覚悟
大型モンスターを討伐した翌日。昼まで寝ていたセノさんを起こし、私はグレースアの街へ出掛けた。
2人でのんびり過ごすつもりだったんだけど…
「テメェがダラダラ寝てっから時間が無駄になっただろうが」
「…。」
何故かアハック騎士団長も一緒に行動している。
セノさんがいるから、わざわざ案内してもらわなくて大丈夫なんだけどな。2人が一緒だとすぐ喧嘩みたいになっちゃうし…。
「つーか、腹減ったー。魚食いたーい」
「テメェはガキか。…おい、お前は何が食いてんだ?」
「…え、私ですか?」
「他に誰がいんだよ。お前の馬鹿師匠は魚の気分らしいが、お前もそれでいいのか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「仕方ねぇな。俺様が穴場の魚料理屋を教えてやる」
✳︎
アハック騎士団長が連れて来てくれた魚料理屋はどの料理も絶品で、セノさんも夢中で食べている。
「そういや、なんでこんな馬鹿の弟子になったのか聞いてなかったな」
アハック騎士団長は向かいに座る私に聞いてきた。
「最初は、父からセノさんの元で修行するようにと言われてメラブラックに行ったんです。そこでセノさんの凄さを知って、弟子にしてほしいとお願いして……初めは断られたんですけど、今回の視察のおかげで弟子になれたんです」
「俺様が知る限りこの馬鹿に人に教える才能なんてもんはねぇが、ちゃんと修行してもらってんのか?」
「自分だって教えるの下手なくせに」
「あ?」
「あっ、あの…!本格的な修行はまだしてないですけど、セノさんと一緒に視察をしているおかげで少しずつ成長しているんです、私」
「…ヒューアルさんは、相当な覚悟を持ってお前をコイツのとこへ行かせたんだろうな」
「え…」
「コイツと居るってことは、強くなると同時に危険が増えるだろ。最悪自分の知らんとこで娘が死ぬ可能性だってある」
「…。」
「そもそも騎士っていうのはな、それぞれ色んな覚悟を持って生きてんだよ。何かを守るってことは、自分や仲間の命を危険に晒すことだからな。俺様たちグレースア騎士団は、昨日みてーな大型モンスターを相手にすんのが普通だ。一歩間違えれば即死。そんな状況で生きて帰るために必要なのは、覚悟。無駄に毎日身体鍛えて、でっけぇ剣振ってるわけじゃねーんだよ。覚悟を貫く為の毎日だ」
アハック騎士団長の言葉がずっしりと心に響いた。
私にはまだまだ覚悟が足りない。セノさんやアハック騎士団長達のように誰かの命を背負ったことすらない今の私に何が出来るんだろうか。
✳︎
観光を終えた私とセノさんは、ズロスナー副団長と一緒に剣の訓練を観察していた。
もちろん訓練で使用する木剣も、実戦用の大剣と同じサイズだ。
木剣とはいえ、すごく重そう…。
「ねぇ、ワムミス」
「はい」
「お嬢ちゃんにも練習させてみてもいい?」
えっ!?
