四十四話 天月家
「ひ、広いな」
俺は目の前の建物が建つ敷地を見て思わず呟いた。
俺たち《雷光》は輝夜のお兄さんの正宗さんのご好意で輝夜の住む屋敷に来た訳たがラース大陸とは建築様式が違うのか一階建ての建物で一見小さく感じるが敷地の広さが尋常じゃない。
(池とか絶対樹齢百年越えてる樹とか立ってるだけど!?)
「全然想像出来なかったけれど輝夜って意外とお嬢様?」
メリアが隣を歩く輝夜に聞いた。
「傍から見たらそうかもしれないでござるがあまり意識したことは無いでござるよ」
輝夜は頭を右手で撫でながら言った。
「確かに輝夜は大貴族には見えない」
輝夜の発言にスカハは深く頷いて言った。
「まぁ、装いが装いだからな」
輝夜が着ているのは大和の人なら誰でも着ているような袴だ、貴族、正確には武士だが、だと分かる人は居ないだろう。
「あら、正宗、お客様ですか?」
たわいのない会話をしていると屋敷の奥から"着物”を着た輝夜をそのまま大人にしたような黒髪の美女が出てきた。
「そうです、母上、正確には輝夜の客人ですが…」
正宗さんはニコニコしている輝夜を見て言った。
「輝夜帰ってきたのね、おかえりなさい」
「ただいまでござるよ、母上!、アレス殿たちとはターズの方で会ったのでござる」
「そうですか、一先ず屋敷に入って下さい、主人も歓迎しますよ」
俺たちは言葉に従い輝夜を見て大和の作法を盗み見て靴を脱ぎ屋敷に入った。
輝夜の住む屋敷は幾つもの棟に別れておりそれらを吹き抜けの廊下で繋ぐという構造だったが屋敷の主人が居る部屋は屋敷の中心部分にある。
「まさかガランの息子殿に会える日が来るとは…」
そう感慨深く言うのは天月家現当主 天月正信さんだ。
輝夜のお母さんに案内されて入った部屋は当主が仕事をする執務室のような場所で俺たちというか俺を見た瞬間仕事を中断して俺の向かいに座っている。
「よく俺が父さんの息子だって分かりましたね、まだ名乗って居ないのに」
「大和ではまず見かけない紅い髪に二本の剣、その装いを見て一瞬昔のガランを見た気持ちになったのだよ、まぁ、実際はガランとミリアは仲が良かったから息子かな?、と思ったわけだが」
「まさか!?、ガラン様の息子!?、彼が!?」
正宗さんがひどく驚いてる。
「やっぱりアレスのお父さんって凄い人じゃない」
「アレスは大陸が違くても影響力がある」
「いや、俺の力じゃないから誇れないよ」
俺は何故か納得顔のメリアと誇らしげなスカハにすかさずツッコんだ。
「其方の方々は?」
正信さんの隣に座る輝夜のお母さんがメリアとスカハを見て言った。
「メリア・ファフニールと言います、同じ冒険者パーティーでアレスの恋人です」
「スカハ・レヴィアタン、同じ冒険者パーティーでアレスの恋人」
メリアは堂々とスカハは澄まし顔で言った。
「あら♪、お二人も恋人がいらっしゃるのね」
(お願いだから輝夜のお母さん、そんな面白そうな物を見つけたわ!、みたいな顔止めて!?)
