閑話 大和城
時間は少し巻き戻りアレスが鍛冶場で打ち直しをしている時刻、天月家当主天月正信は次期当主である息子の正宗を連れて大和の国の最高権力者将軍が住まう大和城に登城していた。
「父上はアレス殿のことを大御所様にお伝えになるのですか?」
息子の正宗は疑問顔で正信に言った。
「ああ、そうだ、ガランの息子殿が来たのならば報告せねばならないからな、そういう正宗は日和様に会いたいのではないか?」
大和の国は将軍家を頂点に百を超える武家が忠誠を誓いそれらがそれぞれの領地を怪魔から民を護ることで成立している国だ、中でも天月家は大和の国が建国されてから存在する名家で将軍家との繋がりも深い。更に言えば今代将軍義敏の娘は二人居るがその内の一人は正宗の許婚であった。
「か、からかわないで下さい父上、確かに会いたいですが某は次期当主として来たのですから」
「そうか?、ならば良い」
正信は正宗の出来の良さを理解している、正宗の言う通りからかっただけだ。
「あら?、その声は正宗様?」
大和城の長い廊下を歩いていた正信と正宗だったが後ろから凛としたまるで鈴のような美しい声がかけられた。
「これはこれは日和様ご健勝なようで嬉しく思います」
正信は慇懃に頭の下げた。
振り向くと先程話題に上がっていた将軍様の娘である黒髪に薄茶色の瞳をした日和様とお付の侍女三人が居た。
「ーー!?」
正宗は驚きのあまり言葉を失ってしまった。
「お久しぶりです、正信様、貴方が城にとは大御所様に御用ですか?」
「ええ、報告事がございましてな、参上したしだいです」
そう言って正信は未だに驚きで固まっている正宗を小突いた。
「は!?、ひ、日和様、お、お久しぶりです」
「まぁ!、日和様だなんて悲しいです」
日和はよよよ、と悲しむ振りをした。
「し、しかし…」
どぎまぎする正宗に正信とお付の侍女たちは小さく笑いを零してしまった。
(全く剣や家のことなら次期当主として問題ないが日和様の前だと何とも頼りない)
正信は内心溜息を吐いたがそういう所も含めて息子は面白いと思う。
「良い機会だ、正宗、大御所様への報告は私一人で十分だろう、久しぶりにお二人で過ごされたら良い」
「父上!?」
「良いのですか?、正宗様をお借りして?」
日和は降って湧いた幸運に目を輝かせた、何故なら日和は小さい頃から一緒に過ごしてきた正宗のことが大好きだが正宗も次期当主の身で何かと忙しいので城に来ることは少ないのだ。
「構いませんよ、ではな正宗」
「え、ちょっと!?」
戸惑う正宗を他所に正信は廊下を再び歩き出した。
「正宗様、駄目ですか?」
日和は正宗に抱きつき上目遣いで言った。
「い、いえ、構いません日和様」
「むぅぅー」
日和は頬をふくらませた。
「ひ、日和」
「合格です!、椿、茶と何か手軽に食べれる菓子を持ってきてください」
「承りました、日和様」
日和の命令に従いお付の侍女である椿たちは準備を始めるのだった。
◆◆◆◆
一人になった正信は廊下をさらに進み将軍が臣下と謁見する"雷神の間”に辿り着いた。
「よい、入るがよい」
正信は襖の奥から聞こえた声に従い襖を開け入室した。
雷神の間はその名のとおり大和神話に登場する雷神様の巨大な横屏風が特徴的な部屋でかなり広い、新年の初めには臣下の武家全ての当主が入るので当然でもある。
「ーー」
正信は部屋の中間程まで進み座って三指をつき深く頭の下げて臣下の礼を取った。
「余計な礼儀は要らん、私とお前の仲であろう?」
「そうは行かん、お前、失礼、大御所様は将軍であるからな」
「今更訂正しても、遅いわ、して何用だ、お前が城に来るとは珍しい事もあるな」
肘立てに肘を置き若干不機嫌そうに言うのは大和の国将軍義敏だ。
