最強の
黒のドラゴンにトドメを刺そうとしたセノさんの大剣が思わぬタイミングで折れてしまった。
折れた反動で下へ落ちていくところをドラゴンの長い尻尾で投げ飛ばされそうになるが、間一髪で避けたセノさん。
大剣が折れたセノさんは今、弓しか持っていない。
…どうしよう。今すぐ他の大剣を…あ、私の大剣を渡せば…
以前アハック騎士団長から頂いたひと回り小さな大剣。セノさんならこのサイズでも十分トドメを刺せる。
「セノさん…っ、この大剣を…!」
そう叫んだ瞬間、セノさんがドラゴンの鋭い爪で地面に押さえつけられてしまった。
…えっ、どうしよう。セノさんが…
「…くっ……お嬢ちゃーん!頭にぶっ刺せーーっ!!」
…っ!!
セノさんの言葉に思考が止まりそうになる。
私が…?トドメを…?
白のドラゴンを倒したばかりの騎士団長達では攻撃が間に合わない。
「…リアノさん!闇の魔力を使う時です…!」
いつも小声なパランドラタ騎士団長が響き渡るような大声で叫んだ。
「闇の…魔力…」
私は手首に付けているブレスレットを見た。ノシュパープルの視察で、パランドラタ騎士団長がくれた物。
……私がやるしかない。私が…みんなが死なないための選択……それは今ここでドラゴンを倒すこと!
覚悟を決めた瞬間、ブレスレットから紫の光が流れ出し、私の持つ大剣を纏っていく。
…いける。だって私は…セノさんの弟子なんだ!
「シーア!いくよっ!!」
ドラゴンの頭上に飛んで行った私は、シーアから飛び降り、そのままの勢いで大剣を振り下ろした。
「おりゃあぁーーーーー!!」
大剣はドラゴンの頭に深く突き刺さり、纏った魔力の力でドラゴンの巨大な体は血飛沫を上げながら分裂した。
「…はぁ…はぁ……終わった…?」
息を切らし、呆然とする私の所へセノさんが駆け寄って来て「よくやったじゃん!さすが俺の弟子!!」と嬉しそうに肩を揺らし抱き寄せてきた。
「……。」
さっきまでの暗さが嘘のように、空は青く澄み渡っている。
黒のドラゴン、白のドラゴン、灰色のドラゴン、全てのドラゴンを討伐し、長い長い闘いは騎士団の勝利で幕を閉じた。
†
ドラゴン襲来から1ヶ月。各州では破壊された家や店の再建が進み、少しずつ日常が戻りはじめていた。
今回のドラゴン襲来で王族はもちろん、市民の犠牲者はゼロだった。迅速な避難対応が人々の命を守ったのだ。
しかし、騎士や従士、近衛兵の犠牲は避けることが出来なかった。腕や脚を失った者、戦地で亡くなった者、今もなお意識の戻らない者もいる。
近衛兵トップであるイヅチャ元帥は、頭から首にかけて深い傷を負い、現在ユーイエローの医療施設に入院中だ。
同じくユーイエローに入院中なのは、ホワイトダラ騎士団のマミアー副団長。仲間を助ける際に背中に大火傷を負ってしまったそうだ。
2人とも命は取り留めたものの、これまでのように最前線で戦う事は難しいと判断された。イヅチャ元帥は近衛兵のトップを退き、マミアー副団長は騎士団長になる夢を捨てることになる。
マミアー副団長は今、何を思っているんだろうか……。
今回、あれだけの数のドラゴンが現れたにも関わらず、騎士団長、副団長が全員生きているというのは奇跡と言えるが、それだけ全員の実力が高いということでもある。
また、バードイーヴィル達の助けも勝利には欠かせなかった。騎士団への貢献が認められ、メラブラックの騎士候補生だったバードイーヴィルは、正式にメラブラック騎士団の騎士になる事が決定した。
そして、誰よりも活躍したセノさんはイヅチャ元帥と入れ替わる形で、近衛兵のトップに任命される予定だ。前回と異なり、シュアタス王子だけでなく、アジヒ国王達もセノさんの凄さを知った事が大きい。セノさんが元帥になることで、近衛兵の実戦能力は確実に上がるだろう。
