師匠の愛
ピクシズム前副団長との交戦中、私は光の魔術によって身体中に深い傷を負っていた。一緒に空から落ちたシーアは、プチミタン副団長の作り出した風がクッション代わりになり助かったようだ。
「…はぁ……はぁ……」
「少し冷たいですが我慢して下さい」
氷属性の騎士が地面に寝転ぶ私の身体に杖を当て、傷口を氷で固めていく。
「…うっ…」
「これはあくまで応急処置です。この氷が溶けきる前にしっかりと治療をしてもらってください」
「…ありがとう…ございます…」
朦朧とする意識の中で周りを見渡した。
魔力モンスターは残り2体になり、パランドラタ騎士団長とプチミタン副団長が対応している。また、魔力にコントロールされた無数の動物たちは少しずつ減ってきているが、戦う騎士達は傷を負いながら苦しんでいた。
そして、セノさんは地上でピクシズム前副団長と対峙している。私の落下中にセノさんが放った矢はドラゴンイーグルに命中したようで、ピクシズム前副団長も地上へ降りてきたみたいだ。
「魔術って、遠隔無理なんじゃないっけ?」
「通常は無理ですよ。しかし、私の理論が正しければ、他の州で魔力を使える人は遠隔も可能になりますねぇ」
「へぇ。魔術のお勉強に熱心なのはいーけどさ……俺の弟子傷つけんのはやめてくんない?」
鋭い目つきでピクシズム前副団長を見るセノさんの姿を最後に私は力尽きて目を閉じた。
✳︎
最後の魔力モンスター2体を倒したパランドラタとプチミタンは、休む間も無く仲間の騎士達を助けに向かった。
「みんなっ、後は任せて下さい!早く仲間の手当てをするのです!」
プチミタンの指示で騎士達は剣を下ろし、負傷した仲間の手当てを開始した。
「…なるべく殺したくないな…罪のない動物たちを…」
剣を構えるパランドラタは悲しい顔をする。
「そうですね。しかし、この子たちを魔力から解放するには命を奪うしか…」
「…分かっているよ。…少しでも楽に、苦しまずにだ」
「はい」
それぞれの魔力を剣に纏わせたパランドラタとプチミタンは覚悟を決め、素早く斬りかかった。
そして、あれほどいた動物たちの息の根はあっという間に全て止まった。
「……後でしっかり葬ってやろう」
「はい」
✳︎
セノは、ピクシズムの杖から出てくる光の連続攻撃を剣で弾いていた。セノの剣はパランドラタの闇魔力を纏わせているため、ピクシズムの攻撃にも屈していない。
そこへパランドラタとプチミタンが加勢しに来た。
「…セノさん」
「おー、お疲れ。あのさ、確認なんだけど、アイツって生きたまま捕まえた方がいいよね?」
「…可能なら…」
「りょーかい。同時に走ってって、向こうの攻撃が分散した隙に仕留めるわ」
「承知しました!」
セノ、パランドラタ、プチミタンはピクシズムに向かって一斉に走り出した。その間もピクシズムからの遠隔攻撃は続いたが、3人は剣で弾きながら前進していく。
「パランドラタ、プチミタン君、任せた」
「…はい!」
弾くのを止めたセノは攻撃を避けつつ急加速し、一気にピクシズムの所まで辿り着くと、目にも止まらぬ速さで脚に数回斬りかかった。
攻撃を受けたピクシズムはその場に倒れ、手から杖が放り出される。
ザクッ…!
「…っ!」
倒れたピクシズムの首横スレスレにセノが身体ごと剣を勢いよく刺した。
「…武器に殺されなくてよかったね」
「…。」
セノが剣を地面から抜いた後、ピクシズムの額にパランドラタが紫に光る剣先を向けた。
「…魔力に殺されれば本望か?」
「…えぇ。ましてやアナタのような素晴らしい魔術師になら喜んで」
「……忘れないでほしい、魔術は守る為に使うことを。……もっとお前と向き合えばよかった、すまない」
「……。」
†
「…。」
意識を取り戻した私はベッドの上にいた。
…ここは……病室?
