四十二話 船の旅路
「スカハ殿!、その程度でござるか!」
「輝夜こそ、息が上がってるんじゃない?」
遠くから海鳥の囀りが聞こえ周囲を見渡すと広がる一面の海そして時折響く金属同士の衝突音。現在俺たち《雷光》はイザナギ大陸へ向かう船の甲板の上に居た。
「いくらなんでも二人共意気投合するの早すぎじゃない?」
俺の隣でメリアが読んでいた本を下ろして甲板の上で袴の両袖を捲って紐で縛った輝夜と藍色の魔導服を着たスカハが模擬戦をしているのを見て言った。
「スカハは武術に関する情熱は人一倍あるからな、輝夜も似たような性格みたいだし不思議じゃないだろ」
俺は木刀に闘気と風の魔力を纏わせながら答えた。
「ねぇ、アレス最近あまり寝てないでしょ?」
メリアはふとアレスを見てから双眸を細めて言った。
「(ギクッ!?)あ!?」
メリアの突然の指摘に驚いて魔力操作が乱れて魔力と闘気が霧散した。
「ババムート流の鍛錬に励むのはいいけどしっかり休息を取らないと駄目だからね、、はい、どうぞ」
メリアは本をアイテムボックスに仕舞って可愛く座り直してから膝を叩いた。
「そこに頭を置けと?、公衆の面前で?」
俺はメリアがやりたい事を察して甲板の上で作業する船員たちを見て言った。
「別に私とアレスが恋人同士なのはみんなが知ってることだから良いでしょ」
ターズを旅立って早三日基本的にはメリアと一緒に居た気がするスカハは輝夜と毎日模擬戦したり武術談義してたし見る人が見れば容易く俺とメリアが恋人同士だと言うことは察せるだろう。
「それは、まぁ、確かに…」
反論出来なくなったので大人しく寝転がりメリアの膝に頭を置いた。
「話は変わるけど月夜は元々アレスのお父さんの刀なの?」
メリアは俺の腰にある漆黒の鞘と柄を見て言った。
「ああ、そうだよ、だから絶対に直すし俺ももっと強くなる」
俺は拳を強く握った。
「私、刀についてよく知らないけど折れた刀は直るの?」
メリアが心配するのは当然だ、何故なら普通の剣は折れたら鋳潰す以外利用価値は無いからだ。
「いくら月夜とはいえメリアの言う通り折れたら直らないけど月夜は"虹玉鋼”で出来てるから直るんだよ」
「"虹玉鋼”?」
メリアが小首を傾げた。
「"虹玉鋼”とは霊峰富士の山頂でのみ採れる希少金属でこざるよ」
いつの間にか模擬戦を終えた輝夜が上から声をかけてきた。
「希少金属?」
メリアが顔を上げて輝夜の顔を見て言った。
「魔力をよく通し加工がしやすくしかも錆びることも無い、更に言えば折れた箇所を使い手の魔力を流しながら打つと再生すると言う理想の金属でこざる、富士の大地から湧く霊気を吸収し初めて誕生する金属でござるが、その優秀さの引き換えに数も少なく取りに行くのが大変でこざるし虹玉鋼を扱える刀鍛冶も少ないでこざる」
輝夜は漆黒の鞘を見て右手をあごに添えて言った。
「そんな凄い金属があるんだ、明らかに伝説級の金属ね」
メリアはアレスの漆黒の鞘と見ながら声音に驚きを乗せて言った。
「それはそうとアレス殿、スカハ殿を運んではくれないでござるか?」
輝夜の言葉に先程模擬戦が行われていた場所を見るとスカハは先程俺とも模擬戦をしていたので流石に輝夜との連戦で体力が尽きたのか、甲板の上で伸びていた。
「分かったよ、スカハ!、大丈夫か」
アレスはスカハを介抱する為に起き上がり近づいた。
「輝夜、連戦だけど私とも模擬戦してくれない?」
「メリア殿と?、珍しいでござるな、もちろん構わないでこざるが…」
輝夜は本を読んだりアレス曰く"光魔法の鍛錬”をしていたメリアが模擬戦を求めてくるとは思っていなかったので驚いたのだ。
「スカハと輝夜を見てたら体を動かしたくなったのよ」
メリアは武人特有の笑みを浮かべて言った。
後ろからメリアたちの会話が聞こえたが俺は構わずスカハへ駆け寄った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
