死なないこと
オレンジブラウン州へ向かう途中、グレーシアで窃盗集団に襲われ、脚を負傷した私。
シーアに乗り、ユーイエローの田舎町へやって来た。セノさんの知り合いの医者が診療所をやっているらしい。
こじんまりとした佇まいの診療所に、私をお姫様抱っこしたセノさんがズカズカと入っていく。
「リルリー、いるかー?」
「…はぁーい」
奥から出てきたのは、可愛らしい雰囲気の女性。
「わぁ、びっくりー、ドロイヤじゃない。急にどうしたのよぉ」
「脚を斧でやれてる。診れそ?」
「あら、すごい出血。…うん、任せてー。奥の診察台に運んでちょうだぁい」
リルリと呼ばれた女性は、髪を後ろで結いながら奥へ移動していく。
✳︎
「…うん、オッケー」
治療が終わり、リルリ先生は髪を解いた。
「2、3日薬飲みながら、安静にしておけば完治するからねぇ」
「……はい、ありがとうございました」
「傷、残ったりする?」
セノさんがぐるぐる包帯を巻かれた私の脚を見ながら、リルリ先生に聞いた。
そんなこと気にしてくれるなんて…。
「あたしを誰だと思ってるのよぉ。可愛くて若い娘に傷跡なんて残すわけないでしょ?」
「さすがリルリ、助かるわ」
「うふふ。……今日はどうしてこっちに?」
「オレンジブラウンへ行く予定だったんだけど、途中怪我したから寄ったんスわ」
「なるほどねぇ。向こうに宿取ってるんだよね?」
「うん」
「うーん、今夜はシャワー浴びるのも1人じゃひと苦労だと思うから……リアノちゃん、うちに泊まるぅ?あたし明日、送っていけるから」
セノさんは、私の顔を見た。
「私は今回付き添いなので、セノさんは先に向かって下さい。私はリルリ先生のお言葉に甘えて今夜はここに泊めてもらいます。…シーアのことよろしくお願いします」
「りょーかーい。……んじゃ、お嬢ちゃんをよろしくなぁ」
「はぁーい」
出て行こうとしたセノさんは足を止め振り向き、私に声をかけた。
「落ち込んでんの?」
あ…バレてた。
「……少し。あんな素人達にやられるなんて…」
「ふーん。……騎士団長になるために大事なことなんだと思う?」
「え……それは、みんなを守る絶対的な強さと統率力…ですか?」
「それももちろん必要。でもさ、それ以上に大事なことがある。それは……死なねぇこと。そんだけ」
「死なないこと……」
「戦地に立った時、騎士団長としてすべきことは、最後まで最前線に立ち、最後まで仲間や市民を守ること。怪我してようが、手足無くなろうが、生きてさえいればそれが出来る。……だから、ちゃんと生きてここにいるお嬢ちゃんが落ち込む必要はないってわけ」
「……。」
「じゃ、また明日向こうでな」
セノさんなりの励ましに心が軽くなった。
いつもは適当なのに……ずるい人だ。
✳︎
「へぇー。騎士団長目指して、ドロイヤの弟子にねぇ」
診療所からすぐのリルリ先生の家にお邪魔した私は、風呂場で先生にシャワーの介助をしてもらいながら、セノさんとの事を話していた。
「はい、最初は断られたんですが、なんとか承諾を得ました」
「うん、だってあの人、どう考えても教えるの下手じゃなーい?本能で戦ってそうだもん」
…確かに。
「リルリ先生は、セノさんと友人なんですか?」
「うーん、そうねぇ…。友人……ってことにしとこうかしら」
「え」
「ふふふ。ドロイヤと初めて会ったのはね、ハラー団長…今は元団長だけど、20年近く前だったかな、ハラー団長が団員を庇って大袈裟をした時なの。当時のメラブラックの医療技術では処置が難しくて、ユーイエローから私の師匠である医師とまだ助手だった私が派遣されたのよ。……長時間の手術中ずっとドアの向こうで待ってたのがドロイヤ。戦いの後だったから、他の騎士達も怪我をしていたり、休むことが必要だったりして、代わる代わるハラー団長の様子を見に来ていたのに、ドロイヤだけはずーっとその場から離れなかったのぉ」
「……。」
