三十一話 闘気
「どうしたのあれ?」
メリアが宿の外に吹っ飛んだ男を指さして疑問に思ったことを聞いた。
「アレスに会わせろって言ってた、断ったら殴られたからやり返しただけ」
(殴られたって言っても当たってないし最後の股間への一撃は過剰だと思うけどな)
「なるほどね、早速来たのね」
メリアは納得顔で言った。
「まぁ、とりあえず朝ご飯を食べようか」
「了解」「賛成よ」
俺たちは男のことを忘れて店員に朝食を頼んだ。
「スカハ、魔槍の調子はどうだ?」
俺はスカハの背にある金色の槍を見て言った。
「うん、使いやすい」
スカハは少し汗をかいているところを見るに鍛錬してたようだ。
「魔槍、というか魔力を宿した武器は大なり小なり持ち主を選ぶ傾向にあるから状況が状況とはいえ一瞬で扱えるようになって驚いたわ」
メリアは本当に驚いたようだ。
「槍の本質は皆一緒、それを理解すれば誰でも扱えるようになる」
スカハはなんでもないように言った。
(流石にヤマタノオロチにみたいに完全な自意識を持っていることはそうそう無いけどそれでも凄いな)
俺はスカハの槍の腕に改めて感心した。
「それはそうとアレスも槍をもってるでしょ?」
「あ?、確かに宝箱には二本あってメリアと分けたけど何で分かったんだ?」
俺は不思議に思った。
「この槍を使っていて何となくそう思った」
スカハは金色の槍に触れながら言った。
俺とメリアは顔を合わせた。
「そういう事って分かるものなのか?」
「さぁ?、私も詳しくは分からないわ、魔剣や魔槍にも色々あるしスカハって不思議よね」
メリアは首を横に振った。
「んー、そういうことならスカハにやるよ、俺が持っていても仕方ないからな」
俺はアイテムボックスから赤色の槍を出してスカハに差し出した。
「いいの?」
「スカハは元々二槍使いだし槍が二本ないと落ち着かないだろ?」
「確かに、そういうことなら貰う」
スカハは赤色の槍を受け取り背中の二本の槍を運ぶ為の交差した鞘に入れた。
(ローブで分からなかったけどそこに二本の槍を入れてたのか)
「これで良し」
スカハは満足顔だ。
そんなやりとりをしつつも朝食を食べ終わった。
食後の休憩をしていると。
「メリアー、わたくしが直接迎えに来ましたわよ!」
宿の入口から緑髪の王女様が二人の騎士を連れて宿に入って来た。
「王女自らってどうなのよ、エレン」
メリアは表情に呆れ半分嬉しさ半分を浮かべて言った。
「細かい事は気にしてはいけませんよ、あら、メリア貴方雰囲気変わりましたわね、何となく柔らかくなったと言うか」
王女様は俺たちが座っているテーブルまで来て言った。
「!?、そ、そうかな?」
メリアは俺をチラッと見て頬を朱に染めて言った。
(???)
