視察
セノさんの提案で、メラブラック騎士団の視察に同行させてもらえることになった私。
レッドキン州に向かってヨグリ騎士団長たちが颯爽と馬を走らせる頭上を、私とセノさんはシーアに乗って移動する。
メラブラックは国の端に位置するため、中心部にあるレッドキンへ行くためにはグレーシアとユーイエロー、またはグリーンメアを通らなければならない。
馬の速さなら着くのは夜になるだろう。
「ガッセルたちもドラゴンイーグルにすりゃあいいのにー」
私の後ろで、持ってきたオレンジピールを食べているセノさんは呑気に言う。
「もう追い越しちゃう?それとも、どっか寄り道してみる?」
「もぉ…。せっかく同行させてもらっているのに、そんな勝手な事できませんよ」
私は地上を走るヨグリ騎士団長達を見た。
「……副団長のキーヤスさんって、お若いですよね?」
「あぁ、たしか22だっけなぁ」
「22!?」
想像以上に若くて驚いてしまう。
いくら人数の少ない騎士団とはいえ、その若さで副団長を任されるのは、相当な腕前の持ち主に違いない。
「なに、惚れちゃった?面も良いし、すげぇ出来る奴だし、結婚相手には十分だな!」
「はぁ!?何言ってるんですか!違いますって!」
「あはは!ヒューアルさんには黙っといてやるから」
ほんとこの人は……。
✳︎
グレーシア州を抜け、ユーイエロー州に入ったタイミングで、昼休憩を取ることになった。
ユーイエロー州は、1番医療が発達している。医学や薬学に精通している人が多く、重い病気や謎の病、争いで重体になった人を助けるために別の州に派遣されることもよくある。
「去年はユーイエローに視察に来たんですよ」
持参した軽食を食べながらヨグリ騎士団長が教えてくれた。
「そうなんですね。ユーイエローには騎士団にとっての命の恩人が沢山いると、父が言っていました」
「どんなに頑張っても、ここの医療技術にはどこの州も敵いませんからね」
「……リアノさんって、元騎士団長の娘さんなんスよね?」
ヨグリ騎士団長の隣に座っているキーヤス副団長が聞いてきた。
「はい、そうです…けど…」
「めちゃくちゃ頭の切れる団長だったって聞いたんスけど、本当ですか?」
キーヤス副団長の言い方や表情で、興味本位ではなく純粋に知りたいから聞いてきたのだと分かった。
「父が団長だった頃、私は今よりもっと子供だったので、父がどんな風に戦って、どんな風に団をまとめていたのかよく知らないんです。ただ、今の団長や副団長からのお話を聞く限り、皆さんに慕ってもらえていたようです」
「リアノさんが知らないのは当たり前ですよ。家では1人の父親として、立派にリアノさんを育てられたのですから。最前線にいた時のお父様のことは、セノさんの方が詳しいですよね?」
ヨグリ騎士団長からの問いかけに、セノさんは口の中のバケットをゴクリと飲み込んで口を開いた。
「別に詳しくねーよ。団も違うから、一緒に戦地に立ったのも2回?3回?ぐらいだし。でもまぁ、レッドキンの次に人数の多い騎士団をきっちりまとめてたから、剣術はもちろん、統率力がずば抜けてたよね。頭の回転早くて、戦いの場でも的確に味方に指示を出せる人だよ、あの人は」
父が褒められて、娘として嬉しくなる。
✳︎
予想通り、レッドキン州に着いたのは夜遅くだった。
準備されていた宿は外観も内装も立派で、国で1番権力と財力のある州だと思い知らされる。
広間に用意された夕食…いや、夜食も豪華だった。
この野菜スープ美味しい…。多分、セノさんの好きな味だ。
チラッとセノさんを見ると、すでにスープを飲み干していて、満足そうな顔をしている。
やっぱり。
半月生活を共にしていると、少しずつセノさんの行動や好みが分かってきた。
美味しい食事に大満足した男性陣は大浴場へ行き、私もシャワーを浴びに向かった。
シャワーを浴び終えた私が、指定された部屋のドアを開けた時、お風呂上がりのセノさんが1人で現れた。
「あれ、他の皆さんは…」
「まだ長旅の疲れを癒してる」
「そうですか」
「俺、隣の部屋だからなんかあったら呼んで。じゃ、おやすみー」
「はい、おやすみなさい……」
部屋に入っていくセノさんを見届け、私も中に入りドアを閉めた。
