第7章 青い新人
メイは、荷車から降りる前に文句を言った。
「ここ、宿舎?」
「そうだ」
「物置じゃなくて?」
「先週まではそうだ」
監督の答えに、メイは口を閉じた。
肩に触れる薄いブルーの髪。競技服と魔法少女の衣装を混ぜたような上着。短いスカートの下にはスパッツを穿いている。荷物には大きな街の登録札がついたままだった。
年は十七だと聞いていた。
それにしては、こちらを見下ろす目つきがよく練習されていた。
「中央リーグで出場経験があります」
「知っとる」
「加速経路の最大出力は」
「あとで見る」
「戦術の希望を先に言っておきたいんですけど」
「荷物を下ろせ」
メイは、剣白を見た。
いったん目を逸らし、もう一度見た。
「……フィジカル枠?」
「おう」
「でしょうね」
シオンは少し笑った。
「まつお・シオン。シオンでいいよ」
「メイです」
「お腹すいた?」
「そんなことより練習を」
メイの腹が鳴った。
監督が宿舎の扉を開けた。
「飯だ」
*
練習では、文句を言うだけのことはあった。
メイが指を振ると、空中に光の輪がいくつも開いた。並んだ輪が、一本の経路になった。
「加速。右へ30度。もう一度、加速」
球が輪へ触れるたび、仕込まれた命令が働いた。曲がる。さらに加速する。
輪と輪の間では、メイは球に触れていなかった。そこでも指を動かして追い続けるシオンとは、違った。
シオンは思わず声を上げた。
狙いの板が割れた。
後ろの板も割れた。
さらに後ろで洗濯物が落ちた。
「すごい」
シオンが言うと、メイは汗をぬぐった。
「輪を通らなかったら?」
「何も起きません。私が動かしてるのは、遠くの球そのものじゃないから」
シオンは割れた板を見た。物を少し動かす力なら知っていたが、通るものへ命令を渡す魔法は、見たことがなかった。
「これくらいは」
「次」
監督が言った。
メイはもう一度、経路を出した。
二度目は光が少し細かった。
三度目には、曲がる前に経路がほどけた。
四度目、メイは球を見失った。
剣白が拾った。
「休みます」
「まだ始めて、ろくに経っとらん」
「調子が悪いだけです」
メイはそう言って、荷物のところへ歩いた。
足取りがまっすぐではなかった。
シオンが水を持っていくと、彼女はすぐに飲み干した。
「もう一杯いる?」
「貴重なんでしょ」
「前よりはあるから」
メイは空の器を見た。
「私が勝てば、もっと来ますよ」
言い方は強かった。
けれど器を返す手が震えているのを、シオンは見た。
その晩、メイは一人で練習していた。
同じ板を、同じ強さで撃つ。
光を出す。
撃つ。
しゃがむ。
また立つ。
「お前は魔力を出してるんじゃない。捨ててるんだよ」
暗がりから監督が言った。
メイは振り向いた。
「分かってます」
「なら、なぜ同じことをする」
「弱くしたら、私を使う理由がなくなるから!」
声が、思ったより遠くへ響いた。
メイ自身が驚いたように口を閉じた。
監督は近づいた。
「誰が弱くしろと言った」
「同じことでしょう」
「その経路、球がもう通り過ぎたところまで光っとる」
メイは自分の後ろを見た。
細い光が、まだ残っていた。
「見栄えはいいな」
「……それも必要だったんです」
「ここで洗濯物を吹き飛ばすのにか」
メイは唇を噛んだ。
「大きい街なら、観客が見てる。期待されてる。次はもっとすごいのをって言われるんです。小さく、地味に、なんて」
「球が届くのが先だ」
監督は、光の消えた空間を杖で指した。
「客の拍手は、そのあとで聞け」