俺はよく分からなかったがとりあえず笑顔を返した。
「?、なるほど、そういうことですのね、…おめでとうございますメリア」
王女様は一瞬疑問を浮かべたが俺を見てすぐに納得顔になりメリアに小声で何か言った。
「あ、ありがとう」
メリアも小声で何やら言葉を返していた。
「それでエレンは何しに来たの?」
スカハが聞いた。
「貴方たち《雷光》を迎えに来たのですよ」
(王女様自らか、何らかの裏があるとは思うが素直に甘えるか)
俺は王女様の思惑をなんとなくだが予想した。
「正直言って助かるよ、どうやって王城に行くか迷ってたからな」
「普通は行きませんから迷って当然ですわ、表に馬車を止めています準備ができ次第行きましょう」
俺たちは一度部屋に戻り支度をしてから宿を出た。
俺たちが乗った馬車は王女様自ら迎えに来たと言うだけあり中々に広かった。
(そう言えばスカハに蹴り飛ばされてた奴いなくなってたな結局何がしたかったんだ?、まぁ気にしても仕方ないか)
俺は思考するのを止めて馬車の窓から外を見た。
ちなみにメリアは王女様と楽しそうに話している。
(王都の活気が戻るのが早いな)
俺たちは王都の大通りを通って王城へ向かっているのだが大通りには人々が店を開き活気が戻りつつあったのだ。
ふと左に視線を向けるとスカハが右手から透明の塊を出して広げたり伸ばしたりしているのが見えた。
「魔力操作鍛錬か?」
「そう、今は局所集中鍛錬をやっている」
魔力とは自分の全身を巡るものとも言えば簡単だが直接する操るのは闘気と同じで中々難しいだから日々鍛錬するのだ。
スカハがやっているのは体の一部分に魔力を集める鍛錬方法だ。
「そう言えばまだ、聞いたこと無かったなスカハはどこ出身なんだ?」
俺は暇だったので話しかけた。
「私はザハーク帝国の出身」
スカハは魔力を放出しながら表情を変えず言った。
(ザハーク帝国?、確かアドモス王国の北にある大きな国だったけか)
「だから見たことない槍術を使うのか」
俺は納得した。
ザハーク帝国はアドモス王国より国土が広く国の国民性として強い者が偉いという考え、分かりやすく言えば弱肉強食の考えがある為多くの武術が発展していると聞く。
「私の槍術、幻槍流は私の一族しか使えない特別な槍術、見た事なくて当然」
スカハは声音に誇りを乗せて言った。
「なるほど、それで苗字があるのね」
メリアが会話に加わってきた。
(あんまり気にしなかったけど確かにスカハ・レヴィアタンって言ってたな)
「あの氷を纏うやつか」
「あれは魔法と武術の合わせ技、アレスの魔刀技と似たようなもの」
俺が使う魔刀技はバハムート流の真髄で確かにスカハの言った通り魔法と武術の合技だ。
「認識はそれであってるけど少し違うぞスカハ、バハムート流の魔刀技は魔力よりも闘気を重要視するんだ」
俺は右手に黄色の雷の魔力、左手に緑色の風の魔力を放出しながら言った。
「どういうことですの?」
緑髪王女様が真剣な顔で聞いてきた。
何故なら魔力をただ纏わせるだけでは魔刀技は使えないからだ。
「闘気は強化する力なんだよ」
俺は両手から魔力を消して説明するように言った。
「強化?」「え?、そうなの?」「闘気ですか?」
三人はそれぞれ疑問顔を浮かべた。
どうでも良いがスカハのキョトン顔が意外と可愛い。
ん?メリアはどうだって?、メリアはいつだって綺麗で可愛いぞ。
「コホン、メリアには少し説明したけど闘気は魔力とは違う力だ、魔力は簡単に言うと魔法を使うための力で闘気はあらゆるものを強化する力なんだ、こんな風に…」
俺は右拳を握りそこに闘気を集中させ折れた月夜を抜いて刺した。
「!?」「アレス!?」「そんなことをしたら!?」
三人は突然のアレスの行動に驚いた。
「闘気が皮膚の硬度を上げるから刺さらない」
月夜の折れた刃が拳にぶつかり刺さらずに止まっていた。
「驚いた」「もう、びっくりさせないでよね」「同感ですわ」
スカハは目を見開き、メリアと王女様は胸を撫で下ろしていた。
「まぁ、これは極端な話で実際の戦闘では使えないけどな」
俺は折れた月夜を鞘に戻して言った。
「何でですの?、とても使えそうに思えますが…」
緑髪王女様が聞いてきた。
「ここまで強化するのに結構な量の闘気を使うのに対してこの程度の防御力しか得られないからな」
大体総量の二割くらいだ、俺が魔刀技で使う闘気の量が一割にも満たないことからその多さは一目瞭然だ。
「結構奥が深いのね、闘気って」
メリアの言う通り便利なのだが扱うのが魔力よりも難しいのでラース大陸では主流じゃない。
「王女殿下、御歓談もよろしいですがそろそろ王城に到着します」
馬車の外を歩いている騎士が話しかけてきた。
窓を見ると大きな王城の門が見えた。
(この国の王様かどんな人なんだろうな?)
俺はまだ見ぬ王様がどのような人が想像するのだった。