自意識過剰かもしれないけど、私のことを気にかけて早めに風呂から出てきてくれたんじゃないかと思う。
治安関係なく、悪人やモンスターが突然現れることがあるため、女性や子供を夜中に1人にすることは避けられている。
†
翌朝、私達が向かったのはレッドキン騎士団本部。
「おー、相変わらずでけぇー」
そう言うセノさんの横で、そびえ立つ壁を見上げた。
何度見ても規模の大きさに圧倒される。…と言っても中に入るのは初めてだけど。
門番の許可を得て、巨大な門がゆっくりと開いていく。
これから始まる初めての経験にドキドキする私は、堂々とした様子で進んでいくヨグリ騎士団長たちの後ろを追いかける。
門をくぐった私達を出迎えてくれたのは、レッドキン騎士団副団長のミミオス・フォーシグアさん。端正な顔立ちで、腰まである長い髪を後ろで1本に結っている。
これまで挨拶程度だが、何度かお会いしたことがあり、私の尊敬する騎士の内の1人だ。
「皆様、おはようございます。本日はお越しいただき誠にありがとうございます」
「ご無沙汰しております。短い日数ですが、どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。…では、まず外の訓練場にご案内いたします」
案内された外の訓練場へ着くと、弓と矢を持つ騎士達が横一列になり、ひらひらと動く小さな的に向かって矢を放っていた。
「あの的は、あえて揺らしてるんスよね?」
キーヤス副団長からの問いにフォーシグア副団長が答える。
「はい。弓を使用する場合、標的が動いてることがほとんどなので。どんな状況でも的確に仕留めるための訓練です。動いていない的を狙う練習は騎士候補生や従士が行うようにしています」
なるほど。……レッドキン騎士団は、剣術、弓使い、武術、全てにおいてトップレベルだ。そのため、どの州よりも難度の高い厳しい訓練をしていることで有名である。
的に刺さらなかった騎士が、横に移動し腕立て伏せを始めた。どうやらペナルティーがあるようだ。
「良ければ体験してみますか?」
フォーシグア副団長は、軽く微笑みながら提案した。
メラブラックの騎士達は、持参した弓と矢を準備して1番端の列に並んだ。もちろん、私は横から見守るだけ。
この中で誰が1番弓使いが上手なんだろう…。
「ウチんとこの団は、剣術ならガッセル、弓使いならヒルイだから」
私の頭の中を覗いたかのように、セノさんが隣で説明をしてきた。
最初に矢を引いたのはヨグリ騎士団長。矢は的には当たらなかったが、あと数センチ大きければ的中していたと思う。
次にキーヤス副団長が弓を構えた。とても綺麗なフォームで、射る前から上級者だと分かる。
キーヤス副団長の矢は、見事的の端に刺さった。
「難しいッスね、これ」
「初めてで刺さるのは素晴らしいですよ」
ひと通り全員が試し、的に刺さったのはキーヤス副団長のみだった。
しかし、私達は知っている。初めてだろうが、確実にど真ん中を射ることの出来る人物を。
「セノさんもやってみてくださいよ」
私からのお願いに「え〜、俺する必要ないじゃん」と面倒そうな顔をしたセノさん。
「セノさん、僕からもお願いします」
ヨグリ騎士団長は笑顔でセノさんに弓と矢を渡した。
「1回だけだからな。つーか、当たんなかったら慰めてくれんの?おっさん、泣いちゃうよ?」
セノさんは文句を言いながら立ち位置へ移動する。
「失礼ですが、あの方は騎士ではないのですか?」
フォーシグア副団長が嬉しそうな顔をしているヨグリ騎士団長に聞いた。
おそらくフォーシグア副団長は、セノさんのことを知らない。州が違い、年齢も離れていれば知らなくて当然だ。
「あの人は、騎士になってくれないんですよ」
「…?」
大きく不安定に揺れる的。普通なら10秒以上狙いを定める時間を要する。しかし、そんな時間あの人には必要ない。
弓を構えたセノさんは、呼吸を整えることなくすぐに矢を放った。
「…っ!?」
矢は的の中心に深く突き刺さっている。
「…そんな……」
フォーシグア副団長、レッドキンの騎士達は、目の前で起きた事が信じられない様子だ。ついでを言えば、メラブラックの騎士達も驚いている。
その横でドヤ顔をするヨグリ騎士団長と私は目を合わせ笑顔になった。




