四十五話 再成の刀
「その、アレス殿、父上がいろいろと済まないでござる」
申し訳なさ全開で俺に謝るのは長く艶のある黒髪を紐で後ろに纏めて白い袴を着ている輝夜だ。
「気にするなよ、元は俺が言い出し事だし、まぁ、いきなり結婚とか言われたのには驚いたけどな」
俺は歩きながら輝夜に言った。
結局あの場は俺の刀を直すのが先決ということで一旦お開きになった。そして俺は静音さんに大和の衣装である着物を着てみたいと言ったメリアとスカハと天月邸で別れて自ら申し出てくれた輝夜の案内に従い刀鍛冶工房に向かっていた。
「父上は拙者の事なると暴走しがちなのが玉に瑕でござる、話は変わるでござるが本当にアレス殿は御前試合に出るのでござるか?」
若干項垂れた輝夜は顔を上げて言った。
「ああ、そのつもりだ、御前試合は大和最大の武闘祭なんだろ?」
「母上の言った通り年に一度の祭りでござるな、ちなみに拙者も出るでござるよ」
「ーーー」
輝夜の発言に驚いた俺であったが冷静に考えて大和のお祭りなのだから輝夜が出ても不思議ではない。
「だったら対戦する時はよろしくな」
「もちろんでござるよ、ちなみに去年は拙者が優勝したでござるよ」
輝夜は誇らしげに言った。
「尚更倒しがいがあるってもんだ」
アレスは無意識に蒼色の瞳の中で蒼雷を迸らせ好戦的な笑みを浮かべて言った。
「メリア殿たちが何故貴殿を好くのか、少し分かった気がするでござるよ」
輝夜にはアレスの男らしい笑顔はとても魅力的に映り思わず顔を背けてしまった。
冷静に考えてアレスは輝夜から見ても魅力的な男だ、まず何より強い、強さは武家の娘である輝夜にとっては重要だ。
更にあの英雄ガランの実の息子である、惹かれないわけが無いだが、こんな事を考えるのは初めての輝夜はまだこれが噂に聞く恋心かどうか、見極める為もっとアレスのことを知ろうと考えていた。
しばらくの間輝夜とたわいのない会話をしていると輝夜が一つの建物前で止まった。
「アレス殿、ここが"天月工房”でござるよ」
輝夜は看板を指さして言った。
「ここが…」
残念ながら俺は大和の文字は読めないので看板の文字は分からなかったが確かに鉄を打つ音と鍛冶場特有の熱を入口から感じる。
「叔父上ー、入るでござるよー」
そう言って輝夜は工房の中に入った。
俺も輝夜の後ろについて行った。
入った瞬間工房が外の空気とは全く違う熱で満ちていることに気づいた。
(鍛冶場独特の空気ってやつか)
「お?、その声は輝夜か」
鍛冶場は刀を打つ巨大な炉床が二つと小規模炉床がいくつかありその個々に職人たちが集まっていた、その内の言うなれば髭を生やした正信さんのような人が輝夜を見て立ち上がり言った。
「久方ぶりでござる、正頼叔父上」
「姉上!、いつ戻って来たのでござるか!」
顔立ちが正宗さんに似た黒髪の男の子が立ち上がり輝夜を見て言った。
「つい朝方でござるよ、正時」
輝夜はそんな男の子を見て微笑んで言った。
「して何用だ?、今日は"白夜”の整備の日でないが…」
「今日来たのは叔父上にアレス殿の刀の打ち直しを依頼したのでござるよ」
「どうも、アレス・ババムートです」
俺は正頼さんに挨拶をして軽く会釈した。
「なぁ!?、お前今ババムートと名乗ったか!?」
正頼は驚き俺の服の襟を掴む勢いで迫り言った。
「あ、嗚呼、そうです、どうやら大和では大分父さんは有名なんですね」
俺はその勢いに若干気圧されながら言った。
「お前はガランの息子なんだな?」
正頼は恐る恐る確認するように言った。
「そうです、まぁ証拠はないんですけどね」
「いや、お前はガランの息子だ、あの時のガランにそっくりだし纏う雰囲気が凡百の者とは明らかに違うからの」
正頼さんは視線を何度もアレスの全身を往復させて言った。
「ええ!?、英雄ガランの息子!?」
「息子が居たのか!?」
「姉上どうゆうことですか!?」
鍛冶場居る人達が大混乱している。
「拙者も初めて知った時は心の臓が飛び出る程驚いたでござるよ、なんとも不思議な奇縁でござるよな」
輝夜はしみじみと言った。
「そんなに驚いてたか?」
「驚いたでござるよ!、弱味を見せないと取り繕っていただけでござる」
(自信満々で言うことなのか?それは…)
「大和にはこれを直す為に来たんです」
