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裏切り


 ノシュパープル州の森の奥。魔力を持ったトラ型モンスターをセノさんとパランドラタ騎士団長が討伐中、1人の怪しげな男が現れた。


 戸惑う私に対して、パランドラタ騎士団長が呟いた。


「…ピクシズム……彼は、前副団長です…」


 えっ…!?前…副団長…?


「お久しぶりです、ゾッチ騎士団長。…ナヨナヨしたお身体なのに、剣も魔力も素晴らしいままなんですねぇ」


「……。」


「おや…誰かと思えばセノさんじゃありませんか。どうしてアナタがここに?」


 あ、セノさんもこの人のことを知っているんだ。


「久しぶりじゃん、ピクシズム。君こそ、こんな森の奥で何してんの。俺みたいに自給自足生活?……つーか、そのトラちゃん飼ってるわけ?」


 セノさんからの問いかけに口角を上げたピクシズム前副団長。


「そうですねぇ…飼い慣らしている、といったところでしょうか」


「へぇ。人を襲おうとするなんて、躾けがなってねぇんじゃねーの?」


「武器を持つ者は殺すように…と教えていますから」


 そう言ったピクシズム前副団長は薄っすらと微笑んだ。


「…。」


 なんでそんな事を…。そもそもモンスターを魔術でコントロール出来るものなの?


「何の目的でそのような事をしている…」


「決まっているじゃないですか。…魔力の可能性を止めない為ですよ」


「…。」


「ノシュパープル騎士団に剣も弓も必要ないんです。魔術だけを駆使して戦えばいい。武器を極めるなんて、魔力の無い他の騎士団がすればいいことでしょう」


 武器を持たない騎士団を作りたいってこと…?


「今日はこれ以上お2人と戦うつもりはありません。この数では、お強いアナタ達に敵いませんからねぇ。また後日ゆっくりお会いしましょう」


 ピクシズム前副団長は、モンスターと森の奥深くへと消えてしまった。


 ✳︎


「ピクシズムさんが……」


 団長室で一連の出来事を聞いたプチミタン副団長は言葉を失っていた。


 ピクシズム前副団長は、2年程前に突然退団したそうだ。その後ずっと音沙汰が無く、どこで何をしているのかは誰も知らなかった。一部では、ノシュパープル州から出て行ったのではないかと噂をされていたらしい。


「…数年前に騎士入団の魔力審査基準を下げたのも、剣術よりも魔術の稽古を優先したのも…全てピクシズムです」


「その頃から魔術のみで戦う騎士団の構想を練ってたわけかー。でもアイツ、剣術も弓使いもすごいよね?」


「はい。ピクシズムさんは、中型モンスターに対して魔術無しでも勝てるほど剣も弓矢も凄腕です。それと同様に魔力の力も凄まじい人でした」


 副団長になれるほどの人だから、剣術も魔術も相当なレベルなのは当たり前か。


「ピクシズムの魔力ってなんだっけ?」


「光属性です。パランドラタ騎士団長の闇属性と相反するものなのですよ」


 闇と光は魔力の中でも特に強力な属性だと聞いたことがある。


「誤解のないように言っておきますが、闇や光の属性だからといって、必ずしも強いという訳ではありません。元々の素質も関係しますし、魔力を最大限までに上げる為の訓練を積み重ねて強くなるのですよ。ひとつ前の騎士団長は水属性でしたから」


 前の騎士団長は、父さんの飾っている写真に一緒に写っていた人だよね。水色の髪で、片目が前髪で隠れていた気がする。


「あー、あの騎士団長強かったねー」


 トップレベルの魔術師に属性は関係ないってことか。


「あの…いくら魔術が強くても、モンスターを自由自在に操れるものなんでしょうか?」


「うーん…そもそもうちの州では、命ある生き物に魔力を使う事は禁止さているのです。そのため、動物を魔力でコントロールしたという事例もありません。ただ……ピクシズムさんの魔術であれば、モンスターを手懐けることも可能かもしれません」