といっても、セノさんに教える才能は無いから時間はかかるかもしれないけど。
†
それから2ヶ月後。国王達の住む城では、セノさんの元帥就任式が執り行われていた。シュアタス王子に招かれた各騎士団の団長、副団長も参列している。
私も弟子として、師匠の晴れ姿を見届けているのだが……
何であの人は、こんな日でもあんな服装にボサボサ頭で来てるのよ…。はぁ…やっぱり式の前に会っておけばよかった。
今にも欠伸をしそうなセノさんをヒヤヒヤしながら見ていると、横にいるオムラ騎士団長に声を掛けられた。
「相変わらず緊張感のない奴だ。困った師匠を持つと大変だな」
「…はい」
オムラ騎士団長は、年内で騎士団長を勇退することに決めたらしい。勇退後の進路はまだ未定とのことだが、長年レッドキン騎士団を率いた功績から考えると、然るべき立場になるだろう。
✳︎
式の後、城の大広間では王族含む参加者全員での立食パーティーが開催された。
あれ、セノさんがいない…。
室内にセノさんの姿がなく、私は広間を出て城の中を探し始めた。
あっ。
色鮮やかな花が植えられた中庭にセノさんが1人で立っていた。
「セノさん!」
「おっ、久しぶりー」
「お久しぶりです。…パーティー参加されないんですか?」
「ちょっと外の空気吸いたくてさ」
「そうですか。…改めて、この度はおめでとうございます」
「いや、別に祝われることじゃねーのよ」
「名誉なことじゃないですか。シュアタス王子もとても嬉しそうでしたよ」
「あの坊っちゃんもしつこいからねぇ。…つーか、お嬢ちゃんの方がおめでとうなんじゃねーの?18になったら副団長になるんでしょ?」
「…知ってたんですね」
「そりゃあ、弟子の情報だもん」
ドラゴン討伐後、グリーンメア騎士団の騎士になった私。18歳になる来年からマミアー副団長の後任として、ホワイトダラの副団長を任されることになっている。騎士になったばかりの女性騎士が他州の副団長になるのは、異例中の異例である。というか前代未聞だ。
謙遜ではなく、まだまだ副団長のレベルではないと思っているが、私のドラゴンとの闘いを見ていたサータシ騎士団長から推薦があったそうだ。
「私の技術で副団長を務めていいのか…」
「自分で気が付いてないだけで、お嬢ちゃんの剣術、弓使いはトップレベルに近いんだって。多分さ、俺と一緒に戦うこと多くて感覚がおかしくなってるのかもね。あ、体術はサータシ騎士団長にみっちり教えてもらいなよ。……せっかく騎士団長の夢に近づいたんだから、もっと堂々と自信持ちな」
そうだ、ずっと抱いていた夢に大きく前進したんだ。それなのに不安になるのはセノさんの言った通り、感覚が麻痺しているのかもしれない。だって、この先騎士団長になれたとしても、私のレベルがセノさんに追いつくことはないのだから。どんなに訓練を積んでも、どんなに実戦を経験しても、一生越えられない壁だ。
「…そうですね。私、精一杯頑張ります!」
「頑張るのはいいけど、副団長になっても俺との約束は守ってよ?」
「死なないこと、ですよね」
「そ。んでさ、死なずに元気でいて、もっとヨボヨボになった俺を世話してちょーだいよ」
「それは弟子の仕事じゃありません」
「えー、冷たーい。あ、お嬢ちゃんの就任式はこーんなでっけー花束渡しに行ってやるから」
「恥ずかしいのでやめてください」
「いいじゃーん。あっ、ヒルイに渡させようか!」
「変な事しないでくださいよ!」
「あはは」
「……もぉ」
誰が信じるだろうか。このテキトーなおっさんが、国の危機を救った最強の剣士だなんて。そして、過去の私ならきっとこう言っている。
『このテキトーなおっさんの弟子が私だなんて嘘に決まってる!』