「手術が無事に終わったって分かった時のドロイヤのすっごく安堵した顔が、今でもすぐに思い出せるわぁ。……そこから命の恩人として信頼してくれたみたいで、今回みたいに何かあったら頼ってくるの」
「そうだったんですね。……セノさんって、危ない森に1人で住んでいるし、好き勝手してる適当な人だけど、色んな人に愛されているなって一緒にいて感じたんです。それはきっと、セノさん自身が人を大切にしているからなんですよね」
「そうだねぇ」
†
翌朝、私はリルリ先生が用意してくれた幌馬車でオレンジブラウン州へ向かっていた。
「それにしても、立派な幌馬車ですね」
「ありがとぉ。ユーイエローは、病人や怪我人を州の内外問わず運ぶ事が多いから、うちみたいな田舎の診療所でも、医療関係者は最低でも1台は、幌馬車や荷馬車を持ってるのぉ」
さすが医療のスペシャリストが揃う州だ。何よりも人を命を救うことを最優先にしている。
丸一日も経っていないのに、私の脚の痛みもほぼない。
「あ、いたいた。…ドロイヤー!」
リルリ先生が手を振る先に、宿の外で待っているセノさんの姿があった。
幌馬車から降りた私は、リルリ先生にお礼を伝える。
「リルリ先生、脚の治療をしてもらった上に、わざわざ遠くまで送っていただき、ありがとうございました。このお礼は必ずさせていただきます」
「いいのいいのー。また元気な姿見せに来てくれたらじゅーぶん!」
リルリ先生の優しい笑顔に釣られて、私も笑顔になった。
「じゃあ、修行頑張ってねぇ。ドロイヤもまたねー」
「おぉ、色々ありがとなー。気をつけて帰れよー」
✳︎
リルリ先生を見送った私達は、オレンジブラウン騎士団の本部に着いた。
「セノさーーん!!」
団長らしき男性が大きく手を振っている。その横にいる男性はお辞儀をした。
この2人、近づけば近づくほど……瓜二つだ!!
「わざわざ遠いとこまでありがとうございまっす!何度かお会いしたことはありますが、改めて……オレンジブラウンの騎士団長、ニッハ・ソノワンですっ!」
「副団長のニーハー・ソワノンです」
ニッハ騎士団長は笑顔で明るい口調、ニーハー副団長は真顔でクールな喋りをする。
違うのは髪型と性格だけかも?
オレンジブラウン州は、双子や三つ子が多いことで有名だ。歴代の騎士団長、副団長も全て双子である。
私とセノさんは、室内の訓練場へ案内された。
木剣を持ち、手首にオレンジの紐を巻いた5人とブラウンの紐を巻いた5人が対戦している最中だった。
「ご存知かと思いますが、私どもの団は連携を得意としています」
「双子や三つ子ばっかなんで、背中を預ける信頼や息の合った攻撃はほんと自慢ですねっ!」
「ほんとすげぇ似てんね、みんな。え、戦ってる時に見分けとかついてんの?」
セノさんの質問にニッハ騎士団長は笑顔で答えた。
「あはは、もちろん!ぱっと見そっくりでも、よーく見ると全然違うんですよ。それに、毎日のように顔を合わせていれば、嫌でも見分けがつきますっ」
「へぇ」
軽く相槌をうったセノさんは、訓練の様子をじっと見ている。
「……強みは連携、だとして…君らの弱みは何?」
セノさんはニッハ騎士団長たちに問いかけた。
「弱み……弓使いが苦手…でしょうか」
「後ほど見ていただきますが、弓強化の為の練習も時間を費やしていますっ」
✳︎
その後、個人練習や弓の訓練などを見学させてもらった私とセノさんは、団長室でニッハ騎士団長、ニーハー副団長と話を始めた。
「どうでしたかっ!?まだ全てを見てもらったわけじゃないですけど」
経験の浅い私から見て、特に気になる部分はなかったけれど……
「一般人の俺がとやかく言うの嫌なんだけどさ、王子に言われちゃったからねぇ…。俺個人の意見だから参考程度でいいんだけど、やっぱ連携は上手いし、全体の雰囲気も良いなって思ったわけ。…で、逆にこの団で気になる部分は、個人個人の甘さかな」
…甘さ?




