第20章 決勝の朝
朝食に、卵が出た。
メイが箸でつつき、割れた黄身をじっと見た。
「冷めるぞ」
監督に言われ、食べた。
剣白は普段どおり、ゆっくり食べていた。傷の治った左腕には新しい包帯が巻かれていた。必要だからではなく、いつもの巻き方をいつもの時間で終えるためのようだった。
シオンは椀を両手で持っていた。
「私が勝ったら、話す場所を作ってもらうことになった」
誰も驚かなかった。
前夜、帰ってから伝えていた。それでも、朝になってもう一度言いたかった。
「勝っても、すぐ全部を公表するわけじゃない」
メイがうなずいた。
「私も、います」
「何のとき?」
「考えるとき」
メイは卵を食べ終えた。
「考えるの、得意じゃないですけど」
「得意なやつだけで決めるもんでもなかろう」
監督が言った。
剣白は空の椀を置いた。
「まず帰る」
シオンは三人を見た。
帰る場所は、すでに以前と同じではなかった。
それでも、帰りたかった。
*
競技場には、街ごとの旗が並んでいた。
英雄の像の足元へ、花が置かれていた。
誰かが像に祈っていた。
シオンはその横を通った。
殴りたいような気持ちにも、頭を下げたいような気持ちにもならなかった。
どちらか一方で済めば楽だった。
入場通路の先で、セラフィマが待っていた。
中央代表の物理選手と、もう一人の魔法少女が並んでいる。控えもいる。彼らには彼らの暮らしがあるのだろう、とシオンは初めて考えた。
敵の後ろにも街がある。
その当然のことを、これまで何度も忘れていた。
「よく眠れた?」
シオンが聞いた。
「あなたは?」
「少し」
「私も」
嘘かどうかは聞かなかった。
係員が四人分の登録札を確認した。エレーヌがシオンの背中へ触れた。
「必要なら呼んでください」
「うん」
大歓声の中へ出た。
両陣のエンジェルおじいちゃんは、今日も気持ちよさそうに笑っていた。
耐久1000。
選手のゲームライフ、各3。
同じ数字から始まる。
数字が同じなら条件も同じだと、昔は思っていた。
「まつおー!」
村の旗の下から声が飛んだ。
「シオンよ!」
反射的に返すと、メイが少し笑った。
「元気ですね」
「そっちもね」
剣白が首を一度鳴らした。
監督はベンチで、杖を肩へ戻した。
笛が鳴った。