「やっとお目覚めねぇ」
可愛らしい声が聞こえ、リルリ先生が私の顔を覗き込んだ。
「…え…リルリせん…せい?……ゔっ…」
起きあがろうとした瞬間、身体全体に激痛が走った。
「もぉー、まだ動いちゃだめよぉ!あと4、5日は安静にしないとねぇ」
「……あっ、あの、セノさんや皆さんは…」
「ドロイヤならあそこ」
リルリ先生に言われ顔を横に向けると、椅子に座った状態で眠っているセノさんがいた。
「うふふ。あの人、リアノちゃんの手術中ずーっと起きて待ってたのよぉ。なんだかハラー騎士団長の時みたいで懐かしくなったわぁ。…あ、あたしがいるけど、ここはノシュパープル騎士団本部の医療室だからねぇ。元々ドロイヤに言われてこっちに向かってたのよー。ちょうど昨日着いた時に重体のリアノちゃんが運ばれてきたの」
私はまた、セノさんとリルリ先生に救われたんだ…。
「助けてくれてありがとうございました」
「医者として当然のことをしたまでよぉ。あと、止血してくれていたおかげも大きいから、氷属性の彼にもお礼を伝えてちょうだいねぇ」
「はい」
「お、起きてんじゃん」
目覚めたセノさんがベッド横に来た。
「…すみません、足を引っ張ってしまって…」
「なーに言ってんの。お嬢ちゃんは今、生きてるんでしょ?戦いの場での俺とお嬢ちゃんの約束は何だっけ?」
「…死なないこと…です」
「うん、ちゃんと果たせてるじゃん。上出来、上出来!だから今はゆっくり回復に努めなよ。……よく頑張りましたっ」
セノさんは笑顔で、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「…。」
「んじゃ俺、ゾッチ達に報告してくるから。リルリ付き添いよろしくー」
「はぁーい」
セノさんが部屋から出て行き、私は顔を窓に向けた。
「…ぐずっ…」
「…!…うふっ、かわいい弟子を泣かせるなんて困った師匠ねぇ」
†
5日後。まだ肩や脚は激しく動かすと痛みを感じるが、リルリ先生のおかげで無事に回復した私。
「シーア、ゆっくりでいいからね」
ノシュパープル騎士団本部の庭で、シーアの体をそっと撫でた。
私と同じくピクシズム前副団長の攻撃で負傷したシーアも、沢山の方に助けられ空を飛べる状態に戻ることができた。
ピクシズム前副団長は、杖や物がない状態でも魔力を使用する恐れがある為、特別な収容所に拘束されているらしい。
魔力の悪用、生き物への魔術使用、騎士団に対する裏切り行為。ピクシズム前副団長の罪はかなり重いものになると予想されている。
「お嬢ちゃん、シーアちゃん、大丈夫そ?」
セノさんがパランドラタ騎士団長、プチミタン副団長と一緒にやって来た。
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、そろそろ行こっか」
私達は今日ノシュパープル州を出て、次の騎士団の所へ向かう。
「パランドラタ騎士団長、プチミタン副団長。本当にお世話になりました」
深く頭を下げた私にプチミタン副団長が優しく声を掛ける。
「こちらこそありがとうございました。次の視察も頑張ってくださいね」
「…リアノさん」
パランドラタ騎士団長が小さな声で私の名前を呼んだ。
「はい」
「…これを差し上げます」
渡されたのは、シルバーのブレスレット。
「これは…」
「…闇の魔力を封じ込めています。…この先、大きな力と戦う際にリアノさんを守ってくれますので…」
「すごい…ありがとうございます!」
「えー、いいなぁ。俺も欲しいんだけど」
「…セノさんには魔力以上の力があるじゃないですか」
「そうですそうです!またお会いできる日を楽しみにしております」
「…お気をつけて」
「2人も元気でな。じゃ、また」
私とセノさんはシーアに乗り、雲ひとつない空へと飛び立った。




