無駄遣い
ノシュパープル州の主要都市観光を楽しんだ私とセノさんは、プチミタン副団長と一緒に騎士団本部へ移動し、団長室へ向かった。
入室した私は、またもや耳に全神経を集中させる。そして、日中とは思えないほど負のオーラを放つパランドラタ騎士団長の口元をじっと見た。
「…お疲れ様です。観光はいかがでしたか?」
「うん、相変わらず独特な雰囲気で面白かった。あとスープがとんでもなく美味かったわ」
どうしてセノさんは普通に会話出来てるわけ?一体どんな聴力してるのよ。
「それは良かったです。…これから稽古場に移動してもらい、団員の剣の扱いを見ていただきたいです」
プチミタン副団長が言っていた剣術レベル…どの程度なんだろう。
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稽古場では8名の若い騎士が素振り中で、真剣な表情で木剣を振るっていた。
セノさんはその様子を少し見た後、隣に立つ私に聞いてくる。
「まだ素振りしか見てねぇけど、どう思った?」
騎士の方々に対して偉そうに意見できる立場じゃないのは理解しているけど、客観的に技の善し悪しを判断する力も大切なことだと思う。グリーンメアでの訓練、毎日の素振り、目の前で見たセノさんや各騎士団長の剣術…私の目は日々肥えてきている。
「素振りだけで断言は出来ませんが、魔術の使えない状況で敵と対峙した際に今の動きだと……死にますね」
自分の口から出た残酷な言葉に多少驚いたが、プチミタン副団長が危惧していたことに納得した。
「だよねー」
どうやらセノさんも同じ見解のようだ。
「そうですよね」
私達の会話にプチミタン副団長も加わる。
「今朝お伝えしたように、一部の若手騎士の剣術レベルが問題でして。…正直他の騎士団の従士や騎士候補生よりも低いレベルかもしれません」
「でもこの子らって、魔術はすげーんでしょ?」
「はい。ここにいる騎士は魔力の属性は異なりますが、魔術面に関しては平均以上なのですよ」
「なるほどねぇ。魔力ってさ、木剣にも合わせられるんだっけ?」
「出来ますよ」
「んじゃあさ、魔力有りでやり合ってもらっていい?」
魔術を用いた剣術…どんなものなんだろう。
プチミタン副団長指示の元、代表2名による手合わせが行われた。1人の騎士の木剣は赤く光り始め、もう1人の騎士は木剣にバチバチとした光を纏わせた。
すごい迫力…一気に強さが増したように感じる。
「右の彼は炎属性、左の彼は雷属性です」
炎と雷…。どっちが強いんだっけ…?
2人の剣が激しくぶつかり合う。その度に光が眩しさを増した。
「……。」
おそらくセノさんも私と同じことを思っているはずだ。
“魔力の無駄遣い”
せっかくこれほどの魔力が扱えるのに、剣の動きがこれでは何の意味もない。
1分ほど観察したセノさんは、パランドラタ騎士団長に問いかける。
「なぁ、ゾッチ。剣が上手くて魔力の弱い奴と剣が下手で魔力の強い奴が交戦したらどっちが勝つの?」
「…それは…剣の方が有利かもしれません」
「ふーん」
✳︎
夜、騎士団本部の最上階にあるルーフバルコニーで、パランドラタ騎士団長、プチミタン副団長、セノさんの3人が今後について話し合いをしているのを傍で聞いていた。
「俺は魔術のことは詳しくねーけど、魔術も訓練を積めば多少は強くなったり扱いが上手くなったりすんだよな?」
「はい、そうです。ただ、魔力のレベルアップは時間がかかるのです。それに、元々の魔力を底上げするのには限界があるのですよ」
「なるほどねぇ。俺自身はどこにも属してねーし、魔術も使えねーから大したこと言える立場じゃないんだけどさ、団員全体のレベル上げすんなら剣術、弓使い、体術を突き詰めるしかねぇよ。…つーかさ、勿体ねぇとか思わないわけ?もし騎士達がゾッチやプチミタン君みたいに魔術も他の技も使いこなせたら、レッドキンやグリーンメアよりも最強の団になれる可能性あんのにさ」
それは私も同感だ。他の州にはない魔術で剣や弓を駆使すれば、どんな敵にも負けないだろうに。
