王子の微笑み
レッドキン騎士団本部の大衆食堂。セノさんが黒のドラゴンを討伐した話を聞いていた最中、突如現れたのは、大勢の側近や近衛兵を引き連れたシュアタス王子。
その場にいる全員が立ち上がり、敬意を示した。
「皆様方、どうぞお掛けください」
そう声かけされて、すんなり座ったのはセノさんだけ。
「ちょっ、セノさん。何座ってるんですか」
小声で注意する私に「だって、座っていいよって言われたじゃん」と言い返しつつ、もう一度立ち上がったセノさん。
そんな私達のテーブルに王子が近づいてきた。
「ご無沙汰しております、セノさん」
「…シュアタス殿下、お会いできて光栄です」
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セノさん、シュアタス王子、側近2名、オムラ騎士団長、ヨグリ騎士団長、そして何故か私も一緒に別の部屋に移動した。
「先日、父上に16年前のセノさんの功績を現役騎士団員の方へ伝えたいと申し出をいたしました。セノさんの存在は、有能な騎士を育てるために、どの騎士団にとっても必要不可欠だと判断したからです。父上も、他国や一般人に他言しない事を条件に承諾してくださいました」
王族が認める剣士なんてほんの一握りだ。……それにしても、シュアタス王子は優しく寄り添った話し方をされる方だ。表情が柔らかく、王族の威厳を上手くコントロールしている気がする。王子が国民から愛されているのが納得できる。
「セノさんの実力を証明するためには、黒のドラゴンを討伐した当事者だと伝えるのが迅速ですから。…しかし、1つ問題があります。指導者になるセノさんの立場が一般人では、いくらドラゴンを倒したといっても示しがつきません。そこで、セノさんを僕の近衛兵として登用することを検討しております」
あ、この間の手紙には、その事が書かれていたのかもしれない。
「大出世ではないか、ドロイヤ」
「いやいや、どんだけ話が飛躍してるんですか。俺は、メラブラックを離れる気はねぇし、近衛兵や指導者になるつもりも一切ないんで」
「ヨグリには申し訳ないが、そこまでメラブラックにこだわる必要はないと思うぞ」
「オムラ団長、僕達のことは気にしないで下さい。僕もセノさんのような人がメラブラックに留まるのは勿体ないとずっと思っていましたから」
「え、ガッセル俺のこと邪魔者扱いする気!?」
「いえ、違いますよ。セノさんの凄さをもっと沢山の騎士に知ってほしいんですよ、僕は」
今の言葉は、ヨグリ騎士団長の心からの願いだと思う。セノさんが、指導者になればヨグリ団長自身も教わる機会が設けられるはずだ。それはヨグリ騎士団長がずっと望んできたこと。
「あのねぇ、俺は凄くねぇのよ。黒のドラゴン倒したのだって、俺が到着するまでに団長達がダメージを与えてくれてたからだから。たまたま最後にいいとこ取りちゃったラッキーな案件なの」
これを謙遜ではなく、素で言っているから恐ろしいのよ、この人は…。
セノさんが私の顔をチラッと見た。
…ん?何か嫌な予感がする……。
「あ、大事なこと忘れてました。俺、このお嬢ちゃんを騎士団長にするっていう、とーっても大事な役目がありまして」
…は!?何言ってんのよ!
「ちょっ、それ今関係ないですって!」
「失礼ですが、貴方は…」
「あ、名乗り遅れて申し訳ございません、私、リアノ・ヒューアルと申します。普段はグリーンメアで騎士候補生ですが、父の勧めで今はセノさんの元で修行をしております」
「そうだったのですね。……ヒューアル…もしかして、前騎士団長のサドラーン・ヒューアルさんのお嬢様ですか?」
「はい、そうです。父のことをご存知だなんて…誠に光栄です」
「もちろん存じていますよ。騎士団長として立派にグリーンメアを守り続けて下さいましたし、16年前のドラゴン討伐の際に最後まで闘い抜いた姿をこの目で見ていましたので」
「…ありがとうございます!」
私は深く頭を下げた。
「ドロイヤの元で修行とは、ヒューアル殿も考えたな。……とはいえ、いくら娘さんが優秀だとしても、騎士団長に1年や2年でなれるわけではなかろう。さすがにここまでお前を待って下さった殿下をこれ以上待たすわけにいかぬぞ」
ごもっともな意見だ。私の修行は、王子の命令を断る理由にはならない。それに、セノさんが指導者になればヨグリ騎士団長同様、私もグリーンメア騎士団として教わる事ができる。だから、修行が終わっても何の問題も…
「いや、修行は続ける。お嬢ちゃんを騎士団長にするのは、そちらにとってもメリットがある」
!?何言ってるの!?そもそも修行らしいことされた覚えはほぼ無いですが!?
「俺は今まで誰かに戦い方を教えたことがねぇ。いくらドラゴン退治したからって、教えるのが上手いとは限らない。そんな俺に女性初の騎士団長を育て上げたっていう経歴があれば、指導者としての立場も変わるでしょう?…まぁ、オムラさんの言う通りお嬢ちゃんがすぐに団長になることは難しい。…そこでです。お嬢ちゃんと各騎士団の視察に行かせてほしいと思います。お嬢ちゃんの修行を継続しながら、それぞれの体制や技術をこの目で見て、本当に俺が必要かどうか見極めさせてくれません?もちろん、近衛兵の様子も拝見しますよ」
待って。どういうこと!?
「……なるほど」
王子は側近とアイコンタクトを取った。
オムラ騎士団長はやれやれという顔をして、ヨグリ騎士団長はなんだか楽しそうな表情を見せている。
「…かしこまりました。その要望お受けいたします。期間は、3ヶ月でどうでしょうか?」
「ご理解いただき心から感謝いたします!3ヶ月で十分です。お嬢ちゃん、頑張ろうな!」
「…はい……」
✳︎
王子をお見送りした後、私はセノさんに詰め寄った。
「あの!どういうつもりですか!?」
「悪りぃ悪りぃ。咄嗟に思いついたのがあれだったわけよ。ああでも言わなきゃ絶対引き下がってくれねぇと思って」
「はぁ……」
「あそこまで言ってしまったのだ、責任もって全うするしか道は残っていないぞ」
「いやぁ、セノさんの近衛兵や指導者としての姿、今から楽しみです!リアノさんも無事弟子になれて良かったですね」
「えっ…」
あ、そうか。個人的な視察に同行し、修行もしてもらえる…これって、つまり…
「弟子にしてくれたんですね!ありがとうございます!」
「いやいや、今回の件と弟子の話は別でしょーが」
「私を騎士団長にするって皆さんの前で言ってくれましたもんね!これは弟子確定ですね!私、精一杯頑張ります!!」
大袈裟なほど喜ぶ私を見て、セノさんは頭をかいた。
こうして予想外の展開ではあるけれど、無事にセノさんの弟子になることができた私。
これからセノさんの側で過ごす時間は、確実に私を成長させるだろう。