俺は輝夜を胡乱な目で見つつ腰から半ばで折れた月夜を抜いた。
「これは…」
瞬間正頼の表情が一変して職人の顔つきになった。
「虹玉鋼に漆黒の刀身、これだけ特徴が合えば見間違えん、これは月夜だな」
「そうですよ」
確認するように聞く正頼さんにそう答えた。
「どのような怪魔の戦いで折れたのだ?」
「この国ではどう言うかは知りませんがアースドラゴンという魔物と戦ったんですよ、その時に奴の攻撃を喰らいましてね」
「ドラゴンとな?、確かに異国の言葉だったな」
「叔父上、ドラゴンとは竜のことでこざろう」
首を傾げる正頼さんに輝夜が横から補足した。
「竜!?、なるほどの、何故虹玉鋼の月夜が折れたのか納得よ」
正頼はしきりに頷いて言った。
「単刀直入に言います、どうやったら月夜を直せますか?」
「打ち直しの方法は簡単よ、お前が槌を持ち練功を練り込みながら打てば良い」
正頼さんは炉床に置いあった槌を持ち上げて言った。
「やってみるがいい」
正頼さんの言葉に従い炉床に近づき槌を受け取った。
「お前たち、よく見るがいい、これから始まることを目に焼き付けろ」
正頼さんの言葉が聞こえたが俺は集中して頭に入って来なかった。
炉床に正頼さんが火を入れた。
淡く炎が立ち上り床を温めた。
「ーー」
俺はアイテムボックスから折れた切っ先の方を取り出して床に置いた。
更に折れた月夜を分解して刃だけにして床に置き分解された鍔や柄などはアイテムボックスに仕舞った。
「初めは少量を注ぎ少しずつ増やすのだ」
正頼さんの言葉に従い槌を刃に打つ瞬間に魔力を注いだ。
刃に槌が振り下ろされる瞬間蒼光が散った。
時間が経つにつれて炉床の温度が上がり暑くなってきたが気にしない。
俺は注ぐ魔力を少しずつ増やしながら打った。
アレスは月夜の刃に全神経を研ぎ澄ませた。
《『汝の剣に龍の力を』》
アレスは集中して気づかなかったが声が頭の中に響きアレスの全身から紅い覇気"龍闘気”が立ち上り槌を伝って刃に入り込んだ。
「なぁ!?」
その光景に一同は驚いたが中でも一番驚いたのは輝夜だ。
(あ、あれは神気!?、アレス殿は一体何者なのでござるか!?)
輝夜はメリアに少しだけほのめかした奥の手とは輝夜が《妖刀》の力を借りて始めて引き出せる"神気”の事だ、自分とは色こそ違ったがアレスが放っているのは正しくそれだ。
アレスはそんな一同を気にもせず一心不乱に槌を刃に打ち続けた。
(俺の刀、月夜、絶対に復活させてやる!、あらゆるものを斬る俺だけの剣にするんだ!)
アレスが思考して間にも月夜の刃は暗黒色と紅色で明滅した。
「は!?、今じゃアレス全ての練功を注ぎ込め!」
正頼さんの言葉に従い、無意識に解放していた"龍闘気”、闘気、魔力、文字通り全てを一気に槌を振り注ぎ込んだ。
「うお!」
折れた刃が接合し、バチッと衝撃が刃から発せられてアレスは少し吹き飛んだ。
「アレス殿、大事ないでござるか!?」
「嗚呼、大丈夫だ」
俺は心配する輝夜にそう返事して炉床に近づいた。
そこには元の漆黒の刀身をそのままにゆらゆらと揺れる淡い炎のような紅色の刃紋が現れていた。
「こ、これが虹玉鋼を打ち直した刀?」
誰かが呆然と呟いた。
「そんなものでない…これは神刀よ、大和城で拝謁した伝説の英雄大和武尊様が持っていた数々の名刀と同じ雰囲気を感じるぞ」
正頼はまるで歴史的瞬間を見た人のように感動しながら言った。
俺は炉床の火を空気送り込む穴を塞ぐことで消し刃を手に取りアイテムボックスから鍔や柄などを取り出して付けた。
「よし、これは月夜か?、前と雰囲気が違うな、打ち直すと別の刀になるのか?、だったら銘を新しく付けないとな…」
そう言ってアレスは刃を見て少し俯き考えた。
「"龍焔”はどうでこざるか?、アレス殿」
「龍焔?」
「そうでござる、刃紋が大和神話に登場する焔の龍の体色によく似てるでござる」
輝夜は俺が持つ漆黒と紅色の刀を見て言った。
「ふっ」
俺は"龍焔”を軽く振った。
するとボォォォ!と黒い炎が刃を包み直ぐに霧散した。
「龍焔ね、その銘有難く付けさせてもらうぜ、輝夜」
そう言ってアレスは"月夜”改め"龍焔”を腰に差す漆黒の鞘に仕舞うのだった。
「「「ーー」」」
輝夜を含めた一同はその淀みの無い一連の動作に言葉を失うのだった。




