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小さな団長


「ねー、わざわざ行かなくていいんじゃない?俺、ちょくちょく遊びに行ってるもーん」


 シーアに乗り空を移動中、後ろにいるセノさんは子供みたいな口調になっている。


「普段は街へ遊びに行っているだけで、騎士団の方々と深く交流はされてないんですよね?」


「んー、どうだろ」


「はぁ…。とにかく、きっちり視察は行ってください」


 次の目的地であるグレースア州は、敷地面積が他の州に比べて1番小さく、治安の悪さやモンスター出現の多さはメラブラックに次いで2番目だ。

 父から聞いた騎士団の特長としては、昔から大剣をメインの武器としており、大剣を振り回す体力、筋力、技術の無い者は騎士にはなれないらしい。また、女性騎士制度が導入されてからも、従士や騎士候補生すら女性を受け入れていない唯一の騎士団だ。


 まぁ、大剣を軽々扱える女性は、なかなかいないよね。


 ✳︎


 騎士団本部に着くと、正門で1人の男性騎士が待ち構えていた。

 強面の顔とオールバックのヘアスタイル、身長は2メートル近い。鍛え上げられた二の腕や胸元などの筋肉は鎧を着ているかのように見える。


 で、でかい…!さすが大剣を主で扱う騎士団の団長だわ。


 シーアから降りた私に男性は挨拶をした。


「初めまして、副団長のワムミス・ズロスナーです」


 声は渋いが、口調は丁寧で威圧感は全く無い。


 あ、副団長なんだ。騎士団長はもっと大男だったり?


「リアノ・ヒューアルと申します。今日からよろしくお願いします」


「セノさん、ご無沙汰しております」


「久しぶりー。…あれ?チビは?」


「誰がチビだ」


 ズロスナー副団長の背後から声が聞こえ、私よりも背の低い男性騎士が現れた。前に出てきたその人は腕を組み、仁王立ちをしている。


 細身の身体、クリッとした大きな目に、透き通った肌……かなり若そう。


「リアノさん、こちら騎士団長のスタ・アハックです」


 ズロスナー副団長の紹介に目を見開いた。


 え、こんなに若い人が騎士団長なの!?


「あ、お嬢ちゃん今、こんなに若い男が騎士団長なんてびっくりー!って思ったでしょ?」


「えっ…思いましたけど…」


「コイツこう見えて俺の一個下だからね」


「えっ!?」


 嘘でしょ!?この見た目で!?


