四十六話 輝夜の趣味
「アレス殿気分は如何でござるか?」
「大丈夫、一時間も休めば楽になった」
心配にそうに上から覗き込む輝夜に俺はそう返した。
月夜改め龍焔を打つ時にどうやら無意識下で"龍闘気”を解放し更に限界一歩手前まで注ぎ込んだお陰で疲労感がとんでもなかったので俺は鍛冶場の武器などを試し斬りする為に藁人形や古鎧がある中庭にある木の下で寝転び休んでいたのだ。
(なんで鍵言を唱えてないのに解放されたのか、疑問が尽きないけどこの疲労感はヤバイな、ヤマタノオロチの言う通り本格的に鍛える方法を考えないとな)
「疲労感がある程度とれたのならならば昼餉を食べるでござる」
そう言って輝夜は先程までは持っていなかった背嚢から何かを包んだ大きな笹を取り出し開いた。
「いい匂いで美味しそうだけど何だそれ?」
輝夜が開いた中身は俺が初めて見る食べ物だった、無数の白いつぶつぶを押し固めて三角形の形にした食べ物が四つ入っていた。
「む?、アレス殿は"おむすび”を知らないでござるか?」
「嗚呼、初めて聞くよ」
俺はそう言って"おむすび”とやらを手に取った。
「おむすびは米を研ぎ釜で炊いたご飯を中に様々な具材を入れて包んだ食べ物でこざるよ、拙者が作ったゆえ食べるでござるよ」
「ーーではお言葉に甘えて…」
一瞬悩んだ俺だったが輝夜のニコニコとした笑顔に負けて食した。
「ん、酸っぱい、けど美味いな」
俺が食べたおむすびは何やら赤色の具材から酸味を感じたがそれが逆にアクセントとなって美味しい。
「それは"梅干し”でこざるよ、梅の実を熟成させたものでその独特の酸味から好む者を選ぶでこざるが…」
「俺は好きだな、美味しい」
俺はものの数秒で完食した。
「まだあるでこざるよ、これは…」
輝夜は残り三つのおむすびの中身も手寧に説明してくれた。
俺はそれを全て食べた。
「ご馳走様でした」
俺は手を合わせて言った。
「お粗末でござるよ」
そう言って輝夜は包んであった笹を背嚢に仕舞った。
「さっき言ってたけどおむすびは輝夜が作ったのか?」
「そうでござる、いや、実は拙者は剣を振るのも好きでこざるが料理もそれなりに得意なのでござるよ」
輝夜は頬を朱色に染めて若干照れながら言った。
「料理か、確かに輝夜の作ったおむすびは美味しかったな」
考えてみれば知り合いの手料理を食べるのは初めてかもしれない。
「拙者は自慢ではないでござるが、この大和の中では一番の実力者なのでござる」
輝夜の力の底はまだ分からないが輝夜の言葉から純然たる事実だと分かった。
「他人に話すのはいささか恥ずかしいでござるが武人として一番となるとの同時に女としての自分を磨いていたのでござるよ」
輝夜はメリアには及ばないが白い肌の右手で握った拳を見て言った。
「幼い頃から武人として父上、家の家事を奉公人と一緒に巧みにこなす母上に憧れていたのでござるよ」
俺は輝夜の言葉に耳を傾けていた。
「そして初めて大和の外に出てアレス殿たちに出会い、世界というものの広さを知ったでござる」
「輝夜はそう思ったかもしれないけど、メリアもスカハもそこら辺の武人たちよりは強いからな」
「知ってるでござる、メリア殿は何やら力の秘密がありそうでござるがスカハ殿の槍の腕には思わず見惚れた程でござるよ」
俺は輝夜の言葉に深く頷いた、スカハの槍は実戦的かつまるで上流から下流に流れる流水を見てるよな錯覚に陥るほど玲瓏なる美しさがある。単的に言えば俺の恋人は最高ということだ。
「アレス殿は御前試合を勝ち抜き優勝したら大和を旅立つのでこざるか?」
「そうなるな、元々大和には月夜を打ち直す為に来たんだけど、まぁ、途中で目的が変わったけど冒険なんてそんなもんじゃないかな?」
「そうでござったか、、、アレス殿は更に上を目指すにはどうすればいいと思うでござるか?」