スカハは両手で二本の槍を握りながら寝転がり顔に玉のような汗を出して荒く呼吸をしていた。
「全く、大丈夫か?"風よ、集いて、そよ風となれ、扇風”」
俺は詠唱して頭の中で草原で吹くそよ風を想像して風魔法を使用して右手から微風をスカハにかけてあげた。
「心地良い、ありがとうアレス」
「気にするな、大分激しく戦ってたけどスカハから見て輝夜はどれ程なんだ?」
俺はこの数日模擬戦をしてきたスカハから見て輝夜の実力がどれくらいなのか聞いてみた。
「輝夜は本当に人間かどうか怪しい、それ程魔力による身体強化を応用した"魔力体術”が化け物レベル、剣の腕もアレスに匹敵すると思う」
スカハは立ち上がり槍を交差した鞘に戻しながら言った。
「スカハにそこまで言わせる力が輝夜にはやっぱりあるのか」
俺も薄々思っていたことだ、輝夜は出会ったときからその身に宿る魔力を抑えられてなかったが体術や剣術は超一流だと思う、俺はまだ模擬戦をしていないから正確な剣の腕は分からないが強いのは確実だ。
「メリアと戦う見たい」
「ん?」
スカハが指さした方向を見るとメリアと輝夜が向き合っていた。
◆◆◆◆
「輝夜が持っているその刀《妖刀》よね?」
メリアは会った時から知っていたことを向かい合う輝夜に言った。
「よく分かったでこざるな、いかにも"白夜”は我が天月家に伝わる家宝でこざるよ」
輝夜は鞘から純白の刀を抜き大した動揺もせずに言った。
「独特な魔力だったしアレスも持っているから分かったのよ、"銀光剣よ”」
メリアはそう言い返して右手に銀光剣クレセントを召喚して正眼に構えた。
「アレス殿が?、なるほど、あの紺色の鞘に入っている方の刀でこざるな」
輝夜は得心がいったという風に言ってメリアと同じく純白の刀"白夜”を中段に構えた。
二人の間に緊張した空気が張り詰めた。
開始の合図は要らなかった。
「はぁ!」「ふっ!」
二人の距離が一瞬で縮まり剣と刀が衝突した。
二十合を越えたあたりで攻めきれないと判断したのかメリアが一瞬魔力を全開にして水平に斬り払った。
輝夜は水平斬りに込められた力を感じて刀で受けることを嫌い足に魔力を集め一歩下がり後ろに一回転して水平斬りを避けた。
魔力体術の"転回”という技だ。
「妖術だけでなく、剣も相当だと見えるでこざるよ!」
輝夜はメリアの鳩尾、眉間、脇を狙い高速の突きを放った。
「肆ノ太刀 啄木鳥」
剣速が速すぎて突きが幾つも現れたように見えたがおそらく"魔体化”で作った本物の突きと幻影の突きが混ざっている。
「"飛光剣よ”」
メリアは素早く片手に飛光剣を召喚して銀光剣と二つの剣を持ち幻影の突きと本物の突きを見抜き本物の突きだけを剣で打ち払った。
「!?、捌ノ太刀 雲雀」
輝夜は驚きに目を見開いたがすぐに意識を切り替えのか技名を呟くと七つの斬線が縦に迸った。
「くっ!」
メリアは銀光剣と飛光剣の腹で受けて後ろに飛んだが飛光剣は砕けた。
二人の間の距離が最初と同じ距離に戻った。
「メリア殿は"練功”が見えるのでござるか?」
「ええ、お陰で私の子供時代は魔力鍛錬の思い出しかないくらいよ」
驚きながら言った輝夜にメリアは即言い返した。
「拙者の"雲雀”を受けられるのは父上と兄上、スカハ殿くらいでこざるよ、アレス殿は分からないでござるが…」
輝夜は船の端で模擬戦を見ているアレスとスカハを見て言った。
「毎日とはいかないまでもアレスとスカハとはずっと模擬戦をしてきたし今のが輝夜の本気じゃなかったっていうのも大きいわよ」
メリアは銀光剣を油断なく構えて直して言った。
「流石に模擬戦で本気を出す訳にはいかないでござるからな」
苦々しく言う輝夜も本気を出せないことをもどかしく思っているようだ。
「そう?、輝夜もまだ奥の手があるでしょ?」
「さぁ?、どうでござるかな?」
そう言って二人は笑いあった。
「「決着はまたの機会に」」
二人は武器を仕舞って模擬戦を止めるのだった。
密かに船の船員たちが安堵したのは内緒である。




