀の斬線が閃き七本の斬撃が至近距離のアレスに迫った。
七本の斬撃と現在振るっている白夜を合わせれば八つの斬撃は一本しか抜いていないアレスには防げないと輝夜は予想したがアレスの行動をそれを裏切った。
「空縫の歩法」
「な!?、ぐっ!」
なんとアレスは斬撃の合間を縫うように移動し避けて輝夜にそのまま肩からぶつかった。
輝夜は咄嗟に刀の柄を盾にしたことで直接打ち付けられるのは防いだが衝撃は殺せず後方に吹き飛ばされた。
両者の間合いが開き元に戻った。
「今のは危なかったな」
後方に吹き飛んだ輝夜を見ながら俺は小声で呟いた。
実際輝夜があの至近距離で天刃流の技を出せるとは思っていなかったのだ、出せるのかもしれないと可能性だけは頭の片隅で考えていたので咄嗟に行動出来た。
それと避けられたのはメリアと偶にやっていた飛んでくる飛光剣を避ける鍛錬の時使っていた技術を実行しただけだ。
"バハムート流体術 空縫の歩法”は攻撃の隙間を見極めてそこを通り避けるという技だ。
「だけど防がれたか」
刀を振り戻す時間が無かったので肩から突進して反撃したが輝夜には見事対応された。
その咄嗟の判断力には感服した。
そして先程輝夜と交わした三十三合で実感した。
(輝夜の間合いはまるで刃の結界だな)
アレスは輝夜の思っていた通り輝夜の力を試していたのだ、そして試した分かったことは輝夜の間合いは"魔体化”と闘気による刃が自在に走る文字通り"刃の結界”だ。
俺が修めているバハムート流とは違い完全な長距離を制す技は持たない天刃流だがその分近接戦に置いては無類の強さを誇ることを身をもって実感した。
(さてどう斬るか)
アレスは右腰から龍星を抜いて龍焔と共に二本の刀を構えて輝夜が吹き飛んで砂埃が舞う場所を睨みつけた。
「《一刀神依》」
砂埃が勢いよく晴れて金色の覇気を纏った輝夜が現れた。
「な!?、それは!!」
俺は輝夜が纏う力を感じて驚いた、何故ならそれは俺が扱う"龍闘気”と同じ性質の力を感じたからだ。
「少し油断したでござるよ、ここからは文字通り本気で行くでござる」
「ーーー」
輝夜の背後に金色の羽ばたく鳥の幻影が現れた。
(あれは…)
「白夜に宿る神獣八咫烏でござるよ、これが拙者の本気でござる、さぁアレスも出すでござる!」
輝夜は金色の覇気を猛らせながら言った。
輝夜は直感的に分かっていたのだ、アレスの奥の手が自分と同質であることを。
「《龍闘気解放》」
俺は自然と鍵言を呟いた。
アレスの全身から紅の覇気が立ち上った。
二人の覇気がぶつかり合い弾けた、闘剣場にいる人達は紅色と金色の覇気の衝突に思わず目を奪われた。
「「俺の『拙者の』全力で君『貴殿』を斬る!!」」
瞬間二人が立っていた地面が爆ぜた。
二人の力強い踏み込みに耐えられず地面が弾けたのだ。
アレスは龍焔を右手に龍星を左手で逆手に持ち輝夜は白夜を中段に構えてぶつかりあった。
「双魔刀技 烈風ー!」
刀から放たれた風が収束し風の盾を形成した。
「壱ノ太刀 天断!」
輝夜は途中で変えた大上段の斬撃で風の盾を一刀に伏した。
「魔刀技 風魔!」
刀を振り下ろした体勢の輝夜に二本の刀で突きを放つ。
「参ノ太刀 月影!」
輝夜はその突きを瞬時に構えた下段からの白夜と魔刃の攻撃でうち払った。
「"蒼雷よ・穿け・穿雷”!!」
俺は目に魔力を送り《蒼の雷眼》を発動、蒼雷が迸り輝夜目掛けて飛んだ。
「漆ノ太刀 叢雨!」
輝夜は初見の攻撃に目を見開いたが昨日少しだけ見せたので何となく予想していたのか刀に魔力の刃を収束させた斬撃で弾き飛ばしたが全ての電撃は防げず輝夜の手に雷が当たったが輝夜は気にせず刀を一閃。
二人は既に理解していた。
((この戦い退いた方が負ける!!))
「魔刀技 蒼天!」
「伍ノ太刀 燕!」
二人の技が至近距離で激突し大地を削り衝撃波が飛んだ。
二人の斬り合いが百合に届いたところで二人は鍔迫り合いになった。今の二人の膂力は互角だがアレスの方が僅かに背が高いのでアレスが上から輝夜は下からぶつかり合う形となった。
二人の顔には獰猛な笑顔が満ちていた。
「やはりアレスは最高でござるよ!、大好きでござる!」
輝夜は満面の笑みを浮かべて言った。
「俺もだ、"龍闘気”を使ってここまで長引いたのは初めてだからな!」
アレスも輝夜と似たような笑みを浮かべていた。
ギィィィィン!!!!
二人は金属音を響かせながら鍔迫り合いの状態から後ろに下がった。
「だけど生憎とそろそろ限界なもんでな、決着をつけないか?」
俺は龍焔と龍星を鞘に納刀し抜刀の構えを取った。
「なるほど、それを拙者も同じでござる、その言葉乗らせていただくでござる」
輝夜は今までの中段の構えとは少し違い刀の先を突き出すような構えを取った。
二人の覇気が最後の輝きを示すかのように立ち上るのを止め二人の剣に輝きを強めながら収束し始めた。
「我がバハムートの力、その真髄を見せん」
俺は二本の刀の柄を強く持った。
「天刃流…」
輝夜は刀を構えグッと踏み込んだ。
二人は地面を蹴りその距離を詰めあった。
「"闘魔抜刀 龍墜黒蒼雷刃”!!!!」
アレスの背中から龍の翼が現れ蒼雷と共に二本の蒼と黒の斬撃が振り下ろされた。
「"奥義 百花繚乱”!!!!」
輝夜が放つ斬撃が数百、数千を超えてアレスに降り注いだ。
二人の影が重なりすれ違った。
二人は静かな動作で刀を取り回して鞘に収めた。
鮮烈な納刀音が響き目の前の出来事が現実であると観客たちは実感した。
ブシャア!!
二人から血が吹き出た、アレスは全身に無数の斬撃を輝夜は巨大な二つの斬撃に斬られたような出で立ちだった。
「こ、これは!!」
審判はどう勝敗を決めるか決めかねた、何故なら二人は立ったまま気絶していたからである。
文字通り全身全霊で戦い全てを出し切ったのだ。
「勝敗は引き分けとする!!、すぐさま二人を手当するのだ!!」
将軍義敏の声に弾かれたように動き出した審判たちとどよめく観客は目の前で起こった出来事を未来へ語り継ぐこととなる。
天月の麒麟児と呼ばれた少女 天月輝夜と異国の剣士 アレス・バハムートが行なったこの一戦は"紅と金の刀閃乱舞”と呼ばれ大和の国にて長く語り継がれることなるのだった。
最高の剣士の戦いは語り継がれる――




