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勢揃い


 窮地に立たされる近衛兵の元へ空から現れたのはセノさんだった。


「……セノさん!」


 地上に降りたセノさんはドラゴンイーグルに乗ったまま私に話しかける。


「あっ、お嬢ちゃんもこっち来てたんだ。久しぶりー」


「お久しぶりです」


「ヒューアルさんもレッドキンに来てんの?」


「はい。一緒に来た父は騎士団に加勢中で、私は王族の避難状況を確認しに来たんですが…」


「エリート君たちがやられっぱなしで困ってたんだ」


「…はい」


「お嬢ちゃん、弓持ってるよね?」


「はい」


「んじゃ、ドラゴンの目、頭部、首のどっか狙って。俺は斬ってくから」


「わかりました!」


「少将ー!そのまま攻撃続けててー!」


 ドラゴンに攻撃中の少将達に呼びかけたセノさんは、動きの止まっている近衛兵達へ指示を出す。


「君らは、イヅチャ元帥や負傷してる人を移動させて手当てよろしく。…そんぐらい出来るよね?」


「…承知しました」



 私はシーアと空へ移動し、ドラゴンに向かって弓を構えた。


「…。」


 ドラゴン相手の闘いで、セノさんが私に弓での攻撃を託してくれた。その信頼に絶対に応えたい…!


 …シュッ…!シュッ…!


 連続して放った矢は無事ドラゴンの目に刺さった。


「セノさん、お願いします!!」


 口角を上げたセノさんは「おっけー」と言い、大剣でドラゴンに斬り込んでいく。


「…。」


 セノさんの大剣の動きは息を呑むほど大胆で美しく、スローモーションに見えるほどだった。

 あっという間に3頭のドラゴンを倒したセノさんは、あまりの強さに呆気に取られている少将に伝える。


「俺とお嬢ちゃんは騎士団んとこ行くから、国王達のことよろしくー」


「あっ、はい、承知致しました」


「お嬢ちゃん、いこー」


「はい」


 ドラゴンイーグルに乗り去ろうとするセノさんに向かって、遠くからシュアタス王子が叫んだ。


「セノさーーん!どうか…どうか我が国を救ってくださーーーい!」


 ✳︎


 私とセノさんがレッドキン騎士団のいる戦地に到着した時、すでにドラゴン襲来から丸一日が経っていた。


 空から様子を確認すると、父とオムラ騎士団長達が対応していた白のドラゴンが仰向けで死んでいる。


 …良かった。残すは灰色のドラゴンのみだ。


 地上に降り、灰色のドラゴンの数が減っていることに安堵しているところへ心強い人達が現れ始めた。


「なんだ、俺様達の出番は無しか?」


 アハック騎士団長率いるグレースア騎士団が馬に乗り、大剣を輝かせてやって来た。


「間に合ってよかった」


 キーサー君に乗ったツマーサ騎士団長を先頭にヌブルー騎士団も空から現れた。


「…まだ空の様子がおかしい」


 他の州でも魔力を扱えるパランドラタ騎士団長は紫に光る剣と弓矢を手にしている。ここでは魔力を使えないが、高度な剣術と弓使いが可能なプチミタン副団長も駆け付けていた。