 ピクシズム前副団長は、州内のタブーを犯したんだ。そうまでして魔力だけの騎士団を作りたい真意は何なんだろう…。


 †


 2日後、私とセノさんは騎士団本部の食堂で昼食を頂いていた。団員の方々とは時間差で食べ始めたため、他の席には誰もいない。


「皆さん、剣術の訓練に対する意識が変わってきましたよね」


「そだねー」


 騎士団員の方達にもピクシズム前副団長と魔力モンスターのことは報告されている。自分達が尊敬し、お世話になった人間の予想外の裏切りにショックを受けている人が大半だった。しかし、落ち込んでいる暇はない。現実を受け入れ、己の技を磨いて強くなる…それが騎士として今やるべき事だ。


「訓練に集中しつつ、いつ魔力モンスターを引き連れて来るのか、皆さん内心ソワソワしていると思います」


「んー、向こうからは来ないんじゃない?」


「え」


「ヌブルー州に襲来したバードイーヴィルと違って、騎士団本部にわざわざ来たりしない気がすんだよなぁ。多分、こっちがあの森に行くまで何もしてこねーと思うから、ある程度の準備をして退治しに行くのが最善でしょ」


「どうして何もしてこないと思えるんですか?」


「どうしてって…勘に決まってんじゃん」


「…。」


「こっちが準備する間に向こうも勝つ為の備えをするのは気をつけねぇとな。手懐けてるモンスターもあの2体だけじゃねーと思うし」


「えっ、あの2体以外にもいるってことですか!?」


「そりゃあ、いるでしょー。あのピクシズムがたった2体だけで騎士団相手に挑んでこないだろ」


 2体だけでも恐ろしかったのに、魔力モンスターがまだいるかもしれないんだ…。


「やっぱ俺もゾッチに稽古してもらって、魔術使えるようになるしかねぇかー」


「それは諦めてください。…光属性と闇属性は相反するってプチミタン副団長が言ってましたけど、ゾッチ騎士団長とピクシズムさんの魔術がぶつかり合った時、どちらが有利なんでしょうか」


「持ってる魔力自体は年取っても無くならねーけど、魔術は剣と同じで訓練したり使ったりしねぇと弱くなるらしいよ。…では問題でーす。今この国で魔術がものすんごく強い3人がいる。1人は…?」


「…パランドラタ騎士団長」


「そ。んじゃ、残りの2人は誰だと思う?」


「えっと…プチミタン副団長ですか?」


「プチミタン君も相当強いけど、上位3人には入らねーかな」


「…あ!前の騎士団長ですか?水属性の」


「正解。…つーことは、残りの1人は…」


「……ピクシズムさん」


「そゆこと。んじゃ、次の問題。その3人が魔力纏った剣で戦ったら誰が勝つでしょーか」


「…え、それは…」


 パランドラタ騎士団長は闇属性、ピクシズム前副団長は光属性、前騎士団長ほ水属性……。属性だけでいえば水属性が不利。だけど、剣術は誰が得意なんだろう。


「…想像がつきません。誰なんですか?」


「…え、俺も分かんない、あはは」


 セノさんは呑気に笑っている。


「…。」


 すぐふざけるんだから…。


「でもまぁ、今ノシュパープル騎士団への想いが1番強いのは、ゾッチだろうな」


 それはすごく分かる。ピクシズムさんと最悪の再会をした日から、パランドラタ騎士団長は誰よりも訓練を積んでいる。そして、魔力モンスターを討伐する為の作戦を練り、ピクシズムさんの悪事を止める策を考え、団を守るために寝る間も惜しんで動いていた。


「…セノさん」


 ちょうどパランドラタ騎士団長が食堂に入って来た。


「お疲れー」


「…お疲れ様です。…あの…視察の滞在を延期してもらうことは可能でしょうか?……1週間後に森へ行こうと考えています」


 1週間後……その間にどこまでレベル上げが出来るのか未知数だけど、最悪の事態を防ぐためにはモタモタしている余裕はないよね。


「うん、いーよ」


「…ありがとうございます」


 私も足手纏いにならないように、もっともっと技を磨かないと。


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