第22章 最後まで待った札
敵陣の右側には、癖があった。
中央の魔法少女が空へ上がると、物理選手は半歩、中央へ寄る。
セラフィマはその後ろから全体を見る。
わずかな空間だった。
シオンはメイへ目で知らせた。
メイは剣白へ球を送るふりをした。
メイの輪に仕込まれていたのは、横向きの加速だった。
剣白へ渡るはずの球が、違う方向へ出た。
シオンが球を追い、その先でさらに曲げる。
セラフィマが動いた。
球を受けた腕が弾かれた。
彼女の脇を球が抜け、シンボルへ当たった。
今度は大きく削れた。敵の耐久が500を切り、残っていた翼が消えた。
支援選択の笛が、試合を止めた。
セラフィマは片膝をついた。
中央側の控えが声を上げたが、彼女は立ち上がった。
左腕が下がっていた。
前腕が、不自然な角度に曲がっていた。
シオンは、目を逸らさなかった。
傷つけた。
勝とうとして、傷つけた。
それを、別のことにはできなかった。
こちらが引いた支援札は、次の攻撃の球威を高めるものだった。
今使うか、残すか。
監督は答えを言わなかった。
シオンたちは視線を合わせ、残した。
それを使う一本を、まだ作れていなかった。
再開の笛が鳴った。
*
中央の連携は、セラフィマの左腕が使いにくくなっても崩れなかった。
彼女は球を奪いに来なくなった。
守るべき場所を小さくした。
そして相手に投げさせ、そこから返した。
シオンの勢いが、そのまま敵の攻撃へ混ざった。
似ていた。
自分がしてきたことに。
球が剣白の手を弾き、自陣のシンボルへぶつかった。
耐久値は、250を下回った。
像の片脚が消えた。残る一本は、地面から動かなかった。
笛が鳴った。
「タイム。支援選択」
セラフィマに三度目の選択権が与えられた。
二度、見送っている。
出てくる三枚は、レア以上だった。
シオンは動く腕を探すように、指を開閉した。
メイが膝へ手をついた。
剣白の呼吸も深くなっていた。
いま強い札を使われたら、次を受けられるだろうか。
セラフィマの前に、三枚が並んだ。
一枚の縁が、金色に光った。
「レジェンダリーカードだぁ!!」
実況が叫んだ。
シオンは、その色を知っていた。剣白が完全に戻ったときと同じだった。
客席がどよめいた。
セラフィマは説明を読んだ。
少し、沈黙した。
三人を見た。
あの試合では、打つ直前に剣白が完全な状態へ戻っていた。いまは違う。肩が上がらず、メイも息を切らしている。シオンの指にも、震えがある。
あのときほどは出せないはずだった。
はずだ、というだけだった。
あの一撃を、彼女は見ている。
セラフィマは金色の札を選んだ。
何も言わず、伏せて懐へしまった。
シオンには、内容が見えなかった。
その顔から何かを読み取ろうとして、やめた。
再開の笛が鳴った。
*
相手の物理選手が膝を痛めた。
こちらの剣白は、右肩が上がりにくくなった。
中央の魔法少女が一度、控えと交代した。
こちらも短く交代を挟んだ。メイがベンチで水を飲み、監督は彼女の目の焦点を確かめた。
「まだ出せるか」
「大きいのは、一つ」
「大きいのを出すな」
メイは監督を見た。
老婆は杖の先で、球の行く空間を指した。
「要るところへ出せ」
メイは目を閉じ、開いた。
「……はい」
コートへ戻った。
さらに幾度か球が往復し、敵の耐久も250を切った。
片脚が消えた。
笛が鳴り、シオンたちも最後の三択を選んだ。
ゲームライフを一つ戻す札だった。メイの表示に一つ印が戻ったが、傷も疲れもそのままだった。
再開の笛。
敵の像は、両翼と片脚を失っていた。以前なら当たった軌道が、いまは何もない場所を通る。残った部分へ通さなければならなかった。
互いに次の一球を、終わりにできる。
互いに、次で死ぬかもしれなかった。
剣白が球を握った。
口のついた面が、彼の指へ噛みついた。
いつもどおりだった。
シオンは、そのいつもどおりに、少しだけ救われた。