そして正信と義敏は幼少の頃からの友人でもあった。
「不機嫌そうだな義敏?、また樹様が何かされたのか?」
樹とは大和将軍満の一人息子だがまだ十歳でありながら将軍家の権力を傘にした傲慢なところがあり武家の子女が学問を学ぶ学び舎では度々問題を起こしていた。
「よく分かったな、ちっ、育て方を間違ったか、将軍家唯一の男児として甘やかしが過ぎたか」
義敏は珍しく舌打ちをして言った。
「そこまで深刻になるな、まだ十歳であろう、確かに樹様の取り巻きに問題があるかもしれんが…」
「ふうー、まぁ、いい、これは親である私の問題だ、それで何をしに来た?」
義敏は溜息をはいて正信に促した。
「ガランの息子をうちの輝夜が連れてきたのだ」
「何!?、ガランの息子!?、それはまことか!?」
「ーーー」
立ち上がり驚く義敏に正信は深く頷いた。
「ガランの息子か、確かにミリアとは仲が良かったからな、息子が居てもおかしくはないがそれは本物か?」
義敏は座り直し佇まいを正して言った。
ガランはこの大和では英雄だ、だからこそガランの息子だ、とかガランの親戚だと名乗る不埒な輩は昔は多く居た、最近は聞かなくなったが義敏はそれを警戒しているのだ。
「まず間違いないな、ガランと同じ紅色の髪に目元などはミリアによく似ていたし何より昔ガランと剣をあわせた時に感じたババムートの覇気を纏っていたよ」
「正信がそこまで言うのなら、本物なのだろうな、ガランか、あれからもう三十年以上経つのか、あそこまで激的に動き回り、戦ったことは今も昔も無かったがひどく懐かしいな」
義敏は昔を思い出すように言った。
「それについては同感だ、おお、そうだ、御前試合の参加者はまだ募集していたか?」
正信はアレスから頼まれていたことをこの機会に頼み込もうと思った。
「まだ、募集しているが、まさかガランの息子が出たいとでも言ったのか?」
「あいからわず察しが良いな」
「別にそれの程度簡単にできるが流石に本戦からは入れらんぞ?」
「予選からということだろう?、アレス君は御前試合に出れるなら構わないと思うぞ」
「ふむ、なら今一度会った時にでもに予選が行なわれる日にちを伝えてやれ、調整はしといてやる、私も何よりもガランの息子の力を見てみたいからな」
「お前もか、なぁ、義敏?」
「ーー何だ?」
義敏はいきなり父親の顔になった正信に若干驚きながらも聞き返した。
「輝夜をアレス君の嫁にだそうと思っているのだが、どう思う?」
「ーーーー」
義敏は文字通り絶句した。何故なら輝夜は大和に住むもなら知らぬものなどいない有名人の為、婚姻や恋人になりたいなどの誘いはあとが立たなかったが輝夜を溺愛する正信はそれを全て断っていたのだ、なのでその正信から輝夜を嫁にという言葉を聞いた時我が耳を疑った。
「それ程の者なのか?、ガランの息子のアレスとやらは?」
「ああ、ほんの数時間だが会話して確信した彼は誰も聞いたことないなにかを成し遂げるとな、そのような者の傍に居れば輝夜も幸せであろうよ」
「お前がそこまで期待する男ならますます気になってきたな、なぁ、城には呼べんか?」
「おい、いいのか?、ガランの息子とはいえ、そんな簡単に異国の者を城に上げて…」
「構わん!、会ってみたくなった、アレス君の都合がつく時でいいからな」
「はぁ、分かったよ、伝えておいておこう、ではそろそろ俺はお暇しよう、正宗を日和様に捧げたばかりで心苦しいが…」
「微塵もそんなことを思ってないくせに言うでない、だが正宗はもう少し置いておいてくれるか?、日和もここ最近彼が城に来ずに寂しがっていたからな」
「無論構わないぞ、それではな」
二人の会話の中でアレスの新たな予定が増えるのだった。