「…仰る通りです。…一昔前は騎士になる為の魔力や剣術の最低ラインが決められていて……なので皆同じように魔術や剣術の稽古を積み重ねて強くなっていきました。もちろん、根本にある魔術の差は出てくるので、高度な魔力を持つ者は団長候補になります。…しかし、魔力があればいいという曖昧なルールになった時期があり…」
パランドラタ騎士団長の声はどんどん小さくなる。
「…。」
きっと昔は、騎士になる人の魔術や剣術のレベルが今よりも高くて、もっとまとまりがあったのかもしれない。
オレンジブラウン騎士団も内部の実力格差に悩んでいたけど、それとはまた別問題な気がするなぁ。
†
数日後、私とセノさんはパランドラタ騎士団長と一緒に州の中央に位置する森へ足を運んだ。日中にも関わらず、森の中はどんよりと薄暗く、不気味な雰囲気を漂わせている。
わざわざこんな森へ来て、何をするんだろう…。
歩き始めて10分ほど、かなり奥の方までやって来た。
ガサッ……
木の影から黒い何かが唸り声を響かせながらゆっくり近づいて来る。私達は鞘から剣を抜き、足に力を入れて構えた。
2体並んだ大きな体は黒の体毛で覆われ、白の縦模様がよく目立つ。鋭く尖った牙や爪。目はギラリと光っている。初めて見たけど、これは……
「トラ型モンスター…」
のはずなのに、何かか違う。
そう思った瞬間、モンスターの体が強い光に包まれ、毛が逆立ち始めた。
なに…!?さっきまでと様子が…。
「こいつかぁ…サータシが言ってた魔力モンスターってやつは。迫力すげー」
私の横に立つセノさんの口から聞き慣れない言葉が出てきた。
…え、魔力モンスター?
「…ご存知でしたか…」
「ホワイトダラの騎士団長にさ、ノシュパープルで変なモンスターの目撃情報があったのが気になるって言われてたんだよ」
セノさんとサータシ騎士団長が2人きりで話していたあの時か。
「…数ヶ月前から周辺に住む市民の方々から、今までのモンスターとは違った奇妙な鳴き声が聞こえた、森の近くを歩いていたら光る大きな動物か何かを見かけた、との情報が寄せられていました。何度かプチミタンや他の団員と見回りに来たのですが、その際は何も現れなくて…」
「んで、やっとお出ましになったってことか」
「…はい」
「もしかして…モンスターが魔力を使えるということですか?」
「…魔力を持ったモンスターは今まで存在した事がありません。モンスターが自発的に魔力を生むことは不可能なはずです…」
「じゃあ、人間の手によって魔力と合体したってわけね」
「え…」
「ま、この話は後にして、とりあえず目の前のコイツらを倒すか。ゾッチ、そっち頼むねー」
「…はい」
手に持つ剣だけでなく、パランドラタ騎士団長の全身が紫がかった光に包まれていく。
すごい…こんな強い魔力初めて見た。
「お嬢ちゃん、俺とゾッチで対応するけど、まだ仲間がいるかもしれねーから、周り警戒しといて」
「はいっ」
セノさんとパランドラタ騎士団長は、襲いかかってこようとするモンスターめがけて走り出した。
✳︎
「魔力ってほんと厄介だねー」
セノさんが驚異的なスピードで何度か斬りかかったが、魔力を纏うモンスターにダメージを与えるのは通常のモンスターよりも難しいみたいだ。
いつもなら、今の数回で倒せているのに…。
視線をパランドラタ騎士団長に移すと、俊敏な動きで攻撃を繰り返していた。
本当にこの人が騎士団長なのか不安に思っていたけど、無駄のない剣使いは団長レベルで間違いない。そして、その剣にトップレベルの魔術が加わり、圧倒的な強さが完成されている。
魔術ってこんなにも強力で、恐ろしいんだ…。
セノさんとパランドラタ騎士団長が再び斬りかかろうとした時、攻撃態勢だったモンスター達が突然動きを止め、後ろに引き下がった。
…え、どういうこと…。
「相も変わらず、小さな声ですねぇ」
…っ!?
真っ黒なロングコートに身を包み、曲線の剃り込みが入った坊主頭の男がモンスターの背後から静かにこちらへ歩いて来た。
……誰?
「…ピクシズム……彼は、前副団長です…」
えっ…!?