「これ以上の重傷者を出さずに済んでほしいところだね」


 2本の槍を持つルアンカ騎士団長とチキメリ副団長は、周囲の怪我人を気にかけていた。


「ご協力させていただきますっ!」


 視察で会った時よりもソノワン兄弟の表情が覚悟のあるものになっているように感じた。


「アタシ達も力添えさせてもらうわ」


 …あれ、マミアー副団長がいない。何かあったのかな…。


「遅くなり大変申し訳ございません」


 キオジャ騎士団長、ペンラ副団長達グリーンメア騎士団の登場に私はホッとした。


「やはりセノさんもいらしたんですね」


 ヨグリ騎士団長はセノさんを見て、優しく微笑んだ。


「ふっ、またこの光景か」


 全騎士団の団長が勢揃いした場面にオムラ騎士団長は小さく笑った。

 きっと、17年前よりも騎士団長達の身体の状態は良いはずだ。全員まだまだ戦える。


「…やっぱ来るよねー」


 セノさんの言葉を聞き、各騎士団長は空を見上げた。

 空の奥からは巨大な黒のドラゴンが近づいて来ている。体や翼は白のドラゴンよりも大きく、その悍ましさに思わず身体に力が入った。


「……嘘」


 そんな私に追い打ちをかけるような信じがたい光景が目に映った。黒のドラゴンの後ろに白のドラゴンが8頭飛んでいる。


 まだレッドキンにいる灰色のドラゴンは全滅していない。…そんな状況に黒のドラゴンと白のドラゴンが加わったら……


「負けると思ってんの?」


 私の思考を遮るようにセノさんなが顔を覗き込んできた。


「……分かりません。皆さんが勝てないというより、私自身が不安なんです」


「お嬢ちゃんがする事は決まってんじゃん。死なないために生きる選択をすること。もし、これ以上闘うことが死ぬと思うなら逃げていいよ。誰も責めねーから」


 セノさんの言葉が私を見捨てるものではなくて、守るための優しさなのは分かっている。…正直、黒のドラゴンを見た瞬間逃げてしまいたくなるほどの恐怖を感じた。だけど、騎士団長を目指す者として、今この場から去ることは夢を諦めることと同じだ。

 それに、ここにいるのは私1人だけではない。それぞれの強さを持った騎士団長達が勢揃いし、最強の師匠もいる。こんなに安心して戦える環境があるだろうか。


「…逃げません。私もアートビ国を守ります!」


「うん、おっけ。…ヒューアルさん、采配お願いしまーす」


 セノさんからのお願いに父は頷き、すぐに指示を出した。


「フォーシグア達は引き続き灰色のドラゴンを対応!各騎士団は、それぞれ白いドラゴンの相手を!ノシュパープルはホワイトダラと一緒に動いてくれ。私はユーイエロー2人の補佐をする。黒のドラゴンは……セノ、いけるかい?」


「はーい」


「ありがとう。リアノはセノの指示に従って黒のドラゴンを対応するんだ」


「えっ…私も黒のドラゴンを…?」


「リアノは誰の弟子なんだ?」


「……セノさんの弟子です」


「セノの動きを今一番理解しているのは、リアノしかいないんだよ。弟子として師匠の闘いをしっかり支えなさい」


「……はい!」



 セノさんと騎士団長達が迫り来るドラゴンに向かって武器を構えた。


「んじゃ、みなさんよろしくお願いしまーす」


 セノさんのゆるい合図で一斉に動き出した団長達。私もシーアと空へ移動し、黒のドラゴンへ近づいていく。


 …何この大きさ。


 近づけば近づくほど、その巨大さに圧倒される。

 そんな私とは違い、いつもと変わらず飄々とした様子でドラゴンイーグルに乗るセノさんは大剣を構え始めた。


「お嬢ちゃん、とにかく皮膚の薄いとこに射るなり、斬るなりしていっといて」


「はい、分かりました。……シーア、頑張ろうね!」


 明らかに灰色や白のドラゴンとは皮膚の厚みが違う黒のドラゴン。私の持つ矢では攻撃が無意味になってしまう可能性は高いが、眼球ならダメージを与えられるはずだ。

 私が眼球へ矢を放つ間、セノさんは軽快な動きで大剣をドラゴンに振りかざしていく。


 白のドラゴンを相手にする騎士団長達も得意の戦術で猛攻を続けている。


 ✳︎


 黒のドラゴンが現れて1時間が過ぎた。セノさんの指示通り、皮膚の薄そうな部分を中心に斬り込んでいた私。途中に放った矢でドラゴンの片目は潰せたが、それぐらいで威力の落ちる相手ではない。それでも、大剣を振るうセノさんのおかげでドラゴンは炎を噴き出せない状態までになっていた。

 ほぼたった1人でドラゴンに攻撃しているにも関わらず、セノさんは今だに無傷だ。そんなレベルで戦えるのは、この国でセノさんだけだろう。


 …セノさんの技術なら、あと数回斬り込めば倒せる!



「2度と現れんじゃねぇーー!!」


 グレースア騎士団をはじめ、騎士団長達も白のドラゴンにトドメを刺している段階だった。


 セノさんがドラゴンの頭に大剣を突き刺した。


 バキィンッ…!


 …えっ!?


「…うっわ、まじか」


 最後の一撃を入れた瞬間、硬さに耐え切れずセノさんの大剣が半分に折れてしまった。ここまでに様々な相手を斬ってきた代償が最悪のタイミングできてしまった。


 …そんな……


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