「誰だ、その女」


「あっ…初めまして、リアノ・ヒューアルと申します。セノさんの弟子として視察に同行させて頂いております」


「あ?弟子?」


「王子からの報告書に記載されていたじゃないですか。俺の口からも伝えたはずです」


「知るかそんなもん」


「…。」


 どうやらセノさんの視察に弟子の私が付いて回っていることを把握していないようだ。

 アハック騎士団長は眉間に皺を寄せ、セノさんに向かって口を開く。


「こんな若い女を弟子に…テメェ、いつからそんな訳わかんねー趣味持ったんだ」


 見た目に反して、アハック騎士団長の口調は荒く、言葉遣いも乱暴だ。


「そんな言い方して大丈夫ー?」


「なんか文句あんのかよ」


「このお嬢ちゃんは、グリーンメア前騎士団長のヒューアルさんの娘なのよ」


「あのヒューアルさんの娘……それ本気で言ってんのか?」


 アハック騎士団長は私に視線を向けた。


「…はい、サドラーンの娘です」


「……。」


 アハック騎士団長の視線が上から下へゆっくり動き、まるで品定めされている気分になる。


「…確かに似てんなぁ。だがそんな事はどうでもいい。俺様は忙しいんだ。本部内の案内はワムミスに任せるから、終わり次第団長室に来い」


 アハック騎士団長は仏頂面で、スタスタと中へ戻って行ってしまった。


「喧嘩腰の無愛想な態度で申し訳ないです。根は優しい人なので、誤解しないでいただきたい」


 ズロスナー副団長の言葉にセノさんは笑い出す。


「あははっ。団長の性格までフォローして、ワムミスも大変だねー」


 ✳︎


 ズロスナー副団長に本部内をひと通り案内してもらい、団長室へ向かっていた。


 他の騎士団本部と比べて、トレーニング室が充実していたのは、大剣を扱う肉体作りの為だろうな。


 施設内で会う騎士の方々は身長の差はあれど、ゴツい体つきの人ばかりで、日頃のトレーニングの過酷さを物語っていた。


「てっきりセノさんは本部にも何度も来た事があるのかと思ってました」


「昔はね。今はあのチビが全然入れてくれねーのよ。俺に対しての優しさをどっかに忘れてんの悲しー」


「…セノさんとアハック騎士団長って、長い付き合いなんですか?」


「そうだねー。俺が従士になる前から知ってるから…え、俺らそんな長いの!?熟年夫婦じゃん」


 その会話の直後、団長室に入るとアハック騎士団長はすでにしかめっ面だった。


「誰がテメェと夫婦だ、馬鹿野郎。廊下の声が丸聞こえなんだよ、ふざけんじゃねーぞ」


「あはは、耳良いねー」



 こんな調子で話し合いが出来るのか心配だったが、ソファに座ってからの会話はズロスナー副団長のおかげもありスムーズに進んだ。


「見回りの付き添い、訓練見学の合間に観光の時間を取ろうと考えています。セノさんはよくご存知かと思いますが、リアノさんにも楽しんでいただきので」


「お気遣いありがとうございます」


「そういや、ピクシズムの件聞いたぞ」


 アハック騎士団長がセノさんに話題を振った。


「変わった奴だとは思っていたが、あんな馬鹿なことをするなんてな」


「まぁ、彼なりの信念があったんじゃない?やり方は強引だったけど」


「ゾッチも甘ぇんだよ。俺様なら戦いの場で首飛ばして終了だな」


 …本当にやりそうで怖い。


「甘さなのか、優しさなのかは分かんねぇけど、多分ノシュパープル騎士団はこれからぐっと強くなるよ」


 セノさんの言葉に私の口角が自然と上がった。


 †


 2日後の夜。私とセノさんは、アハック騎士団長とズロスナー副団長含む騎士数人と巨大な湖に来ていた。セノさんの手には、他の騎士達と同じように大剣が握られている。


 モンスター討伐に行くって言っていたけど、この湖にモンスターがいるってこと?そもそもモンスターが現れてから討伐しに行くんじゃないの?自ら狩りに行くなんて聞いたことがない…。


「今夜は満月だ。必ず出てくるぞ。…お前らぁ!気抜くんじゃねぇーぞ!」


 アハック騎士団長の鼓舞に団員達は「おぉー!」と野太い声を響かせた。

 その時だ。湖の水面が激しく揺れ始め、尖った岩のようなモノが水の中から見えてきた。


 え…なに…。


 姿を現したのはワニガメ型のモンスター。しかし、私の知っている並レベルのワニガメ型とは明らかに違う。


「…嘘…なにこのデカさ……」


 その身体はとてつもなく巨大化しており、大型…いや、それ以上に分類される個体レベルだった。

 

「おっしゃ!いくぞぉーーー!!」


 私が驚いている間にアハック騎士団長達は大剣片手にモンスターへと駆け出していく。


「おりゃあーーっ!」「うぉーーーっ!」


 月明かりに照らされ銀色に輝く大剣で、絶え間なくモンスターに斬りかかる騎士達。見るからに頑丈そうな甲羅部分にも深い亀裂が入っていく。


 …これが“鋼の荒波”と呼ばれるグレースア騎士団の凄さ……。


 そして、1番小さな身体で大剣を振り回すアハック騎士団長は、誰よりも剛力で破壊的な戦い方をしている。


「テメェも突っ立てねぇでさっさとやれよ」


 アハック騎士団長はセノさんへ指示を出した。


「えー、俺いらないでしょー」


 面倒そうに言いつつ、セノさんはトントンと身軽にモンスターの体を登っていく。そして、鋭い歯を大きな口から見せ暴れ狂うモンスターの頭上にいくと、首元に向かって大剣を振りかざした。

 モンスターの首に深く傷が入ったのを確認したアハック騎士団長とズロスナー副団長も大剣で首への攻撃を繰り返した。


 …ドスンッ…!


 モンスターの頭が地面に落ち、割れた甲羅の破片が辺りに散っていく。

 超大型モンスターを倒すまでの時間が想像以上に短く、私は終始圧倒されていた。


「絶対俺いなくてもよかったよねー」


 隣に戻ってきたセノさんは、呆然とする私に教えてくれる。


「グレースアの武器が大剣な理由は簡単。出現するモンスターの7割が大型だから。他の州では小型や並に分類される種類のモンスターも、何故か巨大化して出てくんの。その理由はよくわかんないけど」


 知らなかった。大型モンスターを相手にすることが基準になっているなんて。


「お前ら、今日もよくやった!」


 大きな騎士達に囲まれているアハック騎士団長の存在が何よりも輝いて大きく見えた。


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