四十三話 ヤマタノオロチ
「船の上から見る夜の空ってのも中々良いもんだな」
俺は満天の夜空を見て一人呟いた。
メリアと輝夜が模擬戦をした日の夜、俺は模擬戦で満足したからなのか珍しくメリアがぐっすりと眠り夜のお仕事がなかったので甲板の上に出て布を使い龍星を手入れしていた。
「おい、起きてるんだろ出てこいよ」
俺は蒼色の刀に話しかけた、傍から見るとおかしな光景だがきちんと理由がある。
『よく起きてると分かったな』
野太い声が聞こえると龍星が淡く光り八頭の龍ヤマタノオロチの幻影が浮かんで来た。
「何となくいるような感じがしただけだよ」
あまりに自然と話しかけて自分でも驚いたぐらいだ。
『それは我らとの繋がりが強まってるお陰かもしれんな』
荘厳な男とも女ともしれない中性的な声が聞こえた。
「繋がりが強まるってどういう意味だよ?」
俺はヤマタノオロチが言った事が気になり手入れする手を止めて聞いた。
『我らは今や神体を失った身だが元は正真正銘の龍である、この刀に宿ることにより現世に留まっているが元は龍なのだ、使い手が武器に相応しく変化するのは当然だ』
少し高い子供っぽい声がそう答えた。
「失ったね、お前は一体どれくらい生きているんだ?」
『数えたことなぞないが、貴様らなど人生など瞬きの瞬間だ』
(人間の人生が瞬きの瞬間って、どんな時間感覚なんだよ)
目の前の生き物の凄さは再認識した瞬間だった。
「ならメビウス様ってどんな人だったんだ?」
目の前の刀は覚醒の時にメビウス様の武器だったと言った、つまり初代ババムートを知っている筈だ。
『……質問が多いな小僧』
一瞬間を置いてヤマタノオロチが反応した。
「お前の存在が不可思議するぎるからな、いろいろ聞きたくなるのは当たり前だと思うけどな」
そう言って俺は再び手入れを再開した。
『メビウスのことを一言で表すのならば強欲よ』
「強欲?」
俺は予想の斜め上の表現に思わず聞き返した。
『メビウスは自らに関連する全てを守ろうして戦っていたのだよ、これを強欲と言わずしてなんと言う、だが我らはそんなメビウスを気に入っていたのは事実よ』
ヤマタノオロチは歳をとった男の声でどこか懐かしむように言った。
「全てね、なら俺はそんな御先祖に恥じないように生きないとな」
俺は詳しく知らないが初代ババムートが生きていた時代は神魔大戦と言われる神と魔の大戦が起こり今の時代より人が沢山死んだと言われているそんなご時世で自分では無く自分以外の全てを守ろうと戦ったメビウス様の偉大さをヤマタノオロチの口調から痛感した。
『ならば貴様は龍の力を学べ、貴様は歴代ババムート当主の中でも最も龍の力と相性が良い、暴天龍も貴様を気に入っているようだしな』
("龍闘気”か、確かに俺の切り札ではあるけど使わない事ばかりに固執して鍛えるって考えが無かったな)
俺の中に強くなる為の新たな選択肢が増えた瞬間だった。
「ありがとうな、オロチ」
『我らはヤマタノオロチだ、勝手に略すな』
最初に聞こえた野太い声がそう言ってヤマタノオロチの幻影は刀の中に戻った。
「さてそろそろ部屋に戻るか」
俺は刀を鞘に仕舞い立ち上がろうとした。
「その声はアレス殿でござるか?」
背中に声がかかった。
「ん?、輝夜か」
俺が振り向くと黒髪の美少女が下の階段から甲板に出てくるところだった。
「今から寝るところでござるか?」
「ああ、そのつもりだけど、、まだ宵の時間だし少し話すか?」
輝夜の声音にほんの少しの寂しさを感じた俺はそう提案した。
「なるほど、アレス殿たちはそのような怪魔と戦ったのでこざるか、何とも大陸が違うと住む生物も十人十色でござるな」
