第10章 小さな滑り台
休みの日、広場の端で、子供が棒を肩に担いでいた。
自分の背丈より長かった。振り向くたび、後ろの子が首をすくめた。
「危ないからやめな」
監督が言うと、子供は肩の棒と監督の杖を見比べた。
「ばあちゃんだってやってた!」
監督は杖を肩から下ろし、空いた手を出した。
子供は、しぶしぶ棒を渡した。
「じゃあ、何して遊ぶの」
エレーヌが、広場の端の土を見た。
「少し待っててくれる?」
しゃがみ、地面へ手を当てた。
土が、少しだけ盛り上がった。
続けて隣を持ち上げる。一度に高くしようとはしなかった。手をずらして、低い坂を少しずつつないだ。
子供が待ちきれずに足を乗せかけた。
「まだ。こっちをなだらかにするから」
エレーヌは手前の傾きを直し、掌についた土を払った。
高くはない。大人なら二歩で越えられる程度の、小さな坂だった。
「できた!」
子供たちが歓声を上げた。
一人が駆け上がり、尻から滑り降りた。
「もう一回!」
「順番ね」
次の子が、走り出したところで転んだ。
膝を擦っていた。
泣き出すより先に、エレーヌがしゃがんだ。傷についた土を、濡らした布でそっと取る。
淡い光が傷を包んだ。
血が止まった。
「痛い?」
「ちょっと」
「じゃあ、ちょっとだけ我慢」
子供は膝を曲げ、立ち上がった。
「走らないでね」
今度は歩いて、坂の列へ戻っていった。
エレーヌはその足を見届けた。
「もしあの能力で出力まで高けりゃ……」
少し離れて見ていた監督が呟いた。
シオンが振り向いた。
「回復もできる。攻撃を防ぐ土壁も作れる。味方へ土の盾をまとわせることだってできただろうさ」
監督は、子供たちに囲まれているエレーヌを見た。
「カードの力を、一人でいくつも持っとるようなもんだ。最高峰でやれたろうね」
滑り降りた子が、エレーヌの手を引いた。
坂の上から、一緒に滑ろうと言っていた。
監督は少しだけ笑った。
「でも、お前さんは優しい娘だ」
エレーヌが顔を上げた。
「そうじゃなくてよかったと、あたしゃ思えてならないよ」
エレーヌは、返事をしなかった。
つながれた手へ、目を戻した。
「私が乗るには、小さいよ」
「じゃあ、ここで待ってて」
子供はまた坂を登った。
エレーヌは下で待った。差し出す両手に、魔法の光はなかった。
滑ってきた身体を受け止めると、子供が笑った。
もう一人が、名前を呼んだ。