セノさんの唐突なお願いに対し、ズロスナー副団長は「もちろんです」と即答した。
「ちょっと、セノさん…っ!…さすがにそれは…」
「今の各騎士団長、副団長でグレースア騎士団員と同じレベルで、大剣使って戦えるのって何人だと思う?」
「え…」
これまでの視察で、どの騎士団も大剣の訓練は行っていなかった。
「俺の見極めが正しいなら、メラブラックのガッセル、レッドキンのオムラさんぐらいかな。あ、ホワイトダラのサータシも、あとちょい練習すればいけそうかも。…どの騎士団も大型モンスターを相手にする時に普通の剣や弓で対応できてんのは、それだけ戦う人数がいるから。でもさ、もし少人数で馬鹿でかいモンスターやっつけなきゃいけねー時に、大剣使う選択肢があるだけで勝つまでの道筋が変わるのよ。せっかく国内最強レベルの大剣使い、スタとワムミスがいるんだから学んで損はないでしょ?」
…そうだ、その通りだ。強くなる為の貴重な学びが目の前にあるのに、どうして最初から諦めようとしたんだろう。あの黒いドラゴンにトドメを刺したのは、セノさんの大剣だったのに。
「…ズロスナー副団長、ご指導のほどよろしくお願いします!」
初めて握る大きな木剣は想像よりも重く、肩より上にあげることさえ容易ではなかった。
しかし、ズロスナー副団長の教え方が丁寧で分かりやすいおかげで、大剣への苦手意識が少しずつ薄れていった。
†
それから数日間、モンスターの出現はなかったものの、各地で盗難や乱闘などが起き、私とセノさんも対応に付き添った。
さすがメラブラックに次ぐ治安の悪さ。…というか、メラブラック騎士団よりもグレースア騎士団の方が見た目に関しては威圧感あって怖いのに、よく問題起こそうと思うよね。
夜、団員の方に本部の待合スペースで待機するように言われ、セノさんと一緒に長椅子に座っていた。
「明日で皆さんとお別れなのは寂しいですけど、メラブラックに戻った際にまた遊びに来たいです」
「お嬢ちゃんも物好きだねー。あんなむさ苦しい男軍団に囲まれてたのに」
「皆さんとても優しくて、良い方ばかりでしたよ」
「それはね、ここに若い女の子がいるなんて奇跡で、姫扱いされてたからよ」
「姫扱いなんてされてませんって。……セノさんはアハック騎士団長のことをよくご存知ですけど、グレースア騎士団の技術や体制で気になることはありましたか?」
「うーん、別にあのチビを褒めるつもりはねぇけど、特に今すぐ改善しろって点はないかなー。まぁ、他の騎士団にも大剣の技術を繋いでいってほしいけど、みんながみんなあんな風に身体作り出来るわけじゃねーしなぁ」
「確かに…。あ、でもアハック騎士団長はゴツくないですよね、身体」
「いや、チビも脱いだら意外とバキバキだからね。ただ、他の奴より小さいあの体格で大剣の技術が最高レベルなのは、腕や肩、体全体の動かし方、力の使い方がめちゃくちゃうめぇんだよ」
「じゃあ、それを他の人にも伝えられたら…」
「それは無理」
「え」
「アイツ教えるの下手くそだもん。あと、どっちかっていうと天才型だから、半分感覚でやってる」
セノさんと同じタイプかぁ…。
「セノさん、リアノさん、お待たせしました!」
団員の方に呼ばれ、本部の裏側へ移動した。
「わぁーっ!きれーい!!」
そこには、ランタンやロウソクの灯りが散りばめられ、幻想的な雰囲気が広がっていた。
「任務のご協力いただいたセノさんへの感謝、我々を癒してくださったリアノさんへの感謝の気持ちを込めて用意させていただきましたっ!」
団員の方々が優しい笑顔を見せてくれる。
「嬉しいです!ありがとうございます!」
「ほらー、姫扱いされてるー」
「いや、セノさんへの感謝も含んでくれてますから!」
「団長はロマンチックな雰囲気は好かないと来ていませんが、お2人には感謝してますので」
ズロスナー副団長の言葉にセノさんはふざけ出す。
「いや、あー見えて意外とロマンチストかもよー?どっかからコッソリ見てんじゃねぇの?乙女なスタ君が」
†
翌朝、私とセノさんはシーアとともに、本部の正門でアハック騎士団長、ズロスナー副団長に見送りをされていた。
「またいつでもお越しください」
「ありがとうございます」
「おい」
ズロスナー副団長の横で、腰に手を当て仁王立ちをするアハック騎士団長に鋭い目つきで声を掛けられた。ちなみに視察中アハック騎士団長からは、一度も名前を呼ばれていない。
「…はい」
「お前の大剣の扱いは赤ん坊以下だ」
「その通りです…」
結局アハック騎士団長から直々に大剣の指導はしてもらえなかった。
「俺様達のよりもひと回り小せぇやつを馬鹿の家に送っておいてやる。どうせ今頃、ハラーのクソジジイが留守番してんだろ。…せっかく覚えた感覚を忘れねぇうちにしっかり訓練しとけ」
「…っ、ありがとうございます!」
「やっさしーっ!」
「うっせぇんだよ、黙れ。テメェはさっさと王子のために働け、ばーか」
「…。」
セノさんとアハック騎士団長の幼稚なやりとりでグレースア騎士団の視察は幕を閉じた。




