第12章 中央の窓
中央リーグへ進んだ代表には、中央都市の上層宿舎が割り当てられた。
窓から、幾本もの水路が見えた。
通りには強豪の名を並べた旗が掛かり、観戦券を売る窓口には列ができていた。
中央リーグは、各地の街や村の配給を大きく動かす。その一方で、都市の人々が待ち望む娯楽でもあった。
配られた日程表の最後には、上位4チームが進む決勝トーナメントがあった。準決勝。そして決勝。
中央都市の代表も、同じ規則でその枠を争う。
人口も人材も豊富な中央は、ほとんど毎年、上位に残っていた。歴代の優勝記録も、その名で埋まっていた。
市場には穀物の袋が積まれ、工房から湯気が上がり、夜になっても街路が暗くならなかった。
シオンは窓を開けた。
風に、焼いたパンの匂いが混じっていた。
子供の頃、ここに暮らしていた。
この窓から見える水路の向こうにも、よく遊びに行った。セラフィマと二人で。
あの頃の彼女は、中央都市の道を全部知っているふりをしていた。実際にはしょっちゅう迷い、迷うたびに違う店で何か買ってもらっていた。
今日も寄り道したかっただけ。
そう言い張る声を、シオンはまだ思い出せた。
夜の歓迎会で、現在のセラフィマは、どの扉を通るべきか迷わなかった。
人々が自然に左右へ分かれた。
彼女は拍手へ軽く頭を下げ、中央代表の席へ進んだ。
シオンは立ち上がった。
「久しぶり」
「ええ」
セラフィマが答えた。
笑わなかった。
「試合、見た?」
「見たわ。おめでとう」
「昔、言ったよね。いつか同じコートで」
「覚えているわ」
そこで会話が止まった。
シオンは、皿の縁へ指を置いた。
「私たち、決勝まで行くよ」
「そのつもりで来たのでしょう」
「うん。だから」
「食事は取って。明日も試合がある」
セラフィマは別の人に呼ばれ、そちらへ向いた。
シオンは座った。
メイがパンを裂いていた。
「知り合いですか」
「昔の」
「いまは?」
「昔の、だよ」
思ったより冷たい声になった。
剣白が二人の前へ水差しを置いた。
その水差しにも、英雄の紋章が刻まれていた。
*
翌日の試合で、シオンは相手の攻撃を一度も真正面から止めなかった。
手を引き、身体を開き、球の力を剣白へ送る。
メイは光の経路を短くつないだ。以前の彼女を知る観客には、地味になったと見えたかもしれない。しかし、球は地面へ落ちなかった。
勝利後、セラフィマが通路の端に立っていた。
「無理に流し続けないで」
言われて、シオンは足を止めた。
「何が?」
「止めないから消耗しない、というわけではないでしょう。指、震えている」
シオンは掌を閉じた。
「これくらい」
「これくらい、と思ううちに休むの」
セラフィマは言った。
「視野が狭くなる。判断が遅れる。自分ではまだできると思う。そこから先は、戻れなくなることがある」
シオンは彼女の顔を見た。
小言なら言えるのだ、と思った。
昔みたいに笑うことはできなくても。
「私、そんなに弱くないよ」
セラフィマの口が少し動いた。
何か言いかけて、やめた。
「そうね」
彼女は去った。
シオンは、握った手をしばらく開かなかった。
その日の結果で、村は中央リーグの上位4チームに残った。
次に立つコートは、準決勝だった。




