↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世紀末魔法球少女まつお  作者: むらもと ぎん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/26

第18章 言えない名前

挿絵(By みてみん)


 準決勝の日、シオンは給水杯を口へ運べなかった。


 中の水は、何も変わっていなかった。


 透き通り、冷たかった。


 メイも同じ杯を持っていた。


 剣白が自分の分を飲み、空の杯を置いた。


「動けなくなる」


 それだけ言った。


 シオンは飲んだ。


 喉は、渇いていた。


 試合には勝った。


 簡単ではなかった。相手の防御は固く、こちらの連携も鈍っていた。シオンが球を送り遅れ、メイが無理に経路を伸ばしかけた。


 監督が止めた。


「昨日覚えたことを、今日捨てるな!」


 メイは光を短く切った。


 シオンは相手の腕の動きを見た。


 目の前の試合をする。


 知ってしまったことを忘れるのではなく、それを考えている間に仲間を傷つけないために。


 勝利の笛のあと、村から来た人々が旗を振った。


 シオンは手を上げた。


「これで学校の屋根を直せる!」


 誰かが叫んだ。


 シオンは笑おうとした。


 笑顔の形が分からなかった。


     *


 その晩、四人は宿舎の部屋で話した。


 エレーヌには、秘密を伝えなかった。


 彼女は別の部屋で、明日の装具を直していた。


 廊下ですれ違ったとき、指には糸が巻かれていた。


 それを思い出すたび、シオンは責められているような気がした。


「私たちだけで決めていいの?」


 シオンが聞いた。


 監督は答えなかった。


「神様じゃないよ。英雄の一族だって。みんなのことなのに」


「皆に言うたあとの責任も、お前が考えるんだぞ」


「その責任を、一人に背負わせてるのがおかしいんじゃない」


 言ってから、シオンは口を閉じた。


 誰を庇っているのか、自分でも一瞬分からなかった。


 窓の外に、中央都市の灯りが広がっていた。


 セラフィマも、きっと長いこと、あの灯りを見ていた。


 どれを消してよいか、考えながら。


「会ってくる」


 シオンは立った。


 剣白も立ち上がったが、彼女は首を振った。


「話をしに行くだけ」


 監督が扉を見た。


「それが一番、難しいこともある」


     *


 セラフィマの部屋には、窓が三つあった。


 机には配分表が並んでいた。決勝の資料もあった。選手の状態を記した紙に、シオンの名前が見えた。


「休んでいないの?」


 シオンが聞いた。


「あなたもでしょう」


 セラフィマは紙を伏せた。


 部屋には豪華な椅子があった。


 使われているのは、机の前の硬い椅子だった。


「明日、勝ったら」


 シオンは言った。


「街の代表者たちに、話す場を作ってほしい」


 セラフィマの表情が消えた。


「誰に、どこまで」


「それも話し合う。いきなり全員に叫ぶって意味じゃない。少なくとも、あなた一人で」


「会議室の扉を閉めれば、秘密も閉じ込められると思う?」


「思ってない」


「なら」


「でも、このまま一人で考え続けて、どうなるの」


 セラフィマは机に手をついた。


「私が負けたら、あなたはそれを選ぶのね」


「選びたい」


「私が勝ったら」


 シオンは息を吸った。


「いまの仕組みを壊すようなことはしない」


「勝ったほうが正しいわけではないのよ」


「分かってる」


 その一言を言うために、シオンは長い時間が要った。


「でも、ほかの決め方を、あなたは受け入れないでしょう」


 セラフィマは、机の上の決勝資料を見た。


 資源を巡って争わないための競技。


 二人は、その競技で、資源の秘密をどう扱うか決めようとしていた。


 彼女は小さく息を吐いた。


「座って」


 シオンは座らなかった。


「話して。最後まで聞くから」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。