アースドラゴンとの戦いについて話した後、輝夜はそう反応した。
「大和には魔物はいないのか?」
俺は好奇心から聞いた。
「アレス殿が指す"魔物”が練功を宿す生物の名のならば居るでござるが、アレス殿たちが居た大陸程はいないでござるよ」
「魔物が少ないのなら父さんは大和で一体何をしたんだよ」
俺はため息を吐くように言った。
「アレス殿はそれが気になっていたでござるか?」
「まぁ、自分の親がした事が気になるは子供としては当然だと思うけどな」
アレスは若干苦笑いをして言った。
「拙者も詳しくは知らないでござるが父上曰く"何やら大きな怪魔を討伐して将軍閣下を助けた”と言っていたでござるが…父上もあまり教えてくれなかったでござるな」
「そっか」
「役に立てず済まないでござる」
輝夜はしょんぼりと肩を落として言った。
「気にしないでくれ、大和に行けば分かるかもしれないし、最終的に分からなくてもいいしな」
「!!!?」
俺はメリアたちにいつもするように頭を撫でてしまった。
「わ、悪い、ついいつもの癖で、不快だったよな」
同年代とはいえ会って間もない男に撫でられても嬉しくはないだろう。
「そ、そんな事はないでござる、す、少し驚いただけでござるよ」
輝夜は若干頬を赤くして恥ずかしそうに言った。
(こいつ、普段の立ち振る舞いから忘れがちだけど艶のある長い黒髪やぱっちりと開いた黒い瞳と二重の目元を見ると普通に綺麗だしそういう仕草をされると可愛いから困る!)
「も、もう寝るよ、おやすみ」
俺は内心の動揺を隠して早口でまくし立てて階段を降りた。
「おやすみでござるよ」
小さく輝夜の声が聞こえた気がした。
◆◆◆◆
ちょっとしたハプニングをあった俺たち《雷光》だったがターズを出発して十日後の朝にとうとうイザナギ大陸が見えてきた。
「アレス殿ー!、江戸の街が見えてきたでござるよー!」
「お、あれが輝夜が住む街か」
俺は船の船首に移動してだんだん近づく街を見ていた。
「凄いわ!、王都に匹敵する大きさね!」
メリアが興奮した口調で言った。
「自慢でござるが大和の国はイザナギ大陸最大の国でござるからな」
輝夜は胸を張って言った。
「あれは出迎え?」
スカハは船が集まる港で待ち構える集団を指さして言った。
「そうなのか?」
俺は輝夜を見て言った。
「天月の武士団でござるな、おそらく」
船が港に着くと袴を着て伸びた髪を結んだ黒髪の男が前に出てきた。
「輝夜よ!、よく帰ったな!、兄は待ち焦がれていたぞ!」
集団の先頭にいる人がそう叫ぶのだった。
「兄上?、出迎えは嬉しいでござるが怪我をもういいのでござるか?」
「愛しの妹に会うためならばあんな怪我は大したことない、してそこの者たちは?、商会の者には見えないでござるな」
輝夜に笑顔で言った後俺たち《雷光》を見て言った、何故か俺を見る視線が強かった気がするが。
「ラース大陸で会ったアレス殿、メリア殿、スカハ殿でござるよ」
俺たちは紹介された順に会釈した。
「貴殿らは何者だ?、何をしに来た?」
男は眼光を鋭くして言った。
「刀の打ち直しに来たんだよ」
俺は月夜の柄に触れながら言った。
「ーーーー嘘は無いな、失礼した私は天月正宗、天月家次期当主にして輝夜の兄だ」
「アレス・ババムートだ、よろしく」
俺は名乗って差し出された手に握手した。
「長旅で疲れているだろう、輝夜の友ならば我が家に来るがいい、歓迎するぞ」
「そうでござるよ、歓迎するでござるよ!」
機嫌良く言う輝夜の言に従い輝夜の生家 天月家にお邪魔するのだった。




