異なる理想
1週間後、パランドラタ騎士団長率いるノシュパープル騎士団は、森に向かって馬を走らせていた。私とセノさんもシーアに乗り後を追いかている。
「あー、飯食い過ぎたかも。動けっかなー」
全員が緊張した面持ちの中、セノさんだけはいつもと変わらない。その姿が私に安心感を与える。
「吐かないでくださいよ?」
「はいはーい」
森に近づくと、空に鳥類型のモンスターが10体以上バサバサと激しく音を立てて飛んでいた。体が光っているということは、魔力モンスターに違いない。
「ほらー、トラちゃん以外もいるじゃん。シーアちゃんと来てよかったねー」
万が一空中戦になった際も対応できるように、セノさんはシーアを連れて行くと早い段階で決めていた。
私の後ろから弓を構えるセノさん。
「とりあえず、下に落としとくか」
今日セノさんが使用する剣や矢には、パランドラタ騎士団長の魔力を纏わせている。自分の体から離れた武器に魔力を纏わせるのは、簡単な事ではないらしい。
シュッ…シュッ…
セノさんの弓から放たれた高速の矢が魔力モンスターの首元に次々と突き刺さった。
魔力の矢を扱うセノさんは、ある種本人の希望通り魔術を使えている。つまり、神の領域に近づいているのだ。
魔力モンスターが下へ落ちていくのを確認しながら、私とセノさんもパランドラタ騎士団長のいる地上へ降り立った。
落ちてきた魔力モンスターをプチミタン副団長が剣で素早く仕留めている。辺りの葉っぱや近くにいる私達の髪が強風で激しく揺れた。
…これが風属性の威力。
「お見事ですねぇ」
森の奥から何十体ものトラ型やクマ型の魔力モンスター達を引き連れたピクシズム前副団長が姿を現した。
「ピクシズムさん……」
プチミタン副団長や騎士達はピクシズム前副団長を見て、心のどこかで嘘であってほしいと願っていた気持ちが砕かれてしまい、複雑な表現を浮かべた。
「久しぶりだねぇ、プチミタン。お前の副団長姿が見られて嬉しいよ」
「どうして…どうしてなのですか…」
「ノシュパープル騎士団、またの名を“神秘共同体”に身を置く人間が魔力の可能性を、魔術に対する努力を、武器なんかに潰されていいわけないだろう?殺すはずだったモンスターをコントロールし、仲間に出来る事が証明された今、魔術以外の必要性を感じないのは当然だ」
「魔力の凄さ、素晴らしさは十分理解しているつもりです。…ですが、騎士団から武器を取り上げる理由にはなりません。あなたのように魔術の上級者でなければ、モンスターを操る事は不可能なのです」
「魔力としっかり向き合わないから、いつまで経っても中途半端な魔術騎士で終わるんだ。魔術だけを極める事で、将来この国を守るのはノシュパープル騎士団だけになるんだよ」
「…国を守りたい気持ちは、どの騎士団も同じだ。…魔術の成長が遅い人間が最前線で戦うためには武器や体術も必要に決まっている」
「パランドラタ騎士団長、そんな甘いお考えは捨てたらどうですか。ご自身がお強いからと、他の者の魔力を伸ばす努力をしないなんて、ノシュパープルの騎士団長としては失格ですねぇ」
…っ。そんなことない。パランドラタ騎士団長は立派な…っ
私が言葉を発する前に、セノさんが口を開いた。
「オマエなら良い騎士団長になれんの?仲間に寄り添えねぇのに」
「……従士ですらないアナタに何がお分かりに?……さて、無駄話もここまでにしましょう」
ピクシズム前副団長が手に杖を持ち、合図を出すと魔力モンスター達が一斉にこちらへ猛スピードで迫ってきた。
セノさん、パランドラタ騎士団長、プチミタン副団長は1体に対し1人で対応し、残りの騎士達は複数名ずつで1体に攻撃を始める。私はシーアに乗り、空中から弓矢で狙っていくことにした。
✳︎
セノさん達3人が次々と魔力モンスターを倒す中、騎士達は苦戦していた。
「ぐっ…!」「…おりゃー!」
剣は上手いのに魔力が足らず致命傷を負わせられない。魔術は強力なのに剣の動きが鈍くダメージを与えきれない。
やっぱりあの短期間じゃ、実戦に対応できるほどのレベル上げには限界があったのか…。
「…代わる」
パランドラタ騎士団長は仲間に代わって、魔力モンスターの息の根を止めていった。
パランドラタ騎士団長の攻撃は凄く強いのに、とても静かで不思議な気持ちになる…。
魔力を纏った並レベルのモンスター相手に絶えず攻撃出来ているのは、パランドラタ騎士団長が闇属性だからだけではない。築き上げてきた剣術が合わさっているからだ。
「な、なんだ…!?」
騎士の驚く声がしたため確認すると、キツネやシカ、フクロウなど森の動物たちが数えきれないほどの数で姿を見せた。
何で動物たちが……ん?目が不自然に光っている?