「んん!、母上、アレス殿は刀の打ち直しに来たのでござるよ」
輝夜がわざと咳払いをして変になりかけた場の空気を戻した。
「打ち直しとな?」
打ち直しという単語を聞いた瞬間正信さんの顔が真剣になった。
「俺たちは先日アースドラゴンという魔物と戦ったですがその戦いの折に折れてしまったんです」
俺は腰から半ばで折れた月夜を抜いて木製の机の上に置いて言った。
「漆黒の刀身に刀から感じる独特の気配は我が父がガランに打った月夜で間違いないようだが、まさかドラゴンと戦うとはな」
天月家の方々は折れた月夜をジーっと見た後正信さんがそう言って笑った。
「剣士の魂とも言える刀を折ったことは自分の実力不足を悔やむばかりですよ」
「アレス、それは…」
「分かってるよ、話は変わりますが輝夜から聞いた話なのですが大和の国で近々御前試合が行なわれるとか」
俺は心配そうな声を出したスカハに笑いかけてから言った。
「ええ、年に一度の催しで将軍様はもちろんたくさんの人が出場しますけど…」
何故そんなことを聞くのか?と輝夜のお母さんの顔に書いてあった。
「俺はその戦いに参加にして優勝しようと思って来たんですよ」
「え!、そんな事一言も言ってないよね?」
メリアが驚きの声を上げた。それはそうだ一度も言ってないからだ。
「決めたのはここ数日だよ、ババムート流の剣士として剣を折ったケジメはつけないといけないんだ」
ハッキリと告げるアレスの蒼色の瞳にメリアは吸い込まれるように感じた、だがその感覚は決して嫌なものでなくむしろ心地良いとさえ感じた。
実際アレスは御前試合のことを聞いた時はそんなこともあるんだなーと頭の隅に置いていただけだったがここまで来る旅路でその戦いに出て勝ち名誉を得るという事を決めていた。そう決意した理由は単純である、アレスは常に二本の刀を持ち修行して戦ってきたが刀が一本分の重みしか感じないことにかなりの寂寥感を感じその気持ちを何かしらの方法で晴らしたかったのだ。
「なるほど、アレス君は私に御前試合に参加する手配をして欲しいと?」
正信さんはあくまで優しく言った。
「厚かましいお願いとは理解してます、そこをなんとか」
俺は頭を下げてお願いした。
「ははははは、全く親友の子供が会いに来てくれたと思ったらまさかの御前試合に参加したいとはな」
正信さんは突如大笑いした。
「??」
俺は突然笑い出した正信さんに半ば呆然とした。
「ならばそうだな、条件があるアレス君、うちの輝夜を嫁には貰ってくれんか?」
「「「え!?」」」
「父上!?」
突然の爆弾発言に一同は驚き顔になった。
「輝夜は天刃流の跡継ぎとは申し分ないが女としての浮いた話が一つも無くてな、親の贔屓目を抜きしても輝夜は美人であろう?」
「ええ、それは、確かに…」
「アレス殿!?」
小声で頷いたアレスに輝夜は顔を真っ赤にして叫んだ。
「やっぱり私の予測は間違って無かった、むぅ!、アレスのバカー!」
「強い男に惹かれるのは当たり前」
「おお、とうとう輝夜も嫁に行くのだな!」
メリアが叫んだり謎に達観したスカハ、妙に喜ぶ正宗さん、正直言ってこの場から逃げたい。
「あなた、いきなりそんなことを言っても輝夜もアレスさんも困るだけだわ、幸い御前試合まではまだ一月程ありますしそれまでに仲を深めて二人に決めさればいいのよ」
「おお、それは名案だ、流石は静音だな」
(お二人共、俺と輝夜が結婚するのは決定事項なんですか!?)
「あのその条件を受けないと御前試合に参加させて貰え」
「ない」
断言する正信さんにガックリと項垂れて説得を諦めるアレスであった。
「俺には二人の恋人が居るんですけど…」
「なら二人とも結婚すればいいじゃない?」
辛うじて言葉を返した俺に輝夜のお母さん 静音さんはそう言い返した。
「正しくその通りなんですけど、俺はメリアとの約束があるので結婚は難しいです」
俺の行動方針は単純だ、メリアと初めて依頼を受けて解決した日に約束した、"世界を旅して冒険する”冒険者として自由にやりながら愛しい恋人たちと旅をする、だから結婚は今は考えられないと伝えた。
「世界を旅するか、ますます気に入ったぞアレス君!」
断ったのに何故か正信さんは喜色を浮かべて言った。
「輝夜、この子と共に生きなさい、彼はいつか誰も聞いたことのないなにかを成し遂げるわ」
「母上?」
珍しく真剣に言う母に輝夜は怪訝な顔になった。
「やっぱり私、アレスのこと大好き!」
「わたしも!」
後ろからメリアとスカハに抱きつかれた。
「ありがとう、って言えばいいのかな?」
アレスはそう言って僅かに口角を上げて笑った。
過程は兎も角天月家の面々と仲良くなれたアレスたちであった。