「それは更に強くなりないことか?」
俺の言葉に輝夜は頷いた。
「いつかは大和を出ないといけないんじゃないか?、輝夜は大和内で最強ということはつまり大和ではこれ以上強くなれないということでもある」
「っ!?」
これ以上強くなれないという言葉に輝夜は少なからず衝撃を受けた。
「でも輝夜の考えは好ましいな、"武人たるもの向上心は忘れるな”というババムートの家訓の一つを実践してるんだからな、俺はそんな輝夜のことは好きだ」
「っ!?」
輝夜は先程とは別の衝撃を受けた、そういう意味では無いと分かっていても好きだと言ったアレスの笑顔は思わず呼吸を忘れる程魅力的で一瞬で輝夜の心に刻み込まれた。
輝夜が作ったおむすびを食べた俺は輝夜共には天月邸に戻った、帰る途中も輝夜とはたわいのない会話をしたが何故かアドバイスした筈なのに輝夜の態度がどこかよそよそしかったのが気にはなったが。
「すいません、メリアとスカハ…じゃあ分からないか、銀色の髪の女の子と青色の髪の女の子を見かけませんでしたか?」
俺は輝夜とは廊下で別れたので天月邸で働いている女性の使用人…大和では奉公人と言うらしい…に声をかけた。
「銀と青というと、メリア様とスカハ様ですね、輝夜様が招いた大事なお客様なので東の客間に居ると思いますよ」
「東の客間ですね、分かりました、ありがとうございます」
俺は親切な使用人さんにお礼を言って東の客間に歩き出した。
何度か使用人さんたちとすれ違いながら程なくして東の客間に着いた。
「メリアー、スカハー、居るか?」
天月邸の部屋の扉は引き戸なのですぐさま開けはせずに声をかけた。
「入るのは少し待ってて、もう少しで準備が終わるから、…スカハ髪飾りが曲がってるわよ」
「ん、メリア、ありがとう」
俺はメリアの言葉に従い壁にもたれかかって待った。
「これで良し!、アレス入って大丈夫よ」
メリアのお許しが出たので部屋に入った。
「!?」
そして絶句した。
そこには着物を着たメリアとスカハが居た、メリアはいつも長く伸ばしている銀色の髪を簪を使い上に纏めてその髪に合った白を基調として金の鳥の刺繍が大きく右脚の裾に書かれそれが相乗効果を呼びメリアの魅力を十二分に引き出していた。
スカハは短く揃えた青色の髪にいつも付けている俺があげた青色の髪飾りを二本の角の邪魔にならない位置つけて青を基調として空色と紫の花の刺繍が散りばめられている着物を着ていた、青色と紫がスカハのイメージに合い非常に魅力的に感じた。
「メリアは煌めく銀色の髪に白色の着物が合わさって綺麗で似合っている、スカハは蒼穹のような青色の髪に瞳と同じ紫色の花が入った着物がとても似合っているよ」
感嘆の言葉は自然と口から出た。
「うふふ、ありがとうアレス」
「う、嬉しい」
メリアは微笑みスカハは若干照れながら言った。
「二人は元の素材がいいからおばさん頑張っちゃたわ!」
「うわ!?、静音さん居たんですね」
俺はそこで初めて部屋の隅にいる静音に気づいた。
「静音さんが二人を着飾ってくれたんですね、ありがとうございます!」
俺はここまで俺の恋人を美しくしてくれた静音さんに感謝の言葉を伝えた。
「いいのよ、お客様だし気にしないでちょうだいね、じゃあおばさんはここでさよならよー」
そう言って静音さんは疾風もかくやという速さで部屋を出てった。
「着物を着るって言ったけどここまでとはな」
「ここまで着飾ったのは理由があるのよ、今日から丁度御前試合がある大和祭まで一月だから前月祭が始まるらしいのよ」
「それにアレスと一緒に行きたい」
珍しく目をキラキラさせるスカハに若干苦笑した。
「分かったよ、愛しの恋人の二人は俺が責任もってエスコートしますよ」
俺は心の中で緊張しながらもメリアたちに笑顔を向けて言うのだった。




