第15章 数十年
「一度に全部が資源になるわけではないの」
セラフィマは机へ帳簿を置いた。
シオンは座らなかった。
「普通でも、何十年も続く。少量ずつ。水を生む人もいる。熱、鉱物、魔力。過酷な土地でも育つ種を生む人もいた」
「人」
メイが呟いた。
セラフィマの手が止まった。
「……そうよ」
帳簿には、生成量の変化が記されていた。
その横に、魔力量、属性、能力系統の欄があった。
受付で、同じ順に確かめられた。
シオンは、自分の名が書かれた紙を思い出した。
「魔力量は、量に関わる。魔力の質や属性、能力は、生まれるものの種類に。同じ人から、複数の資源が出ることもある」
セラフィマは二つ並んだ生成物の欄へ指を置いた。
最初は多く、少しずつ減るもの。長く変わらないもの。途中で止まるもの。同じ年齢でも、同じ出力でも、同じ結果にはならなかった。
「若いほど、長く続く傾向がある」
セラフィマが言った。
メイは、自分の腕をつかんだ。
「傾向、というだけ。絶対ではない。なぜなのかも、十分には分かっていない」
「調べれば」
シオンが言うと、セラフィマは顔を上げた。
「誰に」
「医者とか。魔法に詳しい人とか。ここに閉じ込めてないで」
「その人へ何を伝えるの」
シオンは口を開き、閉じた。
魔法少女の身体が、水になる。
若いほど、長く。
それを口にした瞬間、意味が変わった。
メイが腕をつかんでいる理由が、分かった。
「いまの秩序を嫌っている街もある。どこにも所属しない人間もいる。自分たちで供給源を持てると分かったら、何が起きる?」
セラフィマは続けた。
「危険な競技に自分で参加した人では、済まなくなる」
「だから、分からないままで使うの?」
「それがよいことだと言いたいわけではないわ」
「でも、使ってる」
「ええ」
セラフィマは否定しなかった。
シオンには、その一言が壁のように思えた。
記録の最初の頁には、英雄の筆跡だという文字が残されていた。
教本で見た、堂々とした署名とは違った。
短い行が何度も消され、書き直されていた。
彼女が寒がる。
光が強くなった。
指を戻せない。
水を飲んだ。
眠れない。
村を作った人の、最初の記録だった。
「英雄が始めたの」
シオンが聞いた。
セラフィマはうなずいた。
「資源のある場所を、見つけたんじゃなかったの」
「そう伝えられているわね」
シオンは、自分が広場で肖像へ頭を下げた日を思い出した。
「全部、嘘だったんだ」
セラフィマは、すぐには答えなかった。
古い記録を、もう一頁めくった。
「私は、この人の子孫なの。肖像の前で挨拶をするためだけの家ではなかった。引き継がされるものが、ここにあった」
そこには女の子の名前が書かれていた。
シオンは、その文字を指でなぞらなかった。
紙が破れそうだった。
「最初は」
セラフィマが言った。
「一人を助けたかっただけなの」