突如沢山の動物たちが騎士達に突進していき、噛み付いたり、引っ掻いたり、ひっきりなしに攻撃を始めた。
もしかして……
「動物にまで魔力を利用したのですか!」
プチミタン副団長の言葉にピクシズム前副団長は淡々と答える。
「最初は動物で実験したのさ。動物を魔力でコントロールするのは想像以上に簡単だった。モンスター相手は少々手こずったけどねぇ」
あの動物たちは、自分の意思無く猛攻しているってこと…?…そんなの酷い。
動物が出てきたことで、魔力モンスターはセノさん達3人、動物たちは残りの騎士で対応することになった。
シーアに乗る私は空から全体の動きを確認しながら弓矢で敵を狙っている。
この距離なら小さな動物を狙うよりもモンスターを狙った方が…
「ところで…アナタは何者でしょうか」
…ゾクッ…
突然、私の背後にドラゴンイーグルに乗ったピクシズム前副団長が現れた。
「……。」
至近距離にきたピクシズム前副団長は不気味さが増し、私の身体は嫌な緊張感に包まれる。
「見たところ魔力は無さそうですねぇ。…まぁ、ちょうどいい」
ピクシズム前副団長が杖の先を私に向けた。
え…なに……
「魔力の無い人間にも力を与えられたら最高だと思いませんか?」
もしかして…人間にも魔力を利用しようと考えている…?その実験を私で……
「お嬢ちゃん…っ!」
下からセノさんの叫び声が響いた。
クマ型の魔力モンスターの相手をしながら空にいる私のことを気にかけているセノさん。
「ほぉ…セノさんの知り合いですか」
「…弟子です」
「弟子?…困りますねぇ、あのお方が弟子をとるなんて、無駄な剣士を増やすだけじゃないですか。…アナタも早く魔力に染まりなさい…」
杖から眩しい光が飛び出した。
…っ!
私が指示を出す前にシーアが光を避けてくれたおかげで、危機を免れた。
「…シーア、ありがとう!」
「なかなか優秀なドラゴンイーグルですねぇ」
私は弓矢を仕舞い、鞘から剣を抜いた。
接近戦なら剣で対応しなきゃ。…最近の空中戦は弓でしか戦っていないけど、後ろに乗せたセノさんの剣の扱いは何度も見てきた。セノさん達に頼れない今、私がやるしかない。たとえ相手が強敵だとしても…。
「いくよ、シーア…!」
シーアの甲高い鳴き声を合図にピクシズム前副団長の周りを右往左往飛び回り、攻撃のタイミングを見計らう。
武器が不要と言い張るぐらいだから、おそらくあの杖以外は何も攻撃出来るものは持っていないはず…。
「おりゃーー!」
シーアごと近づき何度か斬りかかったが、さすが元副団長だ。ドラゴンイーグルに乗りながら軽々避けられてしまった。
弓矢に切り替えて遠距離で攻撃した方がいいかもしれない。
私は剣を鞘に戻し、再び弓を構える。
あの杖を狙えば…
空中を旋回しながら立て続けに矢を放ったが、またも避けられてしまう。
次の瞬間だ。
…っ!?
肩に何かが当たり、その強い衝撃と痛みでバランスを崩した私は、背中を下にした状態でシーアから身体ごと落ちてしまう。
……え……
「心外ですねぇ。武器が無いから遠距離戦が不利だと?勝手に決めつけられては困ります」
杖を私に向けているピクシズム前副団長の姿が目に映る。
嘘…遠隔は使えないはずじゃ……
そんな事を考えている間に杖から出る眩しい光が私めがけて容赦なくいくつも飛んでくる。
「…ゔっ……ぐわぁっ…!」
「キィーーーーー」
私を助けようと飛んできたシーアの体にも光の魔術が当たってしまう。
このまま攻撃を受けながら地面に落下したら…私もシーアも死んでしま…っ
閉じていく瞳に、高速で空へ進んでいく紫に光る矢が数本映り、私の体は地面に落下せず誰かにキャッチされた。
「よく頑張ったじゃん」
地上で私を受け止めてくれたのはセノさんだった。
「…セノ…さん…」
「後は俺がやるから…ぜってぇ死ぬなよ」
「…はい」
大丈夫。セノさんがいれば必ず勝てる